第13話 和平交渉
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2023年8月16日pm5:50 旗艦〝いずも〟会議室
この時の会議室にはレミリアを始めとする紅魔館勢の他、陸海空自衛隊の幹部、警視庁特殊事件捜査係さらには特別警護分隊の面々までもが集まった。
「レミリアさん、今回は我々の介入で負傷者を出してしまったことを深くお詫び申し上げます」
この会議はまず、陸上自衛隊の伊藤一佐からの謝罪で始まった。
「いいえ、むしろ感謝しているわ。あの時、あなた達がいなかったら私逹だけでフランを止めることは出きなかった」
実際に止めようとして返り討ちにあっているからか、レミリアの言葉は真摯だった。
「しかし、いかなる状況においてもレミリアさんやフランさんを負傷させてしまったのは事実です。大変申し訳ありませんでした」
会議室に居た自衛官全員が立ち上がり深々と頭を下げる。
「えっと……そうだ、あなた達の頼みをまだ聞いていなかったわね」
「しかし……我々があなた方に頼み事をする資格はありません」
陸自の面々は敬意を払ったつもりだったのだろうが、この部屋の沈んだ空気を元に戻すために考えたレミリアの提案を、即決で拒否するという無礼を働いていることに気付いていない。
「良いから早く言いなさいよ。別にあなた達に怒っている訳じゃないんだからさぁ」
「わかりました。では我々の要望をお伝えします。食料及び燃料の調達を支援していただきたいのです」
レミリアの声に若干の苛立ちが含まれていることを敏感に察知した古賀は、大人しく要望を伝えることにした。この辺の臨機応変な対応も彼をここまで昇進させた一つの要因であろう。
「食料は大丈夫だと思うけど、この船を動かしている燃料は何を使っているのかしら。薪? 鯨油?」
「えっと……軽油なんですが……」
「軽油? 咲夜、軽油って何だか知っているかしら?」
「申し訳ありません、お嬢様。私も存じ上げません」
この二人の会話を聞いて会議室が一気にざわついた。
「古賀司令、もしやこの世界には石油が無いのでは……」
「宮津一佐〝とわだ〟に残っている燃料を含めて本艦隊は後どのくらい動くことができる?」
補給艦の艦長にして、艦隊の燃料弾薬管理の総元締めたる宮津一佐に皆の視線が集まった。
「艦内電力を最小限に押さえても、もって後7~8週間がいいところです」
「軽油が尽きたら艦はおろか、ヘリや車両も使えなくなります」
会議室内に混乱が広がり切る前に、古賀は手を打った。
「レミリアさん、この付近に誰も使っていない広い土地はありますか」
「えぇ、紅魔館から少し離れたところに開けた土地があったと思うわ」
「伊藤一佐、この広場に陸自の駐屯地を設立してはいかがでしょう? 最悪、艦が動かなくなった後も行動できるようにしなければなりません」
古賀の提案は最悪の事態を想定した備えでありながら、陸自の隊員を陸にあげることで艦隊のエネルギーを最小限に留めたいと言うもう一つの側面を持っていた。要するに口減らしである。
当然、伊藤もこのことに気付いていたがこの措置が現状では止む負えないものであると知っているから何も言わない。
「陸自としては問題ありませんが、我々が幻想郷の土地を勝手に使うことを、ここのトップだという八雲紫が許可するでしょうか?」
「では、直接許可をとれば……」
「それが出来るのならば我々はとっくに日本に帰還しているだろ」
この発言を境に会議室にいた全員が沈黙した。ぐうの音も出ない正論だったのもあるが、それよりも希望が見えないという現実が彼らに重くのしかかっていた。
しばらくして〝いずも〟航海長の高橋大城三佐が発言した。
「文さんに頼んでみてはいかがでしょうか? 彼女は信頼できますし、幻想郷の新聞記者ですから八雲紫の居場所もわかるかもしれません」
「どうやらそれしか無さそうだな……何か質問はないか?」
今後の方針が決まり議論が沈静化しかけた時、木島三尉がおもむろに立ち上がった。
「古賀司令ならびに伊藤一佐、この際ですから松本二曹の処遇についてお訊きしたいのですが」
会議室に居た全員が古賀司令と伊藤一佐の顔を見た。決定権を持つのはそれぞれの指揮官たる彼らだけだ。
「私としてはこの有事に懲戒処分は避けたいと思っている。伊藤君はどうかな?」
「はい、私も古賀司令と同じ意見です。しかし、怪我をさせたのは事実なのでそれなりの責任は負わせるべきかと……」
「伊藤一佐、あなたの言う松本二曹への〝責任〟の詳細を教えていただきたい」
「……彼の射撃ミスで民間人に被害が出たのは事実だ。国内であったのならば自衛隊の存続にかかわるような重大事件である。これはわかるな?」
「承知しております。ですが撃てと命じたのは私です。全ての責任は隊長を務めていた私にあります」
「木島三尉、被害を受けたのはレミリアさんであり我々では無い。ここはレミリアさんに彼の処分を決めてもらおうじゃないか」
不毛な議論になりかけていることを察した古賀はレミリアに審判を仰ぐことにした。松本二曹の誤射の件は状況を聞く限り不可抗力であったと思われる。
しかし、当の被害者がいる以上は被害者が納得する措置を講じる必要がある。
「レミリアさん、彼への処分を決めてやっては貰えませんか」
「私は何の処分も要らないと思うわ。聞けば、あなたはフランの弾幕をかわそうとして撃っちゃったんでしょ。じゃあ悪いのはフランじゃない」
「しかし……」
レミリアは腕に巻かれた包帯を一瞥するとこう続けた。
「いいのよ、突き詰めて考えればこれは身内にやられた怪我同然だもの。あなた達の責任では無いわよ」
「そういうことだ伊藤一佐、彼への処分は無しだ。今まで通り自分の部下として扱え」
「わかりました」
松本二曹はレミリアさんの方を向き深々と頭を下げた。
将官をも巻き込むことになった問題が解決したことで緊張の糸が切れたのか。その目に光るものがあったことは気付いていたが誰もが気付かないふりをした。
「質問いいかしら?」
「レミリアさん、ご質問は何でしょう?」
「フランの容態についてんだけど……」
「それについては黒田三尉、どうか?」
「衛生員が全力をあげていますが、全身に火傷の様な症状が出ており依然として意識不明の重体のままです」
火傷の症状。水にしか触れていない彼女がなぜこのような怪我をしていたのか。医務室に詰めていた医療スタッフは担ぎ込まれたフランを見て皆一様に首をかしげたという。
「そう……」
用例解説
八雲紫…幻想郷の創設者で幻想郷一強いと言われる妖怪。多数の式神を従えている。能力は〝境界を操る程度の能力〟




