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第27話 木島の懲罰



2023年9月2日am9:00  "いずも〟 飛行甲板 (木島三尉視点)


「あ゛ぁぁ疲れたぁ……まったく"いずも〟 の甲板は広すぎるだろ! 駆逐艦(DDH)って規模じゃないぞ」


 キツイ日差しと甲板への照り返しを受けながら、俺は手に持っていたデッキブラシを杖替わりに立てかけ額の汗を袖口で拭った。


「国際基準ではDDは駆逐艦の略称ですけど、海自では護衛艦(DD)を表しているので大きさの基準にはなりませんよ。何と言っても本艦は海上自衛隊が運用する護衛艦の中でも最大級で、全長に至ってはかの有名な戦艦大和とほとんど変わらないんですから」


 ホースで甲板に水を掛けながら、木原一尉が苦笑する。飛行訓練が無くて余りにも暇だからと言う理由で、進んで甲板掃除を手伝っている変わり者の幹部だ。

 ついでに言えば、人里に特殊作戦群を輸送したあの腕の良いヘリパイらしい。


 こうして直接見た限りでは、とてもあのパイロットと同一人物とは思えないが……


「もうどっちでも結構ですよ。俺が文句を言いたいのは、このクソほど広い飛行甲板をたった一人に掃除させる上司たちですからね」


「おや? 私は異論はないと素直に処分を引き受けたと聞いていたんですが?」


 どうやら彼もまた詳しい事情を知っているらしい。おおかたリーク元は前回と同じく高橋三佐に違いない。

 次は絶対に同行などさせてやるまいと固く誓っておく。


「そりゃあ確かに言いましたけどね……」


「命令違反に対する罰則ならば、優しいくらいなのでは? パイロットならば、下手すれば飛行停止処分ですよ」


「まぁ、それはそうかもしれないでしょうけど……」


「木島三尉は本当に伊藤一佐から気に入られてるんですね。通常の懲罰だったら第2小隊全員で連帯責任になるところですよ。それを今回は部隊指揮官一人が頑張ればチャラに出来るんですから、優しいもんだと思いますよ。まぁそういう事なので……頑張ってくださいね、小隊長さん」


 この上なくにこやかな笑顔を向けられて、俺は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 そうだ。人里での事件のあと指揮系統の混乱をなくすために、即興の偵察隊ではなく原隊の配置に戻すことになったのだ。因みに俺は第3中隊所属第2小隊の小隊長である。


「はいはい、分かりましたよ。大尉殿」


「おや? 自衛隊には大尉なんて階級は有りませんよ~」


「いちいち口調が丁寧なところもムカつくな、全く」


 それにしても不思議な上官だと思う。おっとりしてそうな外見や口調と、それに反した凄まじい操縦技術……バカに出来ないな。

 まぁ、正確には彼は俺の後輩にあたる訳だが……クソ、降格処分さえなければ今ごろ二等陸佐だったろうに。


 そんなことを考えていた時、背後から半長靴の奏でる固い足音が聞こえた。慌てて振り返れば、そこには良く見知った顔がいた。


「おいおい、サボってたら罰にはならんだろう。喋ってないで手を動かせ!」


 護衛艦の中でもすっかり見慣れた、陸自の迷彩服を肘までまくった姿で苦言を呈したのは伊藤一佐だ。どうやらわざわざ、掃除の様子を確認しに来たらしい。


「すいません。直ぐに」


 伊藤の奴は俺が降格せずに昇進してても上官だったか……

 慌てて手を動かすと、伊藤一佐が片手を挙げてそれを制した。


「いや、実は用事があって来たんだ。掃除は後で良いから、一緒にきてくれ」


「わかりました。今行きます」


 うだるような暑さに内心ウンザリしていた俺は、嬉々としてデッキブラシを放り投げ、彼の後に続いた。







2023年9月2日am9:10 ”いずも”艦内  (木島三尉視点)


「失礼します」


 何も知らされずに扉をくぐったせいか、はたまた室内で待っていた面子が予想以上に豪華だったせいか……俺は一瞬固まってしまった。


「ようやく来たか、木島三尉」


「えっと……何故、古賀海将や各幕僚の皆さんがこちらに?」


 俺は普段から上官に対しても気丈に振る舞ってきたが流石に今回は慌てた。何せ派遣部隊の最高指揮官と各艦の艦長ついでに陸自の各部隊指揮官、階級は見えないが何人か空自の制服も見える。

 こんなにも豪華な面子を前にして、今回ばかりは流石に言葉が丁寧になった。


「もしかして前回の戦闘の件ですか? 始末書は書きましたが……そんなにまずかったですか?」


 呼び出される理由など、それしか思い浮かばなかったのだ。


「たしかに君の戦闘の件はまずかったが、今回は別件だ」


「それじゃあ何の件ですか?」


 違うとなれば、本格的に理由が分からない。


「先日締結された日幻相互防衛協定の内容は知っているな」


「はい、だいたいは……」


「よろしい。あの協定には幻想郷側から武器弾薬を提供させることができるという文言があるのは知ってるな?」


「勿論です」


 ざっと目を通しただけだったが、その文言は覚えている。人里の文明レベルを見た後で、武器弾薬の提供など出来るとは到底思えなかったのだ。


「なら話が早い。文さんから聞いた話だと、我々が生産を依頼するカッパと呼ばれる人たちの設備では、一度にすべての武器を生産する能力は無いのだそうだ。そこで必要最小限の弾薬を選定することになった」


「なるほど。つまり、その必要最低限の弾薬を今から我々が選定すると言うわけですか」


「その通りだ。君にはこの世界で唯一戦闘を行った、普通科部隊の小隊長として関係各隊と共に武器弾薬の選定を行ってもらう。可能な限り汎用性の高いものを選べよ」


 と言うわけで、さっそく俺たちは生産を依頼する武器弾薬の選定に入ったのだが……



「艦長、何故127mm砲弾はダメなんですか!?」


「それはお前、127mm砲弾は”みょうこう”の主砲でしか使えないからに決まっているだろう」


「しかし、我々護衛艦隊がこの幻想郷で最も使う可能性が高いのは主砲弾じゃないですか!」


「むぅ、確かにそれも一理あるか……」


 こんな感じである。全くまとまる気配がない。


「中隊長、うちは欲を言わずに小銃弾と拳銃弾で良いのでは?」


「そうだな、確かに無難な判断だ。一応、他の部隊指揮官とも相談してみるか」



 議論はそんな感じでなかなかまとまらず、各幕僚の懸命な仲裁によってようやく方向性が決まると言う有様であった。




「諸君、予想以上に時間がかかってしまったがどうにか決めることができた。選定の結果決まったのは以下の武器弾薬である」



・5.56mm普通弾 

・9mmパラベラム弾

・12.7mm重機関銃弾 

・20mm機関砲弾 

・84mm無反動砲弾


 以上5種類である。



「取り敢えずこれだけあればやってけるだろう。だが、ここ幻想郷で生き残るにはこれらの武器弾薬を使用しないのが一番である。これは諸君の手腕にかかっている。各員心して任務に取り掛かれ! 以上解散」


「ふぅ、やっと終わったぁ」


 ボヤキながら部屋を退出しようとした時、背後から呼ばれたような気がして振り返える。

 まぁおおかた予想はついたが……


「木島ぁ! 飛行甲板の掃除が終わったら、駐屯地の整地と鉄条網の設置も頼むよ」


 やっぱりか……

いかがでしたか?

ご意見・ご感想・ポイント評価等お待ちしています。

今後も『幻想自衛隊』を宜しくお願いします。

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