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第10話 艦隊防衛

お久しぶりです。本編を書くのに時間がかかっています。

投稿が遅れる可能性がありますのであらかじめご了承ください。

2023年8月16日am11:40 旗艦〝いずも〟CIC


「seRAM弾着20秒前」


 レーダー上のブリップを目指してRAMは一直線に飛翔する。この二つが重なった時、自衛隊史上初の戦闘に決着がつくだろう。

 だが、少女の血によって得られる決着など誰も望んではいなかったはずだ。レーダーの向こうにいる吸血鬼の少女の運命を想ってかCICの空気は落ち着かない。


「艦長、この攻撃は法令上どう解釈すればよいのでしょうか」


「正当防衛もしくは緊急避難だろうな。それに命令を出すはずの政府や自衛艦隊司令部とは連絡がつかないんだ。自分の身は自分で守るしかないさ」


「それはそうですが……」


 副長は依然として納得しきれていないようだが、幹部の迷いや不安は部下にも伝染する。それをわかっている秋津艦長はレーダーから目を離すことなく少し語気を強めて副長を叱責した。


「いいか、今我々がすべきことは仲間の命を守ることであって法律と行動を照らし合わせることではない。そんなものは帰ってから内局の奴らにやらせればいいんだ。わかったか」


「はっ失礼しました」











2023年8月16日am11:40 紅魔館 庭


「分隊長、〝いずも〟が対空ミサイルを発射。弾着まで20秒とのことです」


「わかった、奴の注意をできるだけこっちにひかせろ。制圧射撃だ! 撃て」


「了解」


 バイポットを展開する間も惜しんで即席の塹壕からMINIMI軽機関銃の銃身を出し、フランにむけて5.56mm弾をばら撒いた。

 しかし、フランは毎分750発の速さで放たれる弾丸を巧みにかわし攻撃の準備を整えていった。どうせなら敵に一撃かましてやろうと考えていた佐藤は、フランの攻撃前の予備動作に気付くのが遅れた。


「っ戻れ!」


「うわぁ!!」


 首根っこを掴んだ木島に即席塹壕に引きずり戻されたのと、弾幕が頭上をかすめていったのはほとんど同時だった。


「間一髪だな。怪我はないか?」


「大丈夫です。ありがとうございます」


「礼はいい。それより弾着まであと何秒だ」


「あと、5秒です」


 その時さっきまで頭上を通っていた弾幕が止み、フランが上昇し始めるのが見えた。


〝まずい〟と思ったときにはフランは艦隊のいる方向に向けおびただしい数の弾幕を放っていた。


「気づかれたか」


 木島三尉が89式小銃を向けたときにはすでに、対空ミサイルはフランからの対空砲火を前に命中すること無く空中で爆発していた。


「アハハ…アレ、オジサンタチノ 船カラ トンデキタンデショ オジサンタチ ツマンナイカラ オ船ト 遊ンデ来ルネ」


 そう言ってフランは艦隊のいる方向へ飛び去っていった


「畜生! 作戦は失敗だ。無線寄越せ”いずも”と連絡を取る」














2023年8月16日am11:41 旗艦〝いずも〟CIC


「インターセプト5秒前……目標、回避行動開始」


「今さら回避行動をとっても間に合うわけがない」


 副長がそう呟いたときレーダー士の顔色が明らかに悪くなった。


「レーダー士どうした」


「seRAMレーダーロスト、目標は依然健在」


「馬鹿な! あの短時間で撃ち落としたっていうのか」


「副長冷静になれ。考えることは後になってからでもできるだろ」


「司令、緊急事態です。目標転身、本艦隊に向け急速接近」


「方位は」


「本艦左40度、速度約100km」


「司令、現場の木島三尉から緊急入電です」


「よし、繋げ」


『特警01より”いずも”。目標は貴艦隊に向け転身した。貴艦隊の保有する対空兵器にて速やかに迎撃されたし。なお、目標は水を弱点とする模様。送れ』


「”いずも”了解。そちらの状況を報告せよ。送れ」


『紅魔館側に負傷者多数。戦闘終結後、ヘリによる迅速な収容を希望する。送れ』


「”いずも”了解。ヘリは手配する。それまで応急処置で持ちこたえられたし」


『特警01、了解。支援に感謝する。終わり』


 木島三尉はそう言うと一方的に無線を切った。


「目標に一番近いのはどの艦だ?」


「〝みょうこう〟です。現在、艦隊防護のため迎撃態勢をとっています」











2023年8月16日am11:42 DDG〝みょうこう〟CIC


 seRAMによる撃墜が失敗したと同時に”みょうこう”は対空戦闘を下令し目標の撃墜準備を行っていた。その準備は残念ながら無駄になることは無く、今まさに接近する吸血鬼を叩き落さんとするためクルー達が一丸となって奔走していた。


「本艦の左90度、まっすぐ突っ込んでくる。目標まで3000m、主砲撃ち方用意」


「艦長、旗艦〝いずも〟の古賀司令より緊急入電です」


「緊急入電だと? 繋げ」


「〝みょうこう〟艦長の田中です。本艦は既に対空戦闘態勢に入っております。ご命令があれば直ちに迎撃します」


「田中一佐、ただちに主砲の射撃準備を中止させろ」


「はぁ?」


 この声が自分の思っていた以上に大きかったらしく、CICにいた全クルーがこちらを凝視してきた。


「申し訳ありません。それで主砲射撃中止とはどういう事ですか」


 接近する敵を前に貴重な近接防空火力である主砲の射撃を中止することなど、普通ならば到底受け入れられない命令である。


「現場の木島三尉からたった今連絡が入った。木島三尉によると、目標は水に弱いらしいとのことだった」


「ちょっと待ってください。本艦は海保の巡視船ではないんですよ。放水装置なんて搭載されていませんよ」


「そこでだ、目標の予想飛行位置に魚雷を放ち目標の一歩手前で自爆させろ」


「魚雷は対潜兵器です。対空兵器ではありません」


「君も護衛艦の艦長を務めているのならば演習で魚雷の一、二本撃ったことがあるだろう」


「もちろん撃ったことはあります。ですが、先程も言った通り魚雷では航空目標を撃墜できません」


「ならば、君は魚雷が爆発したときにできる水柱に航空機が衝突してもバランスを一切崩さないと言いきれるかね」


「なるほど……確かにそれなら対空目標を撃墜することも可能かもしれません。しかし、それには目標が巡航ミサイルと同等の超低空で接近してくる必要がありますし、仮に低空からのアプローチでも肝心の魚雷が外れた場合は……」


「その時は近接防空火器(CIWS)の使用を許可する。そうならないことを祈るが……」


「わかりました。全力を尽くします」


 その言葉を最後に無電を切った。危険な博打かもしれないが、いかに危険な吸血鬼とは言え少女を主砲弾で吹き飛ばしたくはない。

 それに対して水柱に衝突する程度であればまだ生存の可能性がある。そう考えれば悪い話ではなかった。


「お前ら聞こえたな。主砲射撃止め。水雷長、左舷三連装魚雷発射管開け。目標の予想進路に向けて発射する」


「了解。左舷三連装魚雷発射管開きます」


「目標予測飛来位置への固定よし。短魚雷装填よし」


 水雷士の威勢のいい声が返ってくる。


「左舷魚雷発射管、発射用意よし」


「目標、あと10秒で湖の端に到達します」


「短魚雷、発射弾数2発。攻撃始め」


「撃ちぃ方始めー」


用例解説

インターセプト…着弾を意味する。ちなみにマークインターセプトとは、目標への着弾を意味する。


内局…内部部局の略称。防衛省の場合、防衛事務次官を筆頭とした文官(いわゆる背広組)を指す。


自衛艦隊…帝国海軍の連合艦隊に相当する。海上自衛隊における事実上の実戦部隊の総括部隊。

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