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第9話 フランドールVS自衛隊

お久しぶりです。

誤字脱字など発見次第コメントにてお知らせください。

感想等お待ちしています。

2023年8月16日am11:30 紅魔館 庭 (山本一曹視点)


 号令と共に撃ち出された弾丸は目標に命中することなく空を切った。フランの注意がこちらに向く。


「前へ!」


 三尉の合図と共に駆け出した俺にフランの意識はくぎ付けにされる。


 即席の塹壕から飛び出したばかりで勢いがない状態である。今攻撃を受ければひとたまりもない。牽制射撃を行うべきかと考えた直後、乾いた銃声が数回にわたって俺の後ろから鳴り響いた。


「ぼさっとするな! 進め!」


 三尉による突撃支援射撃はフランの至近を掠めたようだが当のフランはよろめきもしない。強靭な胆力を持っているのか、あるいは狂気に落ちて恐怖の感情を失ってしまったのか……

 肝心なのは最早、彼女に警告は通用しないと言うことだ。


「フフフ……」


 射撃を受けフランの注意が三尉たちに向いたその隙に咲夜のもとへいっきに駆け抜ける。弾幕による爆発音と散発的な銃声をBGMに咲夜の元にたどり着いた。派手に弾き飛ばされた割には本人に目立った外傷はない。


 一通りのバイタルチェックをしてから彼女を抱えようとするが華奢とは言え意識の無い状態の人は予想以上に重い。

 被弾し隊員を後送する訓練を思い出しながら何とか咲夜を担ぎ込み再度走り出す。だが、ただでさえ思い普通科の装備品の他に少女を抱えた為に速度は鈍重だ。


 三尉たちが牽制射撃を行ってくれている為、フランの注意がこちらに向くことは無いがそれでも身を遮るものがない平地に長いこと身を晒したくはない。


 やっとのことで紅魔館の中に身を隠したときフランの弾幕が止んだ。


「やったか?」


 思わずそう呟き遮蔽物から身を乗り出し状況を確認する。


 フランは……依然健在だ。


 だが、度重なる銃撃により何発かの弾丸が命中したのか服の一部が破けそこから血を流している。しかし、フランにその流血を気にするそぶりは無い。


「アハハハ……オニイサン達、強イネ。お名前は?」


「俺は……いや、我々は陸上自衛隊だ。直ちに攻撃を中止し我に帰順せよ。これ以上の戦闘は無意味だ」


「フーン、無意味? 戦いに意味ヲ求めるの? 私はタダ遊ビタイダケ……貴方はイツマデモツカナ!」


 フランがそう言い放った次の瞬間、彼女は無数の弾幕を放ち静寂は破られた。

 塹壕の上を無数の弾幕が飛翔する状況下において木島三尉達に反撃の隙など、もはや存在しなかった。










2023年8月16日am11:40 紅魔館 庭 (木島三尉視点)


「山本の奴は退避に成功したな」


 フランの攻撃が止んだ時、紅魔館の玄関付近でこちらを伺う山本の姿を確認している。あそこまでいけばもう大丈夫だろう。だが状況は深刻だ。


「敵の注意をそらすことには成功したわけだが、まさか全く身動きが取れなくなる程とは……俺達は機関銃陣地に喧嘩を売ったのか?」


「恐らくそれ以上ですね。このままじゃやられます」


 佐藤の言う通りでこのままではジリ貧だ。射撃戦によって何発かの銃弾は命中しているはずだがフランは怯むことすらなく攻撃を続行してくる。対する俺達はフランの弾幕から身を守るのに精一杯だ。


「なぁ佐藤、何かいい案はないか?」


「いえ、もう詰んだと思うのですが」


 相手が擲弾レベルの火力で攻撃を繰り返すのに対しこちらは根拠法規の関係上、司令部が必要最低限度と指定した小銃弾までしか使えない。佐藤がそうボヤくのも仕方は無い。


「やっぱりお手上げか」


 その時、俺の無線が鳴り響いた。


『松本より特警マルヒト。現在、狙撃位置で待機中。射撃の可否を問う。送れ』


 狙撃銃で急所を撃たれればいかに吸血鬼と言えど死ぬのではないか? だが、これ以上部下を危険に晒す訳にはいかない。最早、射殺しかないのか……


「特警マルヒトより松本。射撃を許可する。射撃に際し全責任は俺がとる。目標を制圧せよ。送れ」


『……松本、了解。必ず当てます。終わり』








2023年8月16日 同時刻  (松本二曹視点)


 三尉からの命令を受けレティクルに目標を重ねる。観測手が居ない狙撃となるため発砲には最大限の注意が必要だ。

 風や距離を測りながら正確な一撃を加えるべく機会を伺う。そこで気になるものを見た。


 フランが被弾した際に出来たと見られる傷が既に塞がっているのだ。常識的に考えてこの短時間で回復することなどあり得ない。だが事実、何の処置もしていないのにも関わらず彼女の出血は止まり戦闘を継続している

 これが示すことは彼女が驚異的な回復力を持っている。もしくは不死身である可能性があると言うことだ。


 果たして彼女は銃弾などで倒せるのだろうか? いや、彼女を殺すことなどできないのでは……


 思考に沈んでいたその時、フランの放った弾幕が比較的近い場所に当たり小石などが俺の方に飛び散った。


 俺はとっさに身を翻してこれをかわそうとしたが、その時にトリガーにかけていた指に力が入りトリガーを引いてしまった。


 やってしまったと思ったが時既に遅し。大きな銃声と共に軌道が大きく反れた銃弾はフランを傷つけることなく飛翔し、その先にあった紅魔館のステンドグラスを貫き粉々に割った。

 まずいと思いその場を移動した数秒後、先程まで居た地面は粉々に砕け散っていた。









2023年8月16日 同時刻 (木島三尉視点)


「外れたか……」


 狙撃は最初の1発目が重要だ。これ以降は敵も警戒するからなかなか当たらない。狙撃による制圧はもはや不可能だろう。


「ここは一つ近接航空支援を要請してはいかがですか? 我々だけでは対処不能です」


「部隊の安全を考えれば妥当な判断か……”いずも”の作戦指揮所に連絡する」










2023年8月16日am11:45 旗艦”いずも” CIC


「古賀司令、特警隊分隊長の木島正義三等陸尉が近接航空支援、もしくは本艦隊による対空ミサイルでの支援を求めています」


 通信士が緊迫した表情で秋津艦長に報告する。


「ミサイル支援の要請だと? いったい何が起きている……」


「恐らく先程、出現したアンノウンが関係していると思いますが詳しいことは現場から報告を受けないことには判断しかねます」


 SITから緊急事態の通報を受けてはいたが詳細は依然として不明である。


「木島三尉は特戦群出身の精鋭です。その彼がこちらに支援を要請したとなれば相当な非常事態が発生していると見ていいでしょう」


「たった一人の対空目標も制圧できずに何が精鋭だ」


”いずも”副長のこの発言には流石に思うところがあったのか即座に伊藤一佐が反論した。


「お言葉ですが敵は吸血鬼という人知を超えた存在です。我々が得た情報から試算した結果、吸血鬼はたった1体で対戦車ヘリコプター1個中隊と同等の戦力を有する可能性があります。そんな相手にたいした武装もしていない1個分隊で立ち向かえというのはいささか酷な話かと」


「そういう事だ副長、言葉を慎みたまえ」


「はっ、申し訳ありませんでした」


「通信士、木島三尉と連絡を取り詳しい状況を報告させろ」


「いえ、私が連絡を取ります。通信士、貸してくれ」


伊藤一佐は通信士から無線を受け取り訓練通りの手順で通信を開始した


「特警01(トッケイマルヒト)こちらCP、至急状況送れ」


『特警01よりCP。現在、敵と交戦中。我は完全に制圧されている。送れ』


「敵とは何か? 吸血鬼か? 送れ」


『吸血鬼だ。単独での対処は不能。大至急、航空支援を要請する。送れ』


「ダメだ、航空支援には時間が掛かる。分隊が保有する全火器の使用を許可する。持ちこたえられるか?」


『無理だ。敵の制圧攻撃は予想以上に効果が高く反撃は不可能』


「CP了解。直ちに協議に入る。3分間持ちこたえろ」


『特警01了解。通信終わり』


「木島三尉との通信切れました」


「司令どうしますか?」


 艦長からの問いに古賀は遂に腹をくくった。


「仕方あるまい。攻撃可能な火器は何がある」


「CIWSは射程外ですが”みょうこう”の主砲ならば射程内ですし撃墜も容易かと」


 ”いずも”の砲雷長がだした結論に、しかし伊藤一佐が待ったをかけた。


「海自の練度は信頼していますが、目標は人間サイズで高機動なだけでなく至近に味方が居ます。誘導の利かない砲弾では誤射の可能性があるのでは?」


「でしたらミサイルとなります。敵は対空レーダーに映っていることからセアクティブホーミング式のSM-2艦対空ミサイルやESSM発展型シースパローなら撃墜可能だと思われます」


「距離的にESSMが有効だろうな。全艦隊に対空戦闘を下令せよ。それと”むらさめ”にアンノウンの撃墜命令を」


古賀司令の下した命令を副長が復唱し艦内に警報が鳴り響きCICに一気に緊張が走る。


「待ってください」


 声を上げたのは若いミサイル士だった。


「どうした」


「seRAMでも攻撃可能です」


「何? しかしあれは赤外線追尾式のミサイルだろ。ミサイルのロケットエンジンならいざ知らず、人間程度の熱源ではロックできないはずだ」


「しかし、どういった理由かは不明ですがロックオンをかけることが出来ます。この距離ですとこのseRAMが最も効果的であると考えます」


「よし分かった。”むらさめ”に対する撃墜命令は中止だ。本艦が対応する」


 秋津艦長の号令で”いずも”は対空戦闘態勢に移行する。


「了解しました。総員合戦準備、対空戦闘用意」


 艦内アラームが鳴り響き艦内が一斉に騒がしくなる。これは海上自衛隊が初めて経験する【教練】の2文字が付かない対空戦闘であった。


「各部非常閉鎖よし。甲板作業員退避完了しました」


「総員配置完了しました。対空戦闘用意よし!」


 艦内の状況が逐次報告される中、砲雷長が緊張した面持ちで対空戦の指揮をとる。


「右対空戦闘、CIC指示の目標。seRAMスタンバイ」


「ターゲットロック。seRAM攻撃用意よし」


 ここまで準備すると〝いずも〟の砲雷長は古賀司令に向き直り最終報告をした。


「司令、seRAMの発射準備完了しました。いつでも発射可能です」


「わかった。攻撃開始」


「RAM発射始め」


「発射よーい。撃てぇ!」











2023年8月16日am11:40 〝いずも〟甲板 (射命丸 文 視点)


 さっきこの船団の司令官だと言う古賀峯一と言う人から「乗組員の邪魔にならないように見学してくれ」と言われて案内役の〝高橋大城 三等海佐〟と言う人についていったものの、途中ではぐれてしまった。


 そう言えばここに一番最初に来たときもあったこの羽(?)の様なものが上にたくさん着いている機械は何なんだろうか。

 邪魔にならないようにと言われたが少しぐらいなら支障はないだろうと思い近くに居た整備員に声をかけようとしたとき。


「文さんこんなところに居たんですか、探しましたよ」


 この声を聞いて後ろを振り向くとそこには件の高橋三佐が居た。丁度良いなと思ったから私は彼に質問をしてみることにした。


「高橋さんここにたくさんある機械は何ですか」


「ん、あぁこれは海自の保有する対潜ヘリコプターでして……」


 ここまで言って彼の言葉はスピーカーから鳴り響く警報にかき消された。


『総員合戦準備、対空戦闘用意』


 何の指示かと聞こうと彼の顔を見ると、その顔からさっきまであった笑顔が消えて険しい顔になっていた。


「文さん、対空戦闘が発令されました。危険ですので艦内に退避してください」


 記事のためここで引き下がるわけにはいかないと思った私はダメもとで食い下がった。


「写真だけでも撮れませんか?」


「えぇぇ……うぅん仕方ないですね。……わかりました。カメラ貸してください、自分が撮ってあげますよ」


 高橋三佐は困った顔をしながらも代案を提示してくれた。だが、こう言っては何だが写真とは誰でも撮れるものではない。新聞の売れ行きの為にもしっかりとした写真でなくてはインパクトに欠けてしまう。


「いいですよ。自分で撮れますし」


「どの様に考えているかは分かりませんがミサイルはあなたが想像している以上に速いんですよ。恐らく経験のない貴女がカメラを構えたところで一枚もカメラに収まりませんよ」


 そんな意図があって彼の申し出を拒絶したのだが彼は退く様子を見せない。


「けど素人のあなたが撮るよりは……」


「大丈夫ですよ。これでも自分は海自一のミリオタですからこういう写真を撮るのは慣れてるんですよ。それに艦内に退避していただけないと俺が怒られちゃうんで」


「わかりました。お願いします」


 そう言って私はカメラを渡した。半信半疑だったが時間が無いので大人しく従って艦内に退避し、近場にあった窓から外を見た。すると丁度、何か箱の様なものが右の方を向いたところだった。


 何だろうと思い、良く見ようと窓に近づくとスピーカーからさっきの人の声が聞こえた。


『RAM発射始め』


 スピーカーの声が鳴り終わると同時に目の前の箱(?)の様なものから何かが飛び出し轟音と強い光と共に紅魔館の方へ飛び去っていった。


 慌てて甲板に飛び出すと、そこには笑顔が戻った高橋三佐が居た。


「どうですか文さん。RAM凄かったでしょ。あ、写真はバッチリですよ。ご確認ください」


 そう言って渡されたカメラを私はほとんどひったくる様に取り返し写真を確認した


「凄い……」


 何とそこには彼の宣言通り発射の瞬間から飛んで行くミサイルが4枚の写真に写っていたのだ。



用例解説


seRAM…赤外線誘導方式の近接防空ミサイル。射程は9.6kmと他の対空ミサイルに比べて短いが、飛翔速度はマッハ2.5と他のミサイルに劣らない。


SM-2…海上配備型艦対空ミサイル。主にイージス艦などに配備され最大で15目標程度の同時攻撃が可能である。最大射程は150kmにも及ぶ。


ESSM…艦対空誘導弾シースパローの発展改良型。発射直後の低速時でも高い運動性能を有し最大50Gの旋回が可能とされている。射程は30~50km。

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