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introduction

うぅぅぅ・・・・・


一人の青年が荒地に横たわったまま呻き声を出した。どうやら大けがをしているわけでもなさそうだ。


全く・・・・・ところでここは?


彼は酒を飲んでいた記憶はない。街中を歩いていてどこかに落ちてしまったような気がしただけだ。


あたりを見回した彼の見た景色は異様なものだった。そこは仄かに薄暗く、曇りの日の夕暮れのようだった。

周りの建物はとても現在のものではなさそうだった。映画で見たような古い異国の町並みっぽいが、その雰囲気はどこか暗欝だった。


彼は立ち上がり、どこともなく歩き始めた。手荷物はもともと持って歩いていたわけではなく、とりあえずポケットの財布の確認をした。


この風景を見て、彼は多少なりとも混乱していた。しかし、極端に取り乱す事もなく、人のいるかも知れない方向を探して適当に歩き始めただけのことだ。


周囲を見回しながら歩いても周りに人の気配は感じられない。野良ネコやカラスといった動物も見つけることはできなかった。



何かの気配がする・・・近づいてくる・・・駆け足のようだ。



人か?


彼はそう思い、その方向に足を向けた。しかし、その先にいた者は想像がつかなかった。

道の向こう側に見えた人、それは・・・・・


戦国時代の足軽のようだった。衣類や鎧は傷んでいるようであり、その顔にも生気はない。


あのー!?


彼は大声を出して呼びかけた。だが、呼びかけに対しての答えはこちらに向けて粗末な槍を構えた事だった。


えーと!?


再び大声を出したがこちらに無言のまま近づいてくる。

そしてその槍の穂先をこちらに突き出してきたのだ。


なにっ!!


幸い、その槍の使い手は見るからに未熟だった。先ほどの構えからも武器を使い慣れているとは思えなかった。

当然、彼はその突きをかわして少し離れた。しかし、相手は再び槍を構えた。


何すんだよ!!


大声を出したが相手は無言のままでジリジリと再び距離を詰めてくる。次の攻撃を狙っているのは明白だった。


再び槍を突き出してきた。今度もかわす事ができた。が、今度はその槍を右手で掴んで動きを封じた。

さらにそれだけでなく左のストレートを浴びせた。


槍を持った小柄な足軽は吹っ飛んで倒れたが、起き上がってまた槍を構えたのである。


今度は殺すぞ!!


明らかに自分を狙っている。殺そうとしている・・・

相手は武器を持っているのだから正当防衛だ。


彼はファイティングポーズをとり、大声で吠えたのだった。


また足軽は起き上がり距離を詰めてくる。今度は自分からステップを踏み距離を詰めた。


左ジャブ、右ストレート・・・上体がのけぞった所に後頭部を押さえつけてひざ蹴りを入れる。

前のめりになって足軽は倒れこんだ。


とりあえず彼はその場を離れた。まずは逃げなければまた襲われる。それに・・・


こいつだけじゃない・・・他にもいる。


そんな気配を感じるのだ。やっぱり、向こうを見ると今度は3人の足軽が走ってくる。

背を向けて全力で走ったが今度は自分の進行方向の先に気配を感じる。路地を曲がるとやっぱり・・・いた!


一人だったので走っているスピードのまま飛び膝を入れた。

いい角度で入ったのでその足軽も倒れた。しかし、後ろから迫って来るし、この先にもいるようだった。


焦りながら、呟きながら走っている。深く考える余裕はとうにない。今度は二人組に遭遇した。

ワンツーを食らわせて一人をダウンさせた。すぐにもう一人に前蹴りを入れると後ろに倒れていった。

先ほどのようなヘビーダメージではないが逃げるには十分だ。


少し、気配が遠くなったようだ。全力で走っていたため、息を切らしながら、それを整えながら歩きに変えた。



何が何だかまったくわからない。

なんせ気がついたら映画のセットみたいな所にいて、いきなり武器を持った奴らに襲われたのだ。


夢・・・か?変な夢だ・・・今何時?


しかし、拳にはきちんと感触が残っている。けがをしたわけではないが少し打った様な感触が両手に残っている。



どこともなく歩いていると、やっぱりさっきのような誰かに追いかけられている気配がする。


やっぱりいる!!


路地から行く手を阻むように出てきたのは3人。真ん中の奴は身なりや鎧の様子から本職の武士なのだろう。

この近さや位置関係では逃げるという選択肢は厳しい。


ファイティングポーズをとり、自分の為の間合いを詰めた。粗末な槍を持った一人がその槍を突き出してきた。

今度は突きを外すように前に踏み込んで、狙ってカウンターを左で取った。間髪入れずにミドルキックを放った。

鎧の上からとは言え、肋骨が折れるくらいのハードヒットだ。

仰向けに倒れて動かなくなった。


残りの二人はジリジリと動いているが積極的に間合いを詰めては来ない。しかし、自分の後ろからも追われている気配を感じる。


どうしようか・・・・・



そのとき、耳元に女性の声がした。


「とりあえず逃げて!」

「あなた誰?」

「いいから」


正面の敵に後ろを向けて走り出した。とりあえず楽に引き離して、気配から遠ざかるように走り続けた。

少し落ち着いた所でさっきの声の主を探した。



目の前には小さな、羽根の生えた女性がいる。

この姿は・・・・・これは・・・ようせい?


えーとこれは夢な・・・

「あのね、これは夢じゃないの」

「はいぃぃ!?え!?」


「けがはない?ここでのけがは本物よ」

「あのぉ??」


その妖精のような姿はちょっと変わっている。姿は女性で妖精のような羽根が生えている。でも、服装は時代的なものではない。派手ではないが現代の女性の服装だ。


「今、とりあえず助けが来るわ」

「ま、そりゃ助かるけど・・・」


彼はわけがわからな過ぎて開き直ったらしい。その様子を見て今度は要請が不思議そうな顔をした。


「おーい」


遠くから、今度は要請じゃなくて男の声がした。どうやら彼が、助け、らしい。


白いワイシャツの襟は少し開き気味で、その下には普通のシャツではない着物が見える。そして季節にそぐわないマフラーをしている。スラックスを履いてはいるが、その下にはプロテクターのようなものをしているようだ。

何よりも、剣を差していた。レイピアのような細身の剣だ。


「けがはないね。いや・・・すごいね。素手で3体倒してるなんて。」

「あの・・・」

言いかけた所で言葉を遮られた。


「とりあえず説明は後でする。今はここを出よう。自分は神谷リュウジ。あなたは?」

「醍醐タツロウです。」

「醍醐さんね。わかった。」


神谷は2本の剣を腰に差していた。一本は普通の剣、もう一本は短剣である。


「とりあえず、二本持っているどっちかを貸してくれませんか?

「じゃ、これを」



なかなか話がわかる。短剣を神谷が差し出した。


「あのー、奴らが近づいてます。移動しないと・・・」

その声に促されて早足で歩き始めた。



「あの・・・ここってどこなんですか?

醍醐は神谷に聞いてみた。


「えーと・・・あなたはオカルトとかは好きかい?」

返ってきた答えは全く的外れなものだった。


「えーと・・・あなたはオカルトとかは好きかい?」


「まあ、嫌いじゃないですけど」


「じゃあ、ずばり。ここはあの世とこの世の境目さ。」

「・・・・・僕は死んでるって事ですか?」


「いや、死んでないよ。ここを出たら説明しよう。ところでミク、帰り道と周りの様子を教えて」


さっきの妖精はミクというらしい。

「うん、出口はそんなに遠くない。でも・・・・・阻んでる奴がいるっぽい」

少し困った口調で答えた。

「少しなら問題ない。あなた・・・えーと、醍醐さんもけがをしないように。」


やがて町外れまで歩いてきたようだ。しかし、近くに・・・いる!!



今度は5人だ。武士っぽいのが真中に一人、足軽が4人いて横一列でこちらを狙っている。

道も広くはないので倒す必要がありそうだった。


「僕が相手をする!下がって!」

神谷が指示を出す。


「いや、いくらなんでも5人はきついよ。」

ミクが心配そうに言う。


「自分もやるよ・・・」

醍醐は借りた短剣を構えた。


神谷の構えはフェンシングのそれだ。きちんとサマになっている。

醍醐の構えはキックボクシングの構えだが、歩幅が大きく、剣を握った右手は少し下で引き気味だ。

背中合わせのように二人は前に出て準備をする。


「行くぞ!!」

神谷が合図をし、二人同時に襲いかかる。


神谷は真中の武士の小手を叩くとすぐにその横の足軽に突きを入れた。その剣先は喉の辺りを突き刺した。


醍醐は大きく一歩を踏み出した。

「シュッ!」という気合いと共に短剣をやはり喉元に突き刺し、それを素早く抜いて、外側の足軽に向けて大きく振って牽制した。

その間に神谷は二人目の足軽に照準し、連続で剣を振り後退させている。

醍醐は外側の足軽の突きをかわすと、そのまま左構え(右手右足が前)になって、フックのようにに頭に短剣を突き刺した。


神谷も追い詰めた足軽にとどめを刺してこちらを向いた。

ちょうど最初に小手を浴びせた武士が醍醐の方に向かっていた。


あぶない!!


神谷は叫ぼうとして思いとどまった。そして醍醐の動きを注視することにした。


醍醐は上段から刀が振り下ろされるのを相手の腕の所でブロックした。

態勢が崩れたところで後ろに回りこみ、左手で相手を抱え込んで動きを封じたと同時に右手の短剣を背中から突きさした。

そのまま武士は倒れこんだ。



「いや・・・すごい!見事な体術ですね。」

神谷がびっくりした様子で醍醐を褒めた。

「すごい・・・」

ミクはそれ以上の言葉が出なかった。


「あ、小さい頃から空手とかキックボクシングをしてたんで・・・

でも、こいつらは?」

「亡霊だよ。消えるのが自然の摂理さ。」

事も無げに神谷が言う。

「さあ、あそこの建物の中に出口がある。もう大丈夫だろう。」


連れられて建物の中に入ると古びた、しかし威厳のあるドアがあった。

そのドアを開けるとその先に人工の光の匂いがした。




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