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第29話 空戦

2023年9月7日pm1:30  アルプス01 C-2までの距離30km地点上空(加藤一尉視点)


「はぁはぁ……畜生! しつこすぎるだろ!」


 悪態をつきつつ操縦桿を左に倒す。雲が厚いためか、敵機の姿を直接視認することはできない。

 しかし、そんな悪天候の中でもF-35jに搭載された合成開口レーダーはしっかりと敵を捕らえて、ヘルメットのバイザーに映るターゲットコンテナが敵の位置を教えてくれた。


「クソ、まだ後ろにつかれてるのか」


 旋回して巴戦に持ち込むか? いや、敵機は二機いる。単純な巴戦では敵の二番機に一方的に撃たれてしまう。


「それならっ」


 アフターバーナーを全開にする。


「これるもんならやってみろ!」


 瞬く間に機体は音速を超える。

 音速を超えればミサイルの弾頭が過熱してしまい、赤外線ミサイルのシーカーが機能しなくなりロックオンできなくなる。

 それがたとえ最新鋭のステルス戦闘機であっても例外ではない。ステルス戦闘機の場合、音速を超えるとミサイルを格納するウェポンベイが開かなくなるのだ。


 そうなれば敵は唯一の攻撃手段となる機関砲による攻撃を敢行するはずだ。機関砲はその単純な構造故にあらゆる妨害装置による欺瞞に惑わされづらく、どんな状況でも射撃することができるのだ。


「よし、そのままついてこい」


 敵機がしっかり喰らいついてるのを確認してから、アフターバーナーをつけたまま敵機が追尾してくる方向に最大Gで旋回をかける。とっさの行動であったのが功を奏し、敵は俺の機体を追い越した。いわゆるオーバーシュートというやつだ。


 こうなればこっちのものだ。

 このままの状態を維持するためシザース機動をとり敵機の後方を占位する。

 度重なる高G旋回によって、機体は既に亜音速まで速度が落ちている。ウェポンベイが開き懸架されたAAM-5短距離空対空ミサイルが敵を捕らえる。後はトリガーを引けば敵を撃墜できる……と思っていた時だった。


「バカなっ! どこに消えた!?」


 驚きのあまり硬直してしまった。その一瞬の硬直が命取りになった。

 コックピット内にけたたましい警報が鳴り響く。ミサイルアラートだ。

 俺はとっさにエンジンの出力を落とし、太陽のほうに機首を向けフレアをばらまいた。









2023年9月7日pm1:35 ”いずも”CIC (古賀海将視点)


「司令、こちらが行われるはずだった日米合同演習の演習計画書です」


 要撃に上がったF-35が彼我不明機と交戦状態に突入した時から不明機の所属を調べ始めていたが、不明機がレーダーに映らなかったことから俺の中で一つの仮説が出来上がっていた。

 答えはこの計画書に記されているはずだ。


 演習計画書を広げ、本演習に参加予定の作戦機を調べる。

 C-2輸送機が2機、F-15j戦闘機が4機、F-2支援戦闘機が2機、そしてF-35j戦闘機が2機。


 この瞬間、仮説は確信へと変わった。


「船務士、ちょっと無線を貸せ!」


 驚く船務士から半ばひったくるように無線を取り上げ、周波数を国際緊急無線に切り替え無線に怒鳴った。


「現在交戦中の航空自衛隊機へ。直ちに攻撃を中止せよ! こちらは海上自衛隊である。命令に従わなければ撃墜する! 繰り返す、現在交戦中の……」


 古賀によるこの発言はCICにいた全員を、否……通信を聞くことができた陸自各部隊指揮官をも驚愕させた。


 それも当然である。古賀以外の人間には、今にも撃墜されようとしている友軍機に対して攻撃中止を命令したように解釈されたからだ。


 CICで状況を見守っていた砲雷長が慌てて抗議しようとした時、彼我不明機から無線が入った。


「こちらゴースト01。直ちに攻撃を中止し貴艦隊の指示に従う」


「ツゥー」


 これには砲雷長も驚きを隠せずにいた。

 何せゴースト01などと言うコールサインを持った機体はこの艦隊には存在しないのだから。


「司令。これは……一体どういう事ですか?」


「本演習に参加する空自機は加藤一尉を含めて全部で5機。そのうちグアム経由でハワイに向かうのは4機。その編成は百里基地所属のC-2輸送機2機、F-35j戦闘機2機だ。本艦がレーダーで捉えたのはC-2輸送機2機、E-2C早期警戒機、それと加藤一尉からの報告で推定2機の敵機と交戦中だそうだから普通に考えて交戦中の目標は空自のF-35jということになるだろ」


「はぁ成る程。それで、あの目標が敵でないと分かった今、あの空自機をどこに着陸させますか?」


「う~ん……輸送機と早期警戒機は陸さんの滑走路に降ろせないかな?」


「まだ完成途中ですが大丈夫でしょうか?」


「輸送機のパイロットに問い合わせろ。それと伊藤一佐に滑走路の使用要請」










2023年9月7日pm1:45  幻想駐屯地 仮設司令部


 天幕で仕切られた仮設の指揮所は、先程から駆け回る幕僚たちの姿でごった返していた。


「伊藤一佐、”いずも”から通信です。『そちらの滑走路に3機ほど緊急着陸させたい』との事ですがいかがいたしますか?」


 連隊の情報をつかさどる2科長が、慌てた様子で連隊長のもとに駆けてきた。


「緊急着陸? 了解した。使用許可する。滑走路に展開中の隊員を至急退避させろ!」


「了解」









2023年9月7日pm1:55  ”いずも”CIC


「陸の滑走路の使用許可出ました」


「空自機全機F-35jに従い滑走路に向かっています」


「よし、2機の戦闘機はこっちに下ろす。甲板を開けろ、格納庫に入りきらないやつは空中退避させろ」










 2023年9月7日pm2:05 幻想駐屯地から20km上空 (加藤一尉視点)


 無線での警告を受けると彼我不明機、もとい空自のF-35jは編隊を組みC-2などの非武装機を護衛しつつ目的地に向けて飛行を始めた。


「輸送機と早期警戒機は陸の滑走路に着陸させますが戦闘機は”いずも”に着艦させるそうですので、そのつもりでお願いします」


「了解した」


「助かります。それでさっきも言ったんですが、陸の滑走路はまだ建設途中で長さが足りてないんですよ。こんな状況でもC-2って着陸できるんですかね?」


「見てみないとわかりませんが、どうにかしてやりますよ」


「流石ですね」


 パイロットからの返答に頼もしさを感じながら誘導を続けた。



用例解説

巴戦...ドックファイトのこと。互いに旋回して相手の後ろに着こうとすること。


投稿ペースを維持するために文字数が少なくなりそうです。あらかじめご了承下さい。

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