表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/104

第24話 暴徒対自衛隊

皆さんお久しぶりです。8月15日となりました70年目の終戦記念日をいかがお過ごしですか?

かなり間が空きましたが投稿させていただきます。今年はほんとに暑いですね。


2023年8月30日am8:30 人里(木島三尉視点)


 特殊部隊を乗せたヘリが高度を下げたとき、我に返った暴徒達の銃が一斉に火を吹いた。

 部隊を降下させるために減速しつつ高度を下げていたヘリに、この射撃を回避する事は難しかったようだ。瞬く間に多数の弾丸が機体に吸い込まれていき金属音を響かせる。


 火縄銃から放たれる球体型の鉛玉は、現代火器で使用される円錐形の弾薬に比べて著しく貫通力が劣る。

 いかに火薬の力によって打ち出された弾丸に違いないとはいえ、ヘリを構成する鉄板を貫徹するようなことはできなかったようだ。

 しかし、それでもティルトローターにでも当たるようなことでもあれば最悪、制御不能に陥り墜落する可能性もある。


「三尉、このままじゃヘリが……」


 言われなくても分かっている。

 佐藤の進言を最後まで聞かずに俺は伊藤一佐に駆け寄った。


「発砲許可を下さい。早くしないとヘリが墜ちます」


「待て、ヘリの高度が低い。今撃てばヘリの風に流された弾丸が民間人に当たる可能性がある」


「んなもん墜落の被害に比べたらコラテラルダメージでしょうが!」


「あぁっ! 墜ちるぞぉ!」


 その時、俺の背後から山本の悲鳴に近い声が聞こえた。

 すぐに後ろを振り返ると、そこには急旋回しながら急降下するヘリの姿があった。


「総員退避、建物の影に隠れろ!」


 伊藤一佐の命令を受け隊員達が慌てて遮蔽物の陰へと退避を試みる。しかし、俺とヘリの距離では到底間に合いそうもなかった。


 俺は次に訪れる未来を予想しながら咄嗟に地面に伏せ来るべき衝撃に備えた。


 だが、その心配は杞憂に終わった。いつまでたっても自分を襲うはずの爆風による衝撃や痛みはやって来なかったのだ。

 状況を確認しようと顔を上げたとき、そこには驚くべき光景が広がっていた。


「何でこんな近くにヘリが……」


 目線の先、先程とは打って変わり僅か高度10m程度の超低空にヘリの姿があった。その高度でホバリングする白塗りのヘリコプターが、暴徒の頭を文字通り抑え込んでいる。

 尾翼に描かれた日の丸と海上自衛隊の文字が、誇らしげに揺れていた。


「クソ、風が強くて前が見えない」 


 暴徒たちの悪態を聞いて、初めて木原というパイロットの凄さが分かった。


「ダウンウォッシュ作戦か……」


 意図的に高度を下げることで暴徒の頭を抑えるだけでなく、火縄銃の再装填に必要な火薬をも風圧で吹き飛ばしてしまうことを意図した作戦を、一瞬で組み上げて実行したのだ。

 操縦の腕もさることながら、判断力もずば抜けている。


「なるほど、海自一のヘリパイの称号は伊達じゃないみたいだな」


 その時、若干のノイズの後で無線に聞き覚えのある声から通信が入った。


『木島一尉、聞こえますか? 特殊作戦群の近藤です。これよりヘリから降下し敵部隊を制圧します。フラッシュバンを使って援護してください』


「おぉ、近藤か! 了解した。これより閃光手榴弾を使用する。それとな、俺の階級は三尉だ」


「失礼しました。木島三尉、宜しくお願いします」


 元部下から頼まれたので何の抵抗もなくフラッシュバンを投げ込もうとして踏みとどまった。

 後ろを振り返り、状況を確認しようと顔を出し始めた山本達にハンドサインを送り対閃光ゴーグルを着用するよう指示をだす。


「畜生、風で火薬が飛んじまう。こんなんじゃ装填できないぞ!」


 暴徒たちはまだ悪態をついている。早いところ逃げ出せばよかったものを……

 山本達がゴーグルを着用したのを確認して、安全ピンを抜いた閃光手榴弾を跳ねとんだ安全レバー共々、暴徒達の足元めがけて投げ込んだ。
















2023年8月30日am8:35 人里(近藤三佐視点)


 元上官と話すのは彼が部隊を離れた時以来だったが、声の感じを聞く限り彼は昔と変わらずにいてくれたようだ。あの事故から彼も立ち直ってくれたのだと思うと嬉しい限りだった。


 それはさておき任務に集中せねばならない。元上官の援護を取り付けておきながら失敗などしたら、それこそ笑いものだ。


 閃光手榴弾で戦闘力を喪失した敵の制圧など我々にとっては造作もないことである。ファストロープ降下に手間取りさえしなければものの5分でカタが付く。


 それに地上からの射撃に冷静に対応するばかりか、逆に暴徒を半ば制圧してしまったパイロットが操る機体だ。パイロットの木原一尉の腕は噂に聞いた以上のようだ。


 もっとも……見事な回避運動の代償として機体は大きく揺れたわけだが、その辺は成果を鑑みて大目に見ることにしている。

 こういった破天荒な操縦方法が彼の評価を分断させている原因であることはよく分かった。


「三佐、降下準備完了しました」


 部下が装具の最終点検を終え報告してきた。


「了解した。地上からの合図を待って降下する」


 部下に告げた丁度その時、ヘリの窓から強い光が差した。

 今頃、地上の暴徒たちは自分の身に何が起こったのか分からないまま、麻痺した五感を取り戻そうと必死になっているだろう。


「よし、敵は閃光手榴弾により混乱していると思われるが一定の抵抗も予想される状況である。各員迅速に制圧せよ……降下開始!」


 即座にキャビン左右のスライドドアが開き、隊員たちがロープを伝って素早く降下していく。

 恐らく俺が降りる頃には決着が着いているだろう……










2023年8月30日am8:36   人里(木島三尉視点)


「さすが特殊作戦群だな。動きに迷いがない」


 そんなことを言いつつ、昔を懐かしんでいる自分が少し恥ずかしく思えた。


「木島三尉、聞こえてますか?」


「あぁスマンどうした?」


「我々も彼等に加勢しますか?」


「要らねえよ。俺らが行っても邪魔なだけだ」


「そんなものですかね?」


「そんなもんだ」


 そうだ、一般の隊員と特殊作戦郡の隊員じゃ訓練の量や技術が違う。変に加勢しようと思っても邪魔なだけだ。


「おい木島、高橋三佐から聞いたぞ。威嚇射撃を行ったそうだな?」


 ついさっきまで隣にいたはずの上官の声が唐突に聞こえてきた。


「伊藤一佐、あれは相手に矛を収めさせるために仕方なくですね……」


「その結果、相手に人質を取られたんじゃ意味ないだろう」


 一佐の言うことはもっともだ。しかし、アレ意外にどんな手があったというのか?


「俺は待てと命令したんだぞ。報告を受けた時点で、特殊部隊には出動命令を出していたんだ。特戦群の頃は支援が望めない状況下で作戦の完遂に努めることが、正しかったのは分かる。だが、一般部隊に戻った以上はルールに従え」


「…………」


「はぁ、今回は特殊部隊の到着が間に合ったから良かったがな。現地の民間人に危害が及ぶようなことがあれば、ことは自衛隊だけの問題ではなくなるんだ。少しは反省するんだな」


 ここまで言われてしまえば、反論の余地はない。今回は独断専行が悪い方に働いてしまったらしい。


「……申し訳ありません」


「本当にその通りだ。我が国の憲法においては武力による威嚇も禁止されている。『試してみるか』何て挑発的言動は幹部の君が取るべき言動ではないぞ。本国の市民団体が知ったらえらいことになる」


 伊藤一佐とは別の上官の声に、思わず背筋を伸ばす。と言うか、そんなに細かい内容まで既に伝わっていたのか。リーク元は十中八九、高橋三佐で間違い無いだろう。


「古賀海将」


 いつの間にか、この場における最高指揮官まで寄ってきた。どうやらこの問題は俺の想定以上に大きなものになっていたらしい。


「古賀海将、木島に対するペナルティは何が良いと思いますか?」


 その割には伊藤の顔がニヤついているように見える。


「そうだなぁ。今回の出動で“いずも”の飛行甲板が多少なりとも汚れただろうからそこの掃除を命ずる。異論はないな?」


「……ありません」


「大変ですね、木島三尉。“いずも”の甲板は全長248mもありますからねぇ。絶対大変ですよ」


 俺の行動をチクった張本人が気の毒そうに声掛けてきたが……正直、彼にも手伝ってほしい。


「高橋三佐は他人事みたいに言わないでくださいよ」


 恨みを込めて三佐を見たが、当の本人はどこ吹く風と言った感じだ。


「木島、まだペナルティは終わってないぞ」


「えぇっ、まだあるんですか!?」


「当たり前だ。今のは海上自衛隊からのペナルティで陸上自衛隊としてはまだ……」


「あのぉ……終わったんですが」


「「「あっ」」」


 バラクラバを着用した隊員に話しかけられて、ようやく戦闘の終結に気付いた。


「相手からの抵抗は?」


「閃光手榴弾が効いていたようで、ほとんど抵抗は有りませんでした。我の損害なし」


「そうか、ご苦労。暴徒はこの里の警察機関に引き渡してくれ」


「了解しました。その前に木島三尉と話がしたいのですが」


「構わないぞ。木島、ペナルティは後で伝える」


「お心遣い感謝します」


 一佐が充分距離をとったのを見届けてから彼は口を開いた。


「久しぶりです。毒舌大尉」


「お前その呼び方やめろって言ってるだろ。それに俺の今の階級は三尉だ。外国軍隊なら少尉だろ」


「いいえ、木島一尉は俺たちのなかでは永遠に毒舌大尉であり我々の上官です」


 何となく込み上げるものがあったが、この感情は墓場まで持っていくことにした。


「近藤三佐、特殊作戦群を頼みます」


「木島三尉に敬語で頼まれるなんて、昔は想像も出来ませんでしたよ。了解しました。任せてください」


 近藤は直立不動の敬礼で答えた。すごく頼もしい表情だった。


「ちょっと、コレあなた達がやったの!?」


 声がした方向を向くと、紅白の巫女服を着た見覚えのある少女が空を飛んでいた。


「あんたは確か博麗……博麗……ハクレイ……誰でしたっけ?」


「霊夢よ! 名前くらい覚えときなさいよ!!」


「悪いね、俺たちは警察じゃ無いんで」


 人の名前を覚えるのは苦手だ。と言うか彼女の場合は名前が特殊過ぎると思う。


「それでどうかしましたか? 霊夢さん」


 俺を制する形で伊藤一佐が前に出た。


「何の用って……私は里の人間に助けを求められたから助けにきたのよ。で、もう一度聞くけどコレあんた達がやったの?」


「そうですが……ご迷惑でしたか?」


「里の中で流血沙汰はちょっとね……まぁいっか。私がやったら全員死んでたかもしれないわけだし」


「ハハハハ」


 聞かなかった事にしよう。


「あのぉ、会談って何時からでしたっけ?」


「たしか10時からのはずよ」


「そうですか、ありがとうございます」


 俺は改めてこの世界における女性の力の強さを知ることになった。


用例解説

ダウンウォッシュ…ヘリコプターやVTOL機の垂直方向への推力につられて発生する下向きの気流。


フラッシュバン…閃光発音筒。爆発すると約100万カンデラ以上の閃光と1.5m以内に160~180デシベルの爆音を発するとされている。


コラテラルダメージ…敵の軍事施設や戦闘要員など、適正な対象に対する攻撃において、突発的に生じる非戦闘要員の死傷又は非戦闘用途の施設の損傷について多く用いられる。


バラクラバ…日本名は目出し帽 。頭部、顔面、頸部の防寒・保温目的で着用する衣類の一種。


受験勉強が予想以上に忙しく小説を書く時間が得られないため恐らく今年の投稿は今回が最後になると思います。合格まで気長に待ち続けてくれると幸いです。これからもよろしくお願いします(>_<)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ