第28話 自衛隊第二陣幻想入り
2023年9月7日pm2:45 駐屯地敷地内
「小隊長、俺達はあとどれくらいの土地を整地しなきゃいけないんですか?」
うだるような暑さの中、迷彩服姿の自衛官達は工具を手に整地作業に従事していた。
9月に入ったとは言え、近年の異常気象はここ幻想郷の気温をも変質させているようで、まだまだ暑さが衰えることは無い。
「終わるまでに決まってるだろ。そんなことを俺に聞くな」
木島は額の汗をぬぐいながら、部下からの問いを苛立ち紛れに一蹴する。
やっとのことで終わった護衛艦の甲板掃除から休む暇もなく、野戦飛行場の設営作業に駆り出されたのだからその苛立ちも仕方が無いものではある。
「でも全隊員で5日前から作業してるんですよ」
それでも山本一曹は彼の苛立ちを意に返すことなく、不満と共に言葉を続ける。不機嫌な上司に物怖じしないでいられるのも、木島三尉の性格をよく熟知しているが故である。
「中隊長が言うには4分の3は終わったらしいから明日には終わるんじゃないか」
破天荒ではあるが、木島三尉は基本的に職責に忠実である。幹部の職責とは部下を上手く扱うことの一点に尽きる。
そういった事情もあり、三尉は今行っている業務について開示可能な情報は、積極的に話すタイプの上官であった。
まぁ、この時ばかりは彼にも作業終了の目途など知らされていないから、話せることなど推測以外には殆ど無いというのが実情であったが。
その時だった。
駐屯地内に退避を促す警報が鳴り、各部隊指揮官の無線が一斉に空電を発したのは。
警報の理由を説明するために少し時間を戻そう。
2023年9月7日pm1:00 イージス艦”みょうこう”CIC
「何だこれ? 砲雷長ちょっと」
「どうした?」
太陽が照りつく外の高温とは対照的に、エアコンの効いたCICは快適そのものである。
燃料節約の為に訓練も少ない今の護衛艦勤務は、設営作業に駆り出されている陸自部隊のそれに比べて職場環境は良好そのものだ。
「国際緊急周波数を傍受しました」
しかし、存分に暇を持て余せることができた優雅な時間は、電測員の一声で終わりを告げた。
「国際緊急周波数だと? 確かか?」
「121.5で呼びかけてきています。間違いありません」
怪訝な表情を浮かべる砲雷長の問いかけに対して、電測員は間髪入れずに肯定で返す。
「その目標の位置は分かるか?」
「本艦2時の方向 距離1500 機数3」
「よし、通信士”いずも”に繋げ。至急だ!」
2023年9月7日pm1:00 ”いずも”艦橋
「彼我不明機だと?」
艦橋の一角に設置された司令官用の椅子に腰掛けていた古賀海将は、怪訝そうに報告者の秋津艦長を見上げた。
「はい、つい先ほどみょうこうが探知しました。国際緊急周波数でこちらに呼びかけています」
「不明機の所属は分かったのか?」
「無線では航空自衛隊百里基地所属を名乗っているようです」
「百里だと!? まさか、我々意外にも幻想郷に迷い込んだのか?」
驚きのあまり声が大きくなったのだろう。当直士官が驚いたように視線を向けた。
「不明です。無線では安全地帯への誘導を要請しているようですが」
「分かった。空自にスクランブルを要請する。速やかに機影を確認し、駐屯地臨時滑走路へ誘導せよ」
「了解しました。私はCICで指揮を取ります」
「よろしい。私もCICへ降りる」
席を立ち、艦長と共にCICへと続くタラップへと歩き出す。
「司令、艦長降りられます!」
当直士官の声を背に彼らはタラップを駆け下りた。
2023年9月7日pm1:05 ”いずも”搭乗員待機室 (加藤一尉視点)
「加藤一尉、いらっしゃいますか?」
「どうした海曹? そんなに慌てて」
最近よく話すようになった海曹が慌てて飛び込んでくる。
何かがあったのだろうか?
「古賀海将より航空自衛隊に対してスクランブルの要請です」
「了解した。機体の準備は?」
「できています。すぐに飛行甲板へ!」
2023年9月7日pm1:10 ”いずも”飛行甲板(加藤一尉視点)
普段は駐機してあるヘリなどは全てどかしているようで、今日の飛行甲板はいつもよりかなり広く見える。艦尾に駐機された戦闘機のコックピット内で、俺は着々と発艦準備を整えていた。
「アルプス01フライト・クリア・フォー・テイクオフ・ウインド・スリースリーゼロ・ディグリーズ・アット・ワンゼロノッツ」
海自の管制官からの指示だ。アルプス01に離陸を許可。風向は330度、風速10ノット。
原隊である新田原の管制官に比べるとおぼつかない英語であるが今は仕方ない。
「アルプス01フライト・クリア・フォー・テイクオフ」
管制官にそう応じると短距離離陸を開始する。
「アルプス01これより日本語に切り替えて誘導する。戦闘機の誘導は経験がないのでご容赦願いたい」
「アルプス01、了解」
2023年9月7日pm1:00 C-2機内 (機長視点)
頭が痛い。
ここは一体どこだ。ぼんやりする頭を抑えながら、状況を確認すべく周囲に視線を向ける。
周囲にはよく見慣れた計器類に操縦桿。ここは輸送機の中か。
思い出した。ハワイ方面に向けての飛行中、雲に入ってそれで……
「いったい何が……おい! 全員起きろ!」
すぐ真横に視線を向ければ、項垂れて気を失っている副操縦士の姿が目に入った。左手で身体をゆすってやると、彼は気だるげに目を開けた。
「あれ……ここは?」
「わからん。GPSが使用不能なんだ」
「そんな……両機は? レーダーは使えますか?」
危機的な状況を認識したらしく、気だるげだった彼の表情は一瞬にして蒼白になった。
「レーダーは生きてる。だが俺たちを含めて3機しかとらえられない」
「そんな!? あと1機は?」
「慌てるな! 国際緊急無線で助けを呼ぶぞ。メーデーを打て」
空で冷静さを失えば、それはたちまち死に直結するミスに繋がってしまう。パイロットとして、それだけは断固阻止せねばならない。
「了解……呼びかけに反応あり! 両機のC-2輸送機からとあと1機、コールサイン ホークアイ?」
「どこの所属だ?」
「確認します。……航空自衛隊三沢基地 総隊直轄の飛行警戒監視群 第601飛行隊の所属機です」
「馬鹿な! 俺たちの近くに早期警戒機はいなかったぞ」
気を失う前の記憶は混濁しているが、それでも日本から遠く離れた太平洋上を飛行していたのだ。基本的に本土付近を飛行しているはずの空自の早期警戒機と遭遇する筈がない。
「さらにこちらへのコンタクト……これは護衛艦”いずも”?」
「”いずも”だと? ロストしたんじゃなかったのか……まぁしかし、ちょうどいいところにいてくれた。”いずも”の誘導に従って飛ぶぞ」
「了解……そういえば3機目が早期警戒機だとしたらエスコートのF35Jはどこに?」
2023年9月7日am1:30 ”いずも”CIC
『アルプス01 レーダーコンタクト』
「”いずも”了解。目視でコンタクトできしだい彼我不明機を陸自駐屯地に誘導せよ」
「了解した。これより巡航速度にて目標に接近する」
その時、無線越しに断続的な電子音が聞こえてきた。
Gをかけたのだろうか?
答えはすぐに一尉が教えてくれた。
「ミサイルアラートだと!? バカなっ」
信じられない、といった声音で悪態をついてから無線は途絶えた。
「ミサイルアラート? アルプス01繰り返せ。状況を報告せよ! アルプス01!」
「どうした?」
異変を感じたのか、隣でレーダーディスプレイを注視していた古賀司令が近づいてくる。
「詳細不明ですが、アルプス01が攻撃を受けている可能性があります」
非常事態を察したらしく、電測員から無線をひったくるように奪い取る。
「変われ! アルプス01聞こえるか? 古賀だ。状況を報告せよ」
「こち……プス01、現在敵と交戦中……」
高G機動を繰り返しているのだろう。レーダースクリーンに映るアルプス01は、先程から旋回を繰り返している。だが、それ以外の機影らしきものはメーデーを発信している大型機だけだ。
戦闘機のような小型の機体は探知されていない。
「なんだと!? レーダーには映ってないぞ」
「アルプス01急降下、速度上がります」
衛星がないここ幻想郷では戦術データリンクのリンク16が使えない。だから今回のスクランブルでは航空管制用のレーダー反射板をつけている。
それが無ければ今頃、要撃機の位置を見失い艦隊は大混乱に陥っていただろう。
だが、そのせいでF35jが有する圧倒的なアドバンテージである、ステルス性が損なわれてしまっていた。
そうだ。ステルス機ならレーダーには映らない。つまりアルプス01と交戦している敵は……
「まさか……ステルス機か? 訳が分からん!」
「司令、いかがいたしますか?」
緊張した面持ちの秋津艦長の問いに、古賀司令は一拍おいて口を開いた。
「全艦隊に部署発令。対空戦闘用意! これは演習ではない」
いかがでしたか?
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