第15話 来客
お久しぶりです。
今回のように投稿ペースが乱れる場合があります。
あらかじめご了承ください。
2023年8月17日pm1:20 〝みょうこう〟CIC
「対空戦闘戦闘、CIC指示の目標」
艦隊防空の要となるイージス艦の戦闘指揮所は迫りくる彼我不明の目標を前にして、着々と対空戦闘態勢を取っていた。
「副長! 旗艦〝いずも〟より入電です」
「古賀司令は何と言っている?」
〝いずも〟には演習艦隊司令官の古賀海将が乗艦している関係で、緊急時における〝いずも〟からの通信は司令官からの命令が伝達されることが多くなっている。
「はっ、現状を維持し目標の確認に全力を尽くせとのことです」
「目標が攻撃的だったらどうするんだ。SM-2スタンバイ、迎撃準備」
「待ってください。今撃てば先制攻撃になります!」
「クソ、この艦は世界最高の防空能力を持つイージスシステムを搭載しているんだぞ。それなのにたかが2つの対空目標も撃ち落とすことができないのか……」
万が一、この目標が艦隊に対する攻撃の意図を持っていたとしたら。紅魔館の例もあるのだ。その考えを杞憂だと笑うものはCICにはいない。
それでもなお、彼らが引き金を引かずに居られるのは練度が高い軍事組織特有の命令系統の存在。そして、自衛隊が掲げる専守防衛という独自の運用思想によるところが大きい。
「前から分かり切ったことです。そして限られた選択肢の中で最善を尽くすのが我々自衛隊ですよ」
「……まったくだ。各部対空見張りを厳となせ」
専守防衛という崇高な理想によって、現場が割を食うのは何も今回が初めてではない。自衛隊という組織に属する以上はこれを受け入れて働くほかはない。
それでもなお募る不満を抑えながら、彼らは命令に従っていた。
2023年8月17日pm1:22 旗艦〝いずも〟艦橋
その頃、艦隊旗艦の〝いずも〟では秋津一佐が直々に艦橋で陣頭指揮を執っていた。
「急いで見つけろ、乗組員の命がかかってるぞ」
航海長指揮のもと、見張り員達が双眼鏡に食い付いているのを尻目に秋津はCICからの情報を元に新たな指示を出した。
「そろそろだ。信号長、照明弾を上げろ」
「了解しました」
信号長の返答からまもなくして打ち上げられた照明弾は〝いずも〟直上をゆっくりと飛翔し強烈な光を放ちながら破裂した。
艦隊直上にまばゆい光の弾が打ち上がる。見張り員が声を張り上げたのは、それから間もなくだった。
「目標視認。片方は博麗霊夢さんと断定、もう片方はホウキに乗って飛翔中。しかし霊夢さんと共に居ることから敵である可能性は低い」
「ホウキに乗って飛翔だと? 本当に何でも有りだなこの世界は……」
航海長の呟きは、恐らく報告を受けたもの全員の意見を代弁しているだろう。
「目標を本艦に誘導せよ。私は甲板に降りる。航海長、艦橋をまかせたぞ」
「了解しました」
2023年8月17日pm1:22 護衛艦隊上空 (博麗霊夢視点)
私は過去最高に焦っていた。博麗神社に鴉天狗の文屋が作る新聞が届き、その内容を見るなり飛んできたのだった。
何せ新聞の一面見出しには大きな文字で《外来人集団、紅魔館の吸血鬼に勝利!》と書かれ、ご丁寧に戦闘中と思われる自衛隊の写真が掲載されていたのだから焦りもする。
「全く、私は挨拶しろとは言ったけどドンパチしろとは言ってないわよ」
「まあまあ、少し落ち着けよ霊夢。連中だって戦う気は無かったかもしれないじゃないか」
「戦う気はどうであれ、紫が彼らを危険視したらタダじゃ済まないわよ」
「それはそうかもしれないが……いやぁそれにしても文の言う通り、今までに無い規模の外来人の幻想入りだな」
「あぁ、魔理沙は初めて見るんだっけ?」
「どんな奴等なのか楽しみだぜ」
2023年8月17日pm1:24 旗艦〝いずも〟甲板
「司令、目標の誘導に成功しました。まもなく着艦します」
「くれぐれも丁重にな。今は我々が外交官の代わりなのだから」
「了解しました」
それから30秒もしない内に二人は〝いずも〟の甲板に降り立った。
「ようこそ、護衛艦〝いずも〟へ。霊夢さん、そちらの方は……」
「私は霧雨魔理沙普通の魔法使いだ」
「いや、魔法使いの時点で普通じゃないと思うが……」
「えっ」
「いや、何でもないです。取り合えず中へどうぞ」
流れ出た微妙な空気から逃れるように会話を逸らす。キッカケは微妙だが、何はともあれ少女たちは再び鉄の城へと招かれることとなったのだ。
2023年8月17日pm1:30 旗艦〝いずも〟会議室
「紹介しよう、こちら博麗霊夢さん」
「……」
「そしてこちらが霧雨魔理沙さん」
「よろしくだぜ」
「霧雨ですか……良い名前ですね」
「そっそうか?」
〝むらさめ〟艦長の稲垣一佐が感慨深げに呟くにの、やり玉に挙がった魔理沙が微妙な表情で応答する。
「はい、実は私の前任艦が護衛艦〝きりさめ〟でしてね……」
「稲垣一佐、少し自重してください。魔理沙さんが困っていますよ」
魔理沙の表情を見て取った田中一佐がそっと注意する。まぁ魔理沙も、護衛艦と同じ苗字だと褒められても反応に困るだろう。
「すみません、名前を聞いたら懐かしくなりまして」
「私より若いのに何を言ってるんですか」
「あははは……」
「ちょっと」
雑談が続き本題に入れないことにしびれを切らした霊夢が声をかけたとき、会議室の扉が勢い良く開き若い海士が飛び込んできた。
「会議中失礼します。〝おおすみ〟より緊急入電です」
「今度は何だ!?」
対空戦闘発令から時間を置かずにきた緊急入電に、会議室の面々の視線がこの海士に集中する。
しかし、自分よりいくつも階級が高い指揮官達の視線を一身に受けながらも、海士は臆することなく報告した。
「はっ、"おおすみ"にて療養中であったフランさんの意識が回復したとのことです。現在、黒田三尉が対応にあたっています」
その一報はレミリア・スカーレットのみならず、自衛隊の面々にとっても嬉しい報告であった。
用例解説
霧雨魔理沙…自称、普通の魔法使い。能力は「魔法を使う程度の能力」である。霊夢とは仲が良く一緒に居ることが多い。しかし、パチュリーの本を盗むなど少々手癖が悪い。紅魔館からは泥棒扱いされ要注意人物に指定されているとか……
DD104〝きりさめ〟…むらさめ型護衛艦の4番艦。第4護衛隊群、第4護衛隊に所属している。




