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1話

 



 俺はついていない男だ。


 恋人たちの一大イベント、クリスマスの前に彼女と喧嘩して別れた。

 原因は思い出せないようなほんの些細なことだった。

 だけど言い争ううちにお互い引っ込みがつかなくなり、勢いのまま別れてしまった。

 同じ大学で知り合い、明るく自分の意思をしっかりと持っているのが魅力的な子だったが、今回はそれが裏目に出てしまったようだ。

 今じゃ連絡もぜんぜん取っていない。



 俺はついていない男だが、同時にとてもついている男だ。


 クリスマスに彼女とバスに乗って泊りがけでスキーに行くはずだった。

 直前に別れたために乗ることもなかったそのバスは、凍結した山道でスリップして崖から転落して大破した。

 運転手と乗客あわせて⒗名の全員がお亡くなりになったそうだ。

 つまり、俺は死を免れたのだ。


 そんな、年末のある日のことだった。



 気が付けば見知らぬ街にいた。

 ビルがあり地面にはアスファルトの道路があり信号もある。

 ただ、俺のほかに動くものがいない。

 人も、車も、空を飛ぶ鳥などもいない。

 ただひたすらに静かだった。


「ここはなに? いきなりどうなったの…?」


 背後から聞こえた声に振り替えると、そこにはかつての彼女、沙也加の姿があった。

 白いコートにブーツ姿は別れる前とちっとも変っていない、いや、髪が少し伸びただろうか?

 彼女はけげんな表情をしていたが、俺の姿を見てどこかほっとしたような顔をした。


「…久しぶりね……」

「あぁ…」


 なんとなく気まずくて、ぎこちなく言葉を交わしあう。


「ここ、どこなのかしら」

「さぁな、俺も分からない」


 微妙な距離を保ちつつ二人してあたりを見回していると、後ろのほうから眉をひそめたくなるようなだみ声が上がった。


「おいおい、なんだこりゃ! 一体どこなんだよ、誰が連れてきやがった!!」

「あ、兄貴、落ち着いてくださいよ」


 そこにはガタイのいい見るからにやくざ者のパンチパーマのおっさんと、線の細い気の弱そうなチンピラ風の男がいた。 

 決して関わり合いたくない人種だ。

 俺は聞かなかったふりをして前を見た。沙也加がそっと俺に寄り添ってくる。

 顔を見ればとても不安げで、いつも気の強い沙也加のたまに見せる弱気に久しぶりにぐっときて、思わず肩を抱いて引き寄せた。

 沙也加もそのまま体を預けてきて、ほっと溜息をつくのが聞こえた。


 何となく付き合っていた頃に戻ったような甘い感覚に浸っていると、斜め前におろおろしている初老の夫婦を見つけた。

 もしかしてほかにも人がいるのだろうかと辺りを見回すと、もう一人若い女の人がやはり戸惑った様子で突っ立っていた。


 この集まっている人たちに心当たりもなければ、共通点もなさそうだ。

 しいてあるとすれば、みんな態度はさまざまだが戸惑っているということだろうか。

 やくざ者が「責任者、でてこいやぁ!」と怒鳴りながらそこらへんのものを蹴飛ばし、その声と音にほかの者が怯えている。

 この状況の黒幕はお前じゃないのかよ、とやくざ者に怒鳴り返したくてイライラしていた時だった。


『やあ諸君。活きが良くて僕もうれしいよ!』


 不思議な声が響き渡った。

 皆きょろきょろと辺りを見回すが声の主らしき者は見えない。その間にも不思議な声は続く。


『僕は神様なんだけどね、バスの事故で死ぬはずだった君たち7人が何らかの手違いで生き残っちゃったんだよね~、うっけるぅ~!』


 そこで不思議な声は耳障りな笑い声をケタケタと上げた。

 俺たちははっとしてお互いの顔を見合わせた。

 俺と沙也加、やくざ者とチンピラ、夫婦、若い女性で7人。

 ここにいる全員は皆、あのバスに何らかの理由で乗らなかったおかげで生きのびた人間たちなんだ!

 そんな俺たちの様子をあざ笑うかのように不思議な声はとんでもないことをのたまった。


『でも君たちが生き残っちゃったら、僕がちゃんと仕事をしていないって上から怒られちゃうんだよね~。困るんだよね~。だ、か、ら。ここで皆には死んでもらいまぁ~す!』


 一斉に戸惑いの声が上がり、やくざ者は舌を巻きながらなにか怒鳴っている。

 俺の腕にいっそうしがみついてくる沙也加を慰めるように肩をやさしく叩きつつ、俺は何事も聞きもらさないように必死に集中した。


『ただ死ぬのも面白くないんで、ある条件を満たしたら、もしかしたら生きて元の世界に帰れるかもしれないよ! くぅ~、僕って優し~! じゃ、頑張ってねぇ!』


 そして何も聞こえなくなった。

 一瞬の沈黙のあと、一斉に皆が話し出したために場は騒然となった。


「ふっざけんじゃねぇ!! おら、出てきやがれ!! 面ぁ出せやコラァ!!」


 その中でもやくざ者の声がとにかくデカくて耳障りだ。

 この状況を必死に整理したい俺は、苛ついて思わずやくざ者を睨み付けた。

 やくざ者は隣にいるチンピラを蹴りながら煙草を取り出した。


「ったくよ、お前の手違いでバスの時刻を間違えて命拾いしたってのに。あれがお前のちんけな人生の中で、唯一の手柄だったな」

「はぁ、ありがとうございます…」


 チンピラはへこへこと頭を下げながらポケットからライターを取り出し、やくざ者がくわえた煙草に火をつけた。


 次の瞬間、俺は何が起こったのかわからなかった。


 煙草を中心に爆発し、俺たちは爆風に吹き飛ばされた。




 しばらくして、アスファルトに叩きつけられた体をゆっくりと起こす。

 鈍い痛みはあるもののどこにも怪我はない。

 何が起きたのかを確かめたくて、爆発が起きたほうを見た。

 そこには、全身血まみれで呆然と佇んでいるチンピラと、上半身が無くなったまま立ち尽くしているやくざ者と思わしき下半身が立ち尽くしていた。


 言葉もなく見守る俺の目の前で、出来損ないの人形のような体はゆっくりと倒れた。


 あちこちで絶叫と悲鳴があがる。

 チンピラはまだ立ち尽くしている。

 俺は混乱しつつも違和感を覚えた。


 あんな近距離で爆発したにも関わらず、チンピラは何で無事なんだろう?

 やくざ者は上半身が吹き飛んだんだぞ?

 チンピラの腕が吹き飛んでいたっておかしくないはずだ。


『はいはいお一人目。死因、煙草型爆弾にて死亡。……ぷぅ~くっく!! うけるでしょぉ~!!』


 唐突にあの声がして、絶叫や悲鳴がぴたりと止まった。

 皆顔面蒼白だが必死に声を押し殺しているようだ。


『みんな、わかってもらえたかな? せっかくだから、普通じゃできないような死に方をいろいろと用意してあげたよ、嬉しいでしょう~? 

 死因はひとりひとり別のを用意してあげたから、巻き込まれて一緒に死ぬなんてくだらないことはないから安心してね!』




 声が聞こえなくなった後、あたりは痛いくらい静かだった。

 何かをすることで死の引き金が引かれるからかもしれないし、ただもう呆然自失なだけだけなのかもしれない。


 沙也加はどうなった?

 俺は爆風で離ればなれになった沙也加を見つけようと見回した時だった。


「うわぁああああああああああ!!」


 気の狂ったような叫び声に思わず顔をやれば、チンピラの男が口から泡を吹き出しながら走り出していた。

 そのまま近くの公園に走り込み、公衆トイレの中に消えていった。

 個室にでも閉じこもったのだろうか?


 しばらくチンピラの消えたトイレを眺めていたが、やっと我に戻り沙也加を探そうと足を踏み出したときだった。


 爆発音が鳴り響き、とっさにトイレを見た俺の視界で茶色いものが2mほど柱のように噴出していた。


「うっ、臭っ!!」

 鼻に刺激臭が届く。

 思わず吐き気に襲われて口を押えた時だった。


『はいは~い、二人目死亡。死因:トイレに溜まっていた何か訳の分からないガスが爆発して死亡。ちょっとぉ~、他にもいろいろと用意してるのに、何で爆発が続けて出ちゃうのさ! しかもアイデアに詰まってやけくそで作ったやつなのにぃ~。あ、今、トイレだから“やけくそ”ってかけたのわかった? ぷっくっく!』



 もう何が何だかわからなくて呆然としていると、俺の名を弱々しく呼ぶ声に気が付いた。

 沙也加がへたり込んだまま泣いている。

 俺は震える足をごまかしつつ急いで沙也加の元に駆け付けた。

 沙也加は俺に必死にすがりついてきた。

 俺も腕に閉じ込めるように抱きしめて、しばらく二人で抱き合っていた。



 俺は心に誓った。

 沙也加を絶対に守ってみせると。

 声は言ったじゃないか、『ある条件を満たせば元の世界に帰れる』と。

 腕の中で震えている沙也加の温もりを感じつつ、俺は必死に考えた。

 この世界が何なのかさっぱりわからない。

 それよりもまずわかることから情報を集めよう。

 俺はいまだ座り込んで呆然としている人たちを見回した。

 彼らから話を聞くことにしよう。



 俺はまだへたりこんで動けそうにない沙也加に声をかけ、他の人の話を聞いてくるからここにいるように言った。

 だが沙也加は更に力をこめて必死に俺にしがみついてきた。

 涙目で震えながら俺の顔を見て、『置いてかないで』と首を横に振り続ける。

「じゃあ、一緒に行こうか」と安心するように声をかけ、沙也加を抱き起した。

 沙也加は必死に立ち上がると、ふらふらしながらも俺の腕にしがみつき歩き始めた。


 まずは一番近くにいる夫婦のところへ行くことにした。



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