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第21話 人里に突入

2023年8月30日am10:25  人里  (木島三尉視点)


 人里への突入に際して、門番や官憲などを始めとする障害に出くわすことが予想されたが、彼らの多くは件の暴動鎮圧に向かったらしい。完全武装の状態でも何らトラブルなく人里中心部まで移動することができた。

 まぁしかし、移動は楽になったが警戒用員の殆どを投入しなければならない程の激しい暴動であるということが事前にわかってしまうのも考えものである。


「各隊、接敵前進」


「了」


 俺の号令を受けて部隊は槓桿を引き薬室に初弾を送り込むと、セレクターレバーを3点バーストを意味する【3】の位置から安全装置を意味する【ア】の位置へ移動させる。これで安全装置を解除しトリガーを引けばすぐさま発砲できる状態になった。

 暴動がどこまで拡散しているのかが不透明なこともあり、不意な遭遇にそなえて接敵前進の号令をかけるにいたったわけだが町中で実弾を装填してもなお、不思議と危険に向かって進んでいるという感覚は薄かった。


「三尉、万一ですよ。我々が暴徒鎮圧に乗り出さなければならなくなった場合の手順はどうすればいいので?」


「大体の流れは警護出動の訓練と変わらん。但し、発砲は俺が良いというまでは絶対にするな」


「了解」


 ライオットシールドを持つがために隊列の先頭を飾る羽目になってしまった佐藤は、心なしか不安そうである。冷戦時代の名残か普段の訓練は野戦を想定したものが多く、暴徒鎮圧を想定した訓練など過去に数えるほどしか行っていないから不安になるのも当然であろう。


 部下達の状態を確認しつつ騒ぎの中心を目指し、幾度目かの路地を曲がったところに彼らはいた。


「里長は直ちに食糧庫を開放せよ!」


「人妖の協力関係を放棄し妖怪どもを追い出せ!」


「里から人外を放逐せよ!」


 大声で怒号する団体が道を占拠して、自警団と思われる警戒杖を持った男たちと対峙している。

 何があったのかは知らないが、集団が挙げるシュプレヒコールはおよそ平和的なものではなさそうだ。


「里長! 自衛隊の皆さんが来てくださいました!」


 ここから隠れて様子見をしようと思っていたのだが、我々をここまで案内してきた里の男性が声を上げたことによりそれも叶わなくなってしまった。

 男性に対して事前に行動を規制する旨を伝えなかった俺の責任だけに、やっちまった感が否めない。これには高橋三佐も苦笑いである。


「何と! 私はこの里の長をしている者です。救援に感謝いたします」


 里長と呼ばれた初老の男性は、我々の姿を認めるとすぐに握手を求めてきた。自警団よりも優勢な戦力を持つ暴徒との対峙するのは、よほど不安だったのだろう。まだ何もしていないのに英雄扱いである。


「陸上自衛隊の木島といいます。状況を教えていただいても構いませんか?」


「はい、30名ほどの人間が里の食糧庫の解放と、妖怪たちの里外放逐を要求した暴動を起こしています。現在、自警団が警戒にあたっていますが暴徒の中には銃を持ち出した者もおり、我々だけでは鎮圧することは困難です」


「対話による解決は難しそうですか?」


「食糧庫の解放・妖怪の放逐は不当な要求です。安易に屈することはできません。しかしながら最早、里の自警団だけでは対処不能というのが実情です。是非とも皆さんのお力を借りたい」


「それは治安出動を要請すると言うことですか?」


「治安出動がどういったものかは存じ上げませんが、何とか助けてほしいのです」


 これは予想以上に厄介なことになった。ここまでくると俺の一存では決められないぞ。


「高橋三佐、どう思います?」


「助けてあげたいのはやまやまですが、治安出動には自治体からの要請だけでなく公安委員会の承認がいります。今回のような条件下で治安出動を適用することは困難かと」


 法令上は難しいと言うことか……しかし、議論している間にも暴徒はより凶暴になりつつあるようで時折、自警団への攻撃を行っている。


「三尉、ここは一度本部に指示を仰ぐべきだ。勝手な判断で動くと後で責任問題になるぞ」


 三佐の忠告はもっともだったが、空に響き渡った銃声はそれを許してくれなかった。


「銃だ!」


「下がれ! 下がれ!」


 銃声に驚いた自警団が統制を失い各個に後退しようとする。だが、暴徒達にとって逃げる敵を見逃してやる道理はない。退却に併せて攻勢に出た暴徒を前に自警団は一気に瓦解する。


「マズいな。これ以上暴徒の前進を許すな! 特警隊前へ!」


「応!」


 命令を受けた特警隊は、速やかに後退する自警団と暴徒の間に入り牽制を行う。


「我々は日本国陸上自衛隊である。直ちに不法行為を中止し解散せよ」


「誰だお前ら!」


「俺は顔も知らない連中の言うことを聞く気は無い。すっこんっでろ!」


 暴徒達は見慣れない衣服を着用した我々を見ると一旦停止したが、すぐに怒号を挙げて威嚇してくる。頭に血が上った連中を相手に言葉が通用するとは思えないが手順に則って警告を行うほかない。


「そういう訳にはいきません。里の方に治安出動の要請を受けましたし、この状況は明らかに里が急迫不正の侵害を受けているように見える」


「随分と小難しい言葉を並べているがアンタらに何がわかる? 里長との交渉が決裂したんだ。俺達にはこうする以外方法がないんだ!」


「我々の監視下の元、再度交渉をすることはできます。なにもこんな暴力的な手段に頼らなくても……」


「やかましい! そこをどけ!」


「いえ、武装解除に応じていただけないのであれば退く訳にはいきません」


 暴徒の指揮官らしき男の目が細めれれる。


「じゃあ俺達とやりあうか? こっちは鉄砲もある。やるだけ無駄だぜ」


「ではやってみますか? 場合によっては怪我ではすみませんよ」


「ちょっと三尉、 30人はいくらなんでも無理ですよ。一旦引いて増援を待ちましょう」


 山本が慌てた様子で制止してくるが、根拠を持たずに挑発しているわけではない。


「高橋三佐、相手の持っている銃の種類はわかりますか?」


「マスケット銃ですね。先込め式の単発銃ですから次弾の装填速度はお察しですし、ライフリングも彫ってないので命中精度は相当悪い代物です。本来なら博物館に飾られるべき骨董品ですよ」


「こっちは5.56mmNATO弾を毎分600発以上吐き出せる89式小銃があるんだ。そう簡単に負けはしない」


「でも人数が……」


「マスケット銃はその命中精度の悪さを補うために、複数の射手が横隊で隊列を組んで斉射しなければいけない。この密集地域で横隊なんてしてみろ。いい的だぞ」


「法的な問題はどうするんです?」


「それは上が考えることだ」


 そうは言ったが現状では銃は使えないだろう。

 わざと相手に聞こえるようにこちらの優位性を伝えてやったが、これで武器を置いてくれるだろうか?


「フン、分間600発で発射できる銃なんてあるわけないだろ。もう少しましな嘘をつけ」


「じゃあ試してみるか?」


「ごちゃごちゃやかましいんだよ! そこをどけ!!」


 痺れを切らしたのか暴徒の一人が殴り掛かってくる。


 だが隙だらけだ。


 腕をつかんで捻り地面にたたきつけるとあっさりと昏倒した。自衛隊の格闘術は警察の逮捕術とは違い、素人相手ではなく訓練された軍人に用いることを想定し訓練されている。よって、しっかりとした受け身をとらないと容易に昏倒してしまうのだ。


「どうした? ほかに根性のあるやつはいないのか!」


「てめぇ、ふざけるのもいい加減にしろ!」


 俺の挑発にかかった馬鹿が何人かまとめてかかってくる。


 しかし、俺はこれでも元特殊作戦群の小隊長である。

 素人が何人束でかかってきても徒手格闘で難なく制圧する自信がある。


 現に向かってきた暴徒は皆制圧した。


「よくも仲間をやったな。ただじゃ帰さねぇぞ」


「ほぉ面白いことを言う。冗談も休み休み言え」


「鉄砲を前へ!」


 指揮官の命令のもと暴徒の一部が銃を構える。距離にして20m強。

 例え旧式の銃とはいえど、必中距離に見えた。


「佐藤! 盾を前へ」


「はいっ!」


「撃てぇ!」


 佐藤が盾を構えたのと暴徒の銃が火を噴いたのはほぼ同時だった。ライフリングの無い銃であっても、距離が距離だけにやはり何発か命中したらしく盾に衝撃が伝わる


「全員無事か!」


「何とか」


 弾丸は防弾盾がしっかり受け止めたようで、部下達に被害は無かった。


「よし、松本。CPへ状況報告」


「了解。至急至急、CPこちら特警01送れ」


『こちらCP。何があった?』


「人里にて、展開中の暴徒より射撃を受けた。対応の指示を乞う。送れ」


『何だと!? 偵察に向かっただけじゃないのか? 送れ』


「里長より治安出動の要請を受けました。正当防衛射撃の許可を下さい。送れ」


 無線越しにCPの混乱具合が伝わってくる。報告を行わなかった俺の責任だが事は一刻を争う。とっとと決断してほしい。不毛な議論を避けるために松本から無線を変わる。


「CP、特警隊指揮官の木島です。正当防衛射撃の許可を」


『三尉か……言いたいことは山ほどあるが一つ確認するぞ。里の自警団は銃を使用したか? 送れ』


「……いえ、使っていません。何か問題でも? 送れ」


『では射撃の許可は出せない。治安出動には警察比例の原則がある。自警団が使っていないものを我々が使う訳にはいかん。一度引け』


「いえ、撤退はできません。これより暴徒鎮圧を行います」


『何だと!? 待て! 三尉……』


 俺は最後まで話を聞く事無く無線を切る。民間人に危険が迫っている状況で法律がどうだなどと議論している時間は無い。


「これより警告射撃を行う。分隊射撃用意」


 山本たちは驚いたような表情を浮かべたが、命令に従い安全装置を解除し銃口を空に向ける。


「撃て」


 号令と共に小銃から閃光が走り、銃声が周囲に響く。


 銃声を聞いた暴徒は慌てた様子で後退を開始する。暴徒の指揮官も小銃での警告射撃を見て鉄砲の性能差に気が付いたのか、狼狽えていたがすぐに態勢を立て直したようで声を張り上げ統制を取り戻そうとしている。


「撃ち方やめ! 撃ち方やめ!」


 暴徒の後退を確認した為、警告射撃を中止する。

 敵指揮官の努力もむなしく、連発する小銃を見た彼らの士気は大きく削がれていた。


「思い出したぞ。こいつら天狗の新聞に載ってた例の外来人だ」


 暴徒の一人が声を挙げると、それに続いて弱気な発言が彼らの中に伝染していく。


「例の外来人? なんじゃそりゃ」


「お前知らないのか? 紅魔の吸血鬼の妹と戦って勝ったとかって話で……」


「デマに決まってんだろそんな話。あの天狗が書いてる新聞だぞ」


「でも、現に連発できる鉄砲も持ってるしこっちの鉄砲はあの盾に防がれちまう。どうしようもないぞ」


「どうしたらいいんだ!?」


 暴徒たちは既に瓦解を始めている。

 そもそも士気の低い暴徒が、訓練された実力組織に喧嘩を売ること自体が間違いだったのだ。


 暴動はこのまま終結に向かうかのように見えた。


 しかし……


用例解説

FTC…実戦経験が無い陸自の能力を補うための訓練。レーザーを用いて実戦さながらの模擬戦ができる。


対抗部隊…FTC訓練での敵部隊役の隊員。すごく強いらしく訓練に参加してきた部隊に大打撃を与えているらしい


マスケット銃…日本の火縄銃とさほど変わらない性能をもつ。


ライフリング…ライフル銃の銃身の内部に彫られた螺旋状の溝。

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