introduction4
神谷達の誘いを受けて自らの意思で地下に下りていく。
そこで彼は神谷がなぜ自分を誘ったか、その理由を垣間見る。やはり神谷と自分は同士なのか?
「さあ、ちょっと気を落ち着けてみて・・・どう?何か感じる?」
神谷は醍醐の方を見て聞いてみた。
「うん・・・昨日に比べてクリアーな感じがする。その、ごちゃごちゃしてない感じ。」
「そうだね。昨日は確かに多かった。ここは色々な要素で状況が変わる。」
「はっきりしたことはわかってはないが・・・月齢や星の配置とかは関係あるみたいだ。」
「なるほど・・・」
「でも、ここで感覚が一番確かだ。ミクは鋭いから外からでも把握できるが僕にはわからない。」
「自分もわからなかった・・・」
「ああ、別にいいんだ・・・・・」
「もっと大事なことなんだがいいかい?」
神谷は醍醐の方を改めて見て続けた。
「ここでは肉体的なこと、技術的なことは反映される。僕らは身体を持って来てるからね。でもそれだけじゃない。僕らはインフレーションと呼んでる。」
「インフレ?」
「そう、ちょっと離れるよ。」
そう言って神谷は少し醍醐から離れた。
「いいかい?」
神谷は垂直にジャンプして見せた。
「えっ!?」
神谷は垂直に2メートル程飛んで見せたのである。
「これがインフレーション、つまり現実世界ではあり得ない能力が発揮できる。君は無意識に昨日それを使っていたんだ。つまり適性があるってことだ。しかも、感覚的に掴んでやってたよね。適性もセンスも一級品だ。」
醍醐は思い返してみた。
あのひざ蹴り、間合いからのスピードは確かに出来すぎていたと思う。
それを察した神谷が続けた。
「それをコントロールできなければ問題ない。多分、簡単だよ。まず坐禅の要領で何も考えない時間を意識してみようか。」
「うん」
醍醐は目を閉じてみた。
・・・・・
・・・・・
少し時間はかかったがその一瞬、車のギアが抜けたような感触を感じた。
「ん?それかな?」
「これが?」
「ああ、ちょっと飛んでみて」
醍醐は言われるままに飛んでみた。
「!!」
おっ!
さっきの神谷が飛んだように同じくらいまでジャンプしたのである。
「どう?これがここでの適性が出た能力だよ。」
「ああ、びっくりした。」
「あとは慣れてくれば・・・活かし方とか色々考えられるようになるだろうね。それと・・・」
神谷は手を何もない方にかざした。醍醐は何をしてるのか不思議に思った。
はっ!
神谷が軽く気合いを入れると何メートルか先に小さい砂塵が巻き起こった。
「今のは、いわゆる魔法みたいなものだ。ますますゲームみたいだろ?」
醍醐の方を見て軽く笑った。
「手の方に集中して、それを出すイメージを作ればいい。やってみるかい?」
醍醐は手に集中してそれをかざしてみた。
「出た!」
小さいけど明らかに何かが出た。
「んー・・・小さい氷かなあ?人それぞれに出るものは違うし大きさも違うけど、醍醐さんは氷なんだろうなあ」
「でも、これじゃ使えなさそうだ。」
醍醐は落胆した様子で言ったがそれを打ち消すように神谷が言った。
「これも慣れだよ。練習するのはいいけど、これ疲れるから気を付けて。ボチボチでいいんじゃないかな?」
「まあ、そうですね・・・ボチボチやってみます。」
「さあ、昨日の方に向ってみようか?周りが少しざわめいてきたのはわかる?」
「そう言えば・・・」
改めて醍醐は気を澄ませてみると雰囲気を感じた。
「やつらは寄ってくる習性があるからな。僕の感覚だと昨日より密集も低いし数も少ないようだが・・・落ち着いてみるとどう?違うもんでしょ?」
「うん、昨日は相当パニクってましたし、こんな世界があるんだって聞いてきたから・・・結構違うもんですね」
「じゃあ、改めて。」
神谷が指示を出した。
「僕は基本的に右が前に出る。君は右利きだから左が前、ちょうど背中合わせで行こう。」
「一応、右利きだけど槍なら左の方がいい・・・あ、右でもいいよ。大丈夫。」
醍醐は6尺の短い槍を構えて答えた。
「ちなみに連携するのに・・・<さん>は要らない。神谷でもリュウでもいい。僕もタツと呼ぶから。」
「オーケー・・・もう来るね」
現われたのは昨日のような5人組だった。
「まあ、落ち武者狩りの奴らだろうな。怖いとかそういうのはないね?」
「ないよ。問題ない。」
「じゃあ、さっきのインフレーションの感覚を忘れずにやってみよう。」
「了解」
5人組は近付いてきたが、二人はあっさりと間合いを詰め、槍の醍醐が突きを出して一人目を倒すと息が合ったように神谷も袈裟切りに倒した。
「同情はいらない!!奴らは亡者だ!改めてあの世に送る!!」
神谷は大声を出して鼓舞した。
醍醐はその槍を引き抜いて斜め上から別の奴に振り下ろした。その間に神谷は見事な剣捌きで突きから逆水平に二人を倒した。
「さすがですね」
「まあ、こんな感じだ。でも槍もちゃんと使えるんだ?」
「これは齧っただけです。まあ、長物はリーチありますから怪我しなさそうだと思ったので。」
「なるほど・・・一番は?」
「やっぱり、素手の方が得意だけど、ナイフだと非力ですからね」
「先生にそれは相談しよう。頼んでみるといい。作ってくれると思う。」
「いや、それは・・・そこまでは・・・」
「ん、あの人はそういうの半分趣味だから問題ない。拳武器って言うと・・・ナックルかな?セスタスかな?」
「まあ、相談させてもらいます。」
そのとき急に気配を感じた。敵ではない。遠くを見るとそれは妖精の姿をしたミクだった。近くまで来ると少し焦っているように話し始めた。
「ごめんなさい。突然なんだけど少し離れたところに人の反応があるの。助けに行けますか?」
「ああ、問題ない。で?」
「多分、適性はないと思う。昨日の・・・えと・・・醍醐さんとは違います。」
「やっぱり迷い込む人はいるんだ?」
醍醐がそう言うと神谷は少し考えてから口を開いた。
「ちょうどいい。醍醐・・・いやタツも行くかい?」
「そうですね神谷さんに付いて行きます。何か助けになれば」
「いや、リュウでいい。じゃあ行こう。遠慮は要らない。何が呼びやすい?」
「あ、じゃあリュウちゃんでいいかな?」
「いいよ。構わない。よし、こっちだな。」
そう言って足を向けた。
昨日と違い全然敵には出会わない。早足で向っているがどうやら敵の気配は散漫だし、かなり遠いようだった。
「あれか?」
少し離れたところに倒れている女性の姿が見えた。
近寄ってみたが気を失っているようだ。神谷が頭を持ち上げて声を掛けてみた。
「もしもし、大丈夫ですか?」
女性は「うーん」と言いながら目を開けた。
「あ、すいません・・・ここは・・・?」
弱弱しく女性は神谷に尋ねた。
「怪我はないですか?とりあえず立って僕らに付いて来てください。」
「ええ・・・」
「途中、何かに会ってないですか?」
「いや、別に・・・ところであなたたちは?」
無理もない。横で見ていた醍醐は納得できた。何しろ剣や槍を持って、怪しいプロテクターをしてる姿はどう見ても異常以外の何物でもない。極めつけに妖精が飛んでいるのだ。
「えーと、ここは夢の中です。まあ、怖い夢ですけど付いてくれば悪夢は覚めるでしょう。じゃあ、行きますよ」
女性を促して立ち上がらせた。
ミクが醍醐の耳元で小さな声で言った。
「まあ、マニュアルみたいなもんだから。」
とりあえず歩き始めたが女性は不安そうに周りを見渡しているようだ。まあ、昨日の自分もそうだったなぁと醍醐は昨日の事をすでに懐かしんでいた。
「ごめんなさい、少し急いだ方がいいかも。」
ミクが言った。
「追われてる。数はそんなに多くない。3人?」
「まずいな。あなた走れる?」
神谷は女性に尋ねてみた。
「でも、ここはどこなんですか?それに追われてるって、何に追われてるんですか?何か怖い感じがするんですけど、何なんですか?」
冷静を装って話しているが明らかに混乱しているのだろう。足が止まってしまっている。それに震えているようにも見える。
神谷は醍醐の方を向いて言った。
「適性があろうがなかろうがここで感じる恐怖とかは変わらないんだ。君は刃物持った相手に逆切れして向って行こうとしたらしいけど。」
「私はありのままを報告しただけです。あともう既に何体か倒してるって・・・」
ミクも醍醐の方を向いて弁解するように言った。
「ああ、別にいいよ。」
醍醐は気にする様子もなく答えた。
女性は足が止まってしまっている。そして座り込んでしまった。
「まずいな・・・」
「近いね」
「まあ、今日は二人だし何とかなる」
「守りながら戦えるかな?」
「あいつら、もう来た。」
走って足軽が向かってくる。
「数が増えるとまずい。始末しよう。ほら立って!あいつらに殺されるよ!」
神谷が女性を叱咤するがその足軽を見て茫然としている。
「しょうがない。行って来る。タツはこっちにいてくれ。」
「ああ、たのんます。」
神谷は槍を剣で捌いたがその音は響いてきた。金属と金属のぶつかる音、時代劇の音よりも重たい音がする。
「いや!!やっぱり本物!!うぇぇぇん!!!いやぁぁぁ!!」
女性は堰を切ったように大声で泣き出してしまった。
「大丈夫だよ」
と醍醐がなだめても大声で泣き続けている。
そのうちに神谷が始末して戻ってきた。
「さあ、とりあえず行こう!また来るぞ!」
何とか女性は立ち上がり、歩き始めた神谷達に付いてきた。
やがて、あのドアのある建物に着き階段を上って元の世界に戻った。
女性はドアをくぐった瞬間に気を失ってしまったので結局、醍醐が背負ってリビングまで連れて行った。
ソファーに横にすると神谷は手早く装備を外し女性を背負ってエレベーターに乗った。
「じゃあ、先生の所に連れていくから、醍醐さんはシャワーでも浴びてくつろいでて、装備はロッカールームでいいから。そろそろミクも来るし。じゃ!」
そう言って神谷は上に登って行った。
「お疲れ様でした。どうでした?」
ミクが後ろから声を掛けてきた。今度はちゃんと人間の姿をしていた。
「ああ、お疲れ様でした。ちゃんと戻るんだ?」
「うん、さっきリュウジ君も言ってたでしょ?適性の事を。」
「ん?ああ」
醍醐は適当に相槌を打ってしまった。
「あれが私の力なの。妖精の姿になってサポートしたり。ほら、あの姿だと飛べるから移動も早いし。」
「そうなんだ・・・」
「あ、それ早く外しておいでよ。あとシャワーならすぐ使えるし。」
「うん」
シャワールームの更衣室にはタオルも用意してあった。設備自体はホテルにあるようなユニットバスで使い方は聞かなくてもわかりそうだった。
「あー、今日はそんなに動いてないしいいや」
装備を外してリビングに戻った醍醐はミクに向かって言った。
「そう?じゃ、冷たいものでも」
「ありがとうございます。その・・・なんか・・・いい待遇過ぎるって言うか・・・あんまり気を使わなくてもいいですよ。」
「いえいえ、気にしないで。そうそう、さっきのシャツに付いてた小さな箱、もらっていい?」
「ああ、今、持ってきます」。
そう言ってロッカールームでシャツを確認すると裾の部分に小さなポケットがありマッチ箱のようなものが入っていた。ジッパーを外しその金属製の軽い箱を持って戻った。
「ありがとう。そうそう、これに記録が入ってて専用の気化器に繋ぐとわかるようになってるの。今日は何体倒したとか、楽チンだったとか、大変だったとか、そういう記録。」
「話してた事とかは?」
「どうかなぁ?それはわからないけど・・・」
「そうなんだ。いや、エロい話とかしてて記録されてたら困るなぁって」
「まあ、そういうプライバシーは大丈夫だけど・・・でも結構、直に付いて歩いていることをお忘れなく。」
「そうだよねぇ・・・はい・・・気をつけます・・・」
「今日は足軽2体だから・・・んーお小遣い程度かなぁ。記録しておくから。あと明細もそのときに。」
「あ、うん。」
神谷がエレベーターで降りてきた。そしてリビングに顔だけ出して言った。
「あ、醍醐さん。さっきの人の問診を見に来てほしい。ちょっといいかな?」
「はい、今行きます。」
診察室のカーテンの前で神谷と醍醐は耳を澄ませた。
「あー、倒れた時のこととか何か覚えてる?」
「いえ、何も覚えてなくて・・・その気がついたらここに寝かされてました。ここは病院ですか?」
「ここは新宿ハートクリニック。新宿の町医者だよ。知り合いが君を運んで着て来てくれた。」
「え、そうなんですか?・・・えーと・・・どうもすみません・・・その運んでくれた方は?」
「あー、自宅に帰ったが、何か?」
「いえ・・・その、お礼とかそういうのが・・・」
「気にしなくていいですよ。ちょくちょく会う人間なので会ったときにお礼を言ってた事はお伝えしますよ。」
「でも・・・」
「いやいや、気にしなくてもよろしい。ところで倒れた原因なのだが・・・持病とかは特にないね?」
「ええ、強いて言うと貧血とか・・・」
「そうですか。まあ、貧血か過呼吸でしょう。心電図には異常はなかったけど、もし、何回もあるようなら大きい病院で検査してもらうといいでしょう。心配はいらないと・・・・・」
神谷と醍醐はエレベーターに乗った。
「あれが普通の人の様子だよ。」
「じゃあ、自分は普通じゃないんだ?」
醍醐はおどけたように言ったが
「そう、普通じゃない。僕と同じくね。普通の人には記憶は残らない。だから何も知らない。」
「自分みたいな人って多いんですか?」
「いや、ほぼ全員があんな感じだ。あそこでやられていれば・・・うーん、まあ突然死みたいな感じになる。」
「なるほど・・・で、ほぼってことは?」
「ああ、それね。今はもう一人、女性がいる。10日位は仕事で来られないとのことだけど。ほら、ここ別に強制じゃないし?」
「女性かぁ・・・」
「そう、まあ、好みかどうかは別としてファンはいる位の女性だよ」
「ファンって・・・芸能人!?」
「うーん、芸能人・・・まあ、近いけどねぇ」
エレベーターは下まで来て一度ドアが開いて、そして閉まっていたので再びボタンを押して外に出た。
リビングには冷たいお茶とお茶菓子が用意されていた。
まだまだ序章です。登場人物も揃ってないですし・・・・・