足が痛ぇぇぇえ!!
実話をもとにしています。
七月中、作品を書けなかった理由です。
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
きっかけは、会社の後輩からの誘いだった。
「え? バスケ?」
「はい。黒井さんは異動してきたばかりなので、ご存じないと思いますが……うちの部署の男性社員は、月に一度集まってバスケをしているんです。よかったら、ご一緒しませんか?」
(バスケか……。しばらく運動してなかったし、お腹も出てきた。ちょうどいい機会かもな)
「いいよ。スポーツは好きだから、ぜひ!」
「よかった~。部長も喜ぶと思いますよ」
「あ、部長も毎回来てるの?」
「ええ。一番やる気があるのは部長なんです」
(部長、お腹めっちゃ出てるけど……本当にバスケできるのかな。これはダイエットには効果なさそうだな)
◇
バスケ当日。
「よーし! じゃあ、ウォーミングアップをしてから、3x3を始めよう!」
部長の掛け声で、それぞれランニングやストレッチを始める。
十分に体を温めたあと、メンバーを入れ替えながら3x3を行った。
「黒井さん!」
後輩からのパスが飛んでくる。
俺はスピードを落とさずドリブルで切り込み、そのままレイアップシュートを放つ。
パサッ。
「ナイッシュー! 黒井さん!」
後輩が歓声を上げる。
「やるな、黒井くん!」
「ナイッシュー!」
部長や同僚たちも次々と声を掛けてくれた。
数試合こなした後。
「はぁ、はぁ……ちょっと休憩しよう……」
部長の一声で全員がコートの外へ向かう。
「あれ? 黒井さん、水分補給しないんですか?」
「だって、このあと飲みに行くんでしょ? どうせなら、喉をカラカラにして飲んだほうがビールがうまいじゃない?」
「さすが黒井さん! 本当にお酒好きですね!」
このときの俺は、それが悪夢の始まりだったとは思いもしなかった。
◇
その後、一行は居酒屋へ。
「いや~、今日もいい汗かいたなぁ」
部長が満足そうにジョッキを掲げる。
「黒井さん、バスケめちゃくちゃ上手でしたね」
後輩が笑う。
「新エース誕生じゃない?」
同僚も続けた。
「いやいや、照れますよ」
そう言いながら、まんざらでもない俺。
このあと待ち受ける地獄など、知る由もない。
「それじゃ、新エースの誕生を祝して──乾杯!」
部長の音頭で宴会が始まった。
「はぁ~……ビールが最高だ。渇いた喉に染みるなぁ」
「黒井さん、ここのレバニラ、絶品なんですよ」
「本当!? 俺、レバー大好きなんだ!」
酒も料理も進み、宴は夜遅くまで続いた。
◇
(いっ……痛い……)
明け方。
突然、左足に走った激痛で俺は目を覚ました。
(筋肉痛じゃない……。なんだ、この痛み……?)
ズキズキ、ジンジンと脈打つような痛み。
眠ろうとしても痛みで目が覚め、そのまま浅い眠りを何度も繰り返しながら朝を迎えた。
朝食のためにリビングへ向かう。
しかし、足が痛い。
まともに歩くことすらできず、足を引きずりながら何とか食卓へたどり着いた。
「どうしたの?」
家族が驚いた顔で尋ねる。
「あのさ……昨日の夜、誰か俺の足を踏んだ?」
「は? 踏むわけないじゃん。ベッドで寝てる人の足なんて踏めないでしょ」
「……だよね。でも、本当に痛いんだ。誰かに全体重をかけて思い切り踏まれたみたいな痛さでさ……」
仕事どころではない。
俺は部長に連絡して休みをもらい、そのまま整形外科を受診することにした。
◇
「痛風ですね」
高齢の医師は検査結果を見ながら、あっさりと言った。
「え?」
(つーふー? ツーフー? Tsu-fu-? ……え、痛風!?)
「痛風って、あの足が痛くなる病気ですか?」
「そう」
「風が吹くだけで痛いっていう?」
「そう」
「でも、俺、まだそんな歳じゃないですよ!」
俺の中では、痛風は完全に「高齢者の病気」だった。
ほら、ドラマとかで、「わしゃ、痛風でのお……」なんて言ってそうなイメージがあるじゃない?
「痛風は若いうちに発症する人も多いよ。特に三十代」
「えっ!?」
「激しい運動をするアスリートが発症することもある」
「アスリート……」
(アスリートかぁ……。「痛風=アスリート」の証。ついに俺もアスリートかぁ……)
思わずニヤニヤしてしまう俺を見て、医師は少し困ったような顔をした。
「まずは野菜をしっかり食べて、水分をたくさん摂ること。尿酸値を下げないとね」
「野菜……」
「そう」
「レバーは?」
「ダメ」
「ホルモンは?」
「ダメ」
「カツオは?」
「ダメ」
「白子は? あん肝は?」
「ダメに決まってるでしょ。あと、ビールもダメ」
「ビ……ビールが……ダメ……だと……?」
俺はその場で膝から崩れ落ちそうになった。
「それと、適度な運動をすること」
「運動!」
俺は勢いよく顔を上げる。
「ふっ、ふふっ……それなら大丈夫です! なぜなら俺は、昨日から天才バスケットマンですから!」
「ダメ」
「え?」
「激しい無酸素運動はダメ。ウォーキングみたいな有酸素運動にしなさい」
(えっ、昨日デビューしたばかりなのに……、引退!? もう引退なのぉぉぉ!!)
「先生……」
俺は医師を真っすぐ見つめた。
「バスケが……バスケがしたいんです……」
「ダメぇぇぇ!!」
◇
こうして俺は、新たなフレンド「Tsu-fu-」と共に生きることになった。
最近は発作もほとんど起きなくなり、平和な日々を送っていた……のだが。
先日、久しぶりにヤツがやって来た。
真夏。
エアコンをガンガンに効かせた部屋で、サッカーのワールドカップを観戦していたときのことだ。
足元が寒いくらいに冷えていた。
痛風の発作中は患部を冷やすのがよいとされる一方、普段から体が冷えすぎると尿酸が溶けにくくなり、結晶ができやすくなることがあるらしい。
そんな絶好のタイミングを狙ったかのように、マイフレンドが突撃してきた。
そう。俺も各国代表選手たちとともに、痛みと戦っていたのだ。
しかも、その時期は仕事の繁忙期。
足を引きずって出勤し、帰宅すると倒れ込むように眠る毎日。
あ、シャワーはちゃんと朝に浴びていましたよ。
そんなわけで、七月はほとんど執筆も作品を読むこともできませんでした。
皆さんも、飲み過ぎにはお気を付けください。
(お前が言うな!!)
最後までお読みいただきありがとうございます。
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