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第19話 人里へ出発

2023年8月30日am10:00 〝おおすみ〟艦橋


「艦長、ようやく入港できそうですね」


「何せ出港から20日もたってんだからな。航海長、しばらく操艦してなかったから腕が落ちたんじゃないのか」


「そう簡単には落ちませんよ。大型艦の操艦は今回が初めてじゃありません。タグボート無しでもいける自信があります」


「そいつは頼もしいな。よろしく頼むよ」


「お任せください」


 入出港の準備は何度やっても忙しい。手順は多いし、確認事項も多いからつくづく艦艇は車のようにはいかないことを実感させられる。

 そんな中での、艦長と航海長の軽口は慌ただしい艦橋の空気を少しだけ和ませた。


「よし、入港ラッパ頼むよ」


 入港ラッパを吹くために艦橋で待機していた隊員に声をかける。

 海上自衛隊では出港や入港時にラッパを吹く。これは旧海軍時代から続く伝統で、このラッパの音を合図に忙しい時間がやってくるのだ。


「了解」


 艦長の指示を聞いた若い隊員はすぐにラッパを吹いた。


 艦内に軽快なラッパの音が鳴り響く。


「入港用意」


 ラッパが鳴り終わると同時に航海長が指示をだす。


「入港します。両舷前進微速」






 2023年8月30日am10:00 〝おおすみ〟格納庫(木島三尉視点)


「木島三尉」


 入港直前の艦内は誰もが慌ただしく動いており、この艦内では客人扱いの陸自も雰囲気にのまれ何もしないわけにはいかず、各自の動きを確認しあっていた。

 それは当然のことながら俺達、特別警護分隊も同じであり車両や装備の点検を行っていた。上層部からは警備のために使える便利な部隊として認識されてしまったらしく、紅魔館訪問が終わった今も再び編成されて今回の任務を付与されていた。


 そんな忙しい時期に声をかけてきたのは今回の護衛対象であり、本来行うはずだった日米合同演習における陸海空統合任務部隊指揮官という大仰な肩書を持つ男だった。


「これはこれは古賀海将。いかがいたしましたか」


 若干受け答えが嫌味ったらしくなったのは許してほしい。

 こっちも仕事が立て込んでいて話をしている場合ではないのだ。


「君には先頭車両を任せることになるからね。くれぐれも宜しく頼むよ」


「了解しました。しかしながら任務達成のために前回と同じような発砲権限をいただきたいと思っています。事前に渡された資料には武器使用に関しては正当防衛の範疇において適切に運用せよと書かれていましたが……」


「それは資料の通りだ。前回は安全確保の観点で特例措置として発砲権限を与えたがこれ以上、超法規的措置をとることは困難だ」


「しかし、それでは……」


 この危険な世界で生き残ることはできないのではないか。

 そう続くはずだった言葉を司令は遮りこう述べた。


「特戦群がどうだったかは知らないが、自衛隊と言う組織は専守防衛の上に成り立っている。武器の使用に関しては正当防衛の範疇において適切に使用せよ。これは命令だ」


 悔しいがこの国では軍事的合理性よりも政治的配慮が優先される。自衛隊という組織では彼の言っていることの方が正しい。俺は従うほかなかった。


「了解しました。専守防衛を遵守します」


「ROEの一つも与えられなかったのは申し訳なく思っている。だが、ここは耐えてくれ」


「自分こそ立場を考えず軽率な発言をし申し訳ありませんでした」


「くれぐれも頼むよ」


「了解しました」


 俺には踵を返し96式装輪装甲車(WAPC)に向かう古賀司令を挙手の敬礼で見送ることしかできなかった。


「木島三尉」


「山本か、どうした」


 作業を終わらせたのか、完全装備に身を包んだ山本が心配そうに近づいてきた。


「古賀司令はなんと?」

 

 準備作業で騒がしくなっている格納庫の喧騒の中では、何を話していたかわからなかったのだろう。そんな中で、上官が険しい顔でこの場における最高指揮官と話していたら不安になるのもわかる。

 部下を不安にさせるのは指揮官として失格だ。


「頑張って守ってくれだってよ」


 だから少し嘘をついた。


「条件付きで……ですか」


 しかし、コイツには見破られていたらしい。

 優秀なんだろうがこの場合は素直に喜びづらい。


「自衛隊の運用から逸脱することなく武器使用に関しては専守防衛を徹底せよとのことだ」


「まぁ、実に自衛隊らしい指示ですね」


「俺としては複雑だが受け入れるしかない。だからビビッて勝手に撃つなよ」


「わかってますって。俺達は自衛隊ですから」


「特警隊、早く車両に乗ってください。まもなく入港しますよ」


 各車両で点呼をとっていた海自の海曹が、一向に車両に戻ろうとしないこちらを見て注意してきた。


「了解した。ほら山本、早く乗れ」


「わかってますよ。ところで誰がどこに座れば良いですかね」


「あぁ、そうだな。お前は運転、俺は助手席で索敵及び指示、佐藤は上部ハッチにMINIMIを設置して周辺警戒、松本は後部座席で高橋三佐の補佐ってところか」

 

「さすが元特戦群、判断が素早いですね」


「それは嬉しくない誉め言葉だな。まあ良い、早く乗れ」


「わかりました。何か俺達だいぶ急かされてません?」


「お前がゴタゴタうるせぇからだろうが! ほら、いいから早く乗れって」


「はいはい」


 いつの間にか接舷したのだろうか。

 久方ぶりに感じた艦の動揺は既に収まっていた。


「左舷ランプドア開きます。全車発進用意」


 エンジンをかけて発進準備を整える車両部隊を海自の隊員たちが挙手の敬礼で見送っている。


「事故ったら承知しないからな」


「任せてください。これでもゴールド免許ですから」


 警告音と黄色の回転灯の光に照らされながら、ゆっくりとランプドアが開いた。格納庫内に日光が入り辺りを明るく照らし上げる。


 久しぶりに陸に上がれる。そんな高揚感に浸りながら山本に指示を出した。


「ほら急げ、遅れると怒鳴られるぞ」


「わかってますって。本車両はこれよりWAPCを護衛しつつ人里へ向かう」


「特警隊、前へ!」


用例解説

WAPC…96式装輪装甲車の愛称。防衛省の愛称はクーガーだが隊内ではWAPCの方が一般的である


ROE…交戦規定。軍隊や警察がいつ、どこで、いかなる相手に、どのような武器を使用するかを定めた基準のこと。また自衛隊用語では部隊行動基準という



すでにお気付きの方もいることとと思いますが設定に変更点があるのでお知らせします


まず年代を20××年から2023年に変えさせていただきました。

理由はこの先作品を書くためにしっかりした数字がないとやりずらかったからです


もうひとつ87式偵察警戒車を89式装甲戦闘車に変更させていただきました

理由は自分がこの先書きたいと思っている戦闘に87式ではあまりにも攻撃力が不足していたためです。


これらの変更で読者の皆様に混乱やご迷惑をかけるかもしれませんがこれからも応援よろしくお願いします


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