表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/104

第22話 暴徒鎮圧

 2023年8月30日am10:30 人里(木島三尉視点)


 暴徒の指揮官は冷静な男だった。

 仲間が混乱状態になっても冷静に状況を分析し、こちらの弱点を探ることができるらしい。

 木製盾の陰から顔を出した指揮官は、こちらを見てニヤリと笑った。


 警告射撃により、圧倒的な戦力差があるということを理解した上で笑ったのだ。不気味な違和感があった。

 同時に暴徒指揮官への警戒を数段階上げることにした。


「なぁ外来人のおっさん。いや、自衛隊さんよ。あんたが強いのは良く分かった。連発できる鉄砲なんて代物を充分な数持っているし、戦力差は圧倒的だ」


 指揮官は小銃を向けられても動じることなく演説を続ける。


「そこで気になったんだが、これほどまでに圧倒的な戦力差がある中で……どうしてお前らは俺達を撃たないんだ?」


 彼は仲間たちに聞こえるようにわざと大きな声で話しているらしい。混乱状態にあった暴徒達が落ち着きを取り戻し始めている。


「俺の任務は暴動の鎮圧だ。余計な血を流させることじゃない」


「どうだろうな? もう一つ分からないことがある。あれだけ強力な銃があるんだったら警告なしで撃ってくればよかったはずだろ」


 まさかコイツ、あの短時間で自衛隊の構造的欠陥を見破ったのか?

 だとしたら脅威だ。すぐにでも排除したい。


 しかし、彼を排除する法的根拠が見つからない。部隊指揮官が判断できるレベルを超えている状況で勝手に撃てば、それこそ懲戒免職ものだ。


「反応なしか……よし、わかった。じゃあ試してみるか」


 指揮官は盾から離れ、家屋の陰に隠れていた民間人の腕をつかんで表に引きずり出した。年若い女性のようだが怯えているせいか抵抗は弱弱しい。


「何をしている!? やめろ!」


 恐れていたことがおきた。野郎、人質を取りやがった。

 こうなってしまっては俺はどうすることもできない。銃は使えないからといって白兵戦に持ち込めば間違いなく人質は殺される。


「里長、そこにいるんだろう? 要求を飲まなければこいつを殺すぞ!」


 暴徒の指揮官が、人質の女性に刃物を突き付けながら声高に叫ぶ。最早、暴徒の域を超えた犯罪行為だが自らの行いを正義と信じてやまない連中……とりわけ集団に対しては道理を説いたところで意味はない。


「木島三尉、何で撃たないんですか。これは明らかに急迫不正の侵害です。発砲許可を下さい!」


 命令を出さない俺に痺れをきたしたのか山本一曹がこちらに詰め寄ってくる。一見、適当にみえる意見具申だが、射撃するには場所が悪い。

 89式小銃が使用する5.56mm弾は、高初速ゆえに貫通力が高すぎる。人が多い市街地での発砲には向かない。


「ダメだ。部隊行動基準では正当防衛・武器等防護以外での武器使用は許可されていない」


 特戦群時代には超法規的な行動を前提とすることも多かったこともあり、あまり法令に詳しくない俺に代わって高橋三佐が説名してくれた。やはりと言うべきか、この状況下でも法的には厳しいらしい。


「しかし、一般人が人質にされてるんですよ。我々はそれをただ眺めてろというのですかっ!」


 山本はまだ納得がいかないようで、なおも抗議の声を挙げる。ここから先は直属の上官である俺が言って聞かせなければなるまい。


「防衛出動下ならともかく、平時における自衛隊は警察官より権限がないんだ。無茶を言うな」


「助けを求めている人を救うのが自衛隊の仕事じゃないんですか! 射撃させてください!」


「馬鹿、映画の観すぎだ。組織に所属している以上、お前はその看板を背負うことになるんだ。万が一にも現地住民を死傷させるようなことがあれば、自衛隊全体が汚名を被るんだぞ。覚悟もないくせに、デカい口を叩くな」


「くっ……」


「どうする? 撃つのか撃たんのかはっきり言え!」


「……撃てません」


「よし、それでいい。俺達が撃つときは命令があった時だけだ。その時に思う存分撃てばいい。全責任は現場指揮官の俺が取る」


 分かればいい。万が一にも射撃を行うことになったならば、それを決断するのは他でもない。部隊指揮官たる俺だ。


「それで、話は終わったのか。自衛隊さんよ」


 暴徒の指揮官が口を挟んできた。実に鬱陶しい。


「あぁ終わったぞ。悪いことは言わないから人質を開放しろ」


「俺は現状を正しく認識している。鉄砲が何丁あってもあんたらには勝てやしない。だが、あんた達も規則に縛られて柔軟な対応ができない。だったら人質をとってでも目的を達成するまでだ」


 敵の指揮官は本当によく見ている。流石に暴徒の指揮官を張っているだけはあって、その観察眼と明晰な思考力は本物らしい。


「人質を取ったところで要求は通らん。それに、そんな方法で取り付けた条件などを効力を持たんさ」


「目的のためならどんなことでもやってやる。今回の事を起こすと決めた時から覚悟は決まっているんだ」


 交渉の余地は無いか……

 意を決して引き金に指をかけたとき、無線が鳴った。

 

『特警01こちらシーホーク04。あと1分でそちらにアプローチする』


 シーホーク04?

 そんなコールサインは聞いたことがない。事前ブリーフィングでも特に通達はなかったはずだ。


 思案しているとヘリの爆音が遠くから聞こえてきた。


「……何の音だ?」


 ここにきて敵の指揮官から初めて余裕の色が消えた。すぐに銃を構えて周囲を警戒し始める。

 切り替えの早さは流石だと思うが、もう彼らは逃げられない。


 既に白い塗装のヘリが2機、絵に描いたような青空にその姿を表し始めていた。


「三尉、指揮官車が到着しました」


 見ると89式装甲戦闘車を先頭に、エンジン音を轟かせながら96式装輪装甲車(WAPC)が侵入してきた。


「相変わらず35mm砲は怖いねぇ」


「そうですか? カッコいいじゃないですか」


「高橋三佐。この車両はFTC訓練の時に敵対車両として登場し、私に戦死判定を叩き出した車両なんですよ」


「おい、木島!」


 三佐と下らないことを駄弁っていると、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。


「お待ちしていました。連隊長」


「状況は?」


「暴徒から銃撃を受けた為、やむなく警告射撃を行いました。射撃に一定の効果が認められましたが、敵が民間人を人質に取り里長との交渉を望んだため射撃を中止しました」


「よろしい。あと少しで増援が来る」


「どこの部隊です?」


「お前の古巣だよ」


「特殊作戦群ですか……」


 一瞬胸の奥が痛む。

 特戦群で学んだことも多かったが、同時に失ったものも多い。


「もう一機の方は警察のSATだ。あと、特戦群の方のヘリパイは木原一尉が引き受けてくれている」


「木原一尉? 誰ですそれ」


「あぁ、なんでも海上自衛隊一の変人パイロットとして有名らしいぞ。ただ、あだ名に反して腕は確からしい。ヘリにブルーインパルスがあれば確実に選ばれるような腕前らしいからな」


 腕がいいのは分かったが、そのあだ名の由来が気になって仕方がない。大丈夫なのだろうか?


「何というか……不安ですね」


「なぁに、変人といってもお前ほどではないだろう」


「何気に酷いこと言いますね」


「まぁ見てろって。噂のヘリパイの腕前がどんなものか、お手並み拝見と行こうじゃないか」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ