8
読んで頂きありがとうございます!
流石は優秀と名高い公爵令嬢、城の者達からも忘れられかけている王女の存在を言い当てるなんて恐れ入る。
「王女殿下!?」
公爵令息が少しばかり顔色を悪くする。魅了の影響下にあっても自分より上の権力者(私がこれに当てはまるか微妙だけど)には威張らないんだ。魅了使い以外には傍若無人になるんだと考えていたんだけど…うーん難しい。
「王女って事はエド様の妹さんかお姉さんってこと?」
ペネロペに若干の警戒の色が宿る。第二王子が学園を休んでいるからだろうか。
「ペネロペ様初めまして、私第四王女ザラと申します。第二王子のエドワード様は義母兄に当たりますわ」
本来はあり得ないが私の方からカーテシーをすれば警戒が少し緩んだ。魅了に掛かってると思ってくれたら助かるんだけど。
「エド様の妹さんなんですね!あんまり似てないけど、お母様が違うならかな?」
「そうですね、私は母似ですから。ペネロペ様のような紫色の髪色はとても珍しいですね。とても美しくてお似合いです」
「うふふっありがとうございます!そういえば、エド様って大丈夫なんですかぁ?体調不良って聞いたんですけど」
「それなんですが……」
私はペネロペに近づいて彼女にだけ聞こえる声で言う。
「実は……“大切な方を迎える準備がしたい”と陛下に仰られて、その準備で忙しいようです。学園には体調不良としていますが本人は元気ですのでご安心下さい」
「大切な人?ってエド様の婚約者はコーデリアさんでしょ?」
「ふふ、それが“真に愛する方”を見つけたとか。ロマンチックですよね」
「へぇ、そうなんですか、ウフッ…」
ニヤリ、と厭らしい笑みを浮かべるペネロペはきっと“ペネロペを王子妃として迎える準備をしている”と勘違いしている。これで暫くは時間が稼げるはずだ。
「それで…ウィルヘルム公爵令嬢やエイブンローズ伯爵令嬢も城に呼ばれて暫くお休みするかもしれないのです」
「二人も…?なんで?」
「女性ならではの配慮やペネロペ様の好みなどをペネロペ様に内緒で誂えたいようでして……ですが、ペネロペ様が嫌でしたら第二王子に止めるよう伝えておきます」
「ううん、少し寂しいけど、仕方ないね!」
表情は寂しげだが声のトーンは明るくペネロペは了承した。
「おい、何をコソコソ話しているんだ?」
「もう、アレンったら!女の子同士の話に口を挟むなんて野暮だよ?」
「うっ…悪い。王女殿下が何か嫌味を言ってるんじゃないかと思って」
失礼だな、公爵令息。ペネロペが寂しげな表情をしたから割って入ったんだろうけど、彼女口元が嬉しくてピクピクなってるよ?
「アレク、ウィル、ノア、エミリー先に行こう?王女様はコーデリアさんとハウさんに用事があるんだって!」
「王女殿下が?」
「今まで接点など殆どありませんでしたが…」
訝しむ公爵令息や侯爵令息を押しきってペネロペは食堂から去っていった。去り際にちらり、と視線を寄越してウィンクしてきた時に、ゾクリ、と悪寒が走った。
「ザラ王女殿下、私達に用事とは」
「実は……第二王子殿下からペネロペ様のお話を聞いて是非ともお会いして見たいと思いまして!ですが…初対面でいきなり押し掛けるのは失礼ですし緊張してしまって…。それを第二王子殿下に伝えた所、彼女の友人であらせられるウィルヘルム公爵令嬢からお話を聞いてからにしてはどうかとアドバイスを頂きまして今日こうして参上した次第ですわ」
「まあ…エド様が……そういう事でしたら構いませんわ」
「嬉しいですわ!もし宜しければエイブンローズ伯爵令嬢もご一緒して頂けませんか?」
「…宜しいのですか?」
「勿論ですわ!ウィルヘルム公爵令嬢も宜しいでしょう?」
「ええ、構いませんわ」
「本日は午後の授業は御座いませんでしたよね?是非今から王宮で話をお聞かせ下さいませ」
善は急げと提案すれば戸惑いつつも二人とも頷いた。
転移魔法で私の離宮まで移動すると大層驚かれた。そして今まで下に見られていた雰囲気に敬意が含まれる。
「素晴らしい温室ですわね」
「本当に。あの白と黄色の植物は何というのでしょうか」
「気に入って頂けて嬉しいですわ。あの植物は南の小さな島で生息する――」
陛下と王太子に謁見して以降幾らかマシに整えられた離宮の客室に案内する。ここから見える温室だけなら悪くない見栄えだと断言できる。珍しくて見栄えの良い植物を育てて愛でているからね。種をどうやって手に入れているかって?魔石を売って旅商人から貰い受けています。私の予算は無いに等しいからね。自分でどうにかするしかない。
「珍しいお茶ですわね」
「ええ、私が調合しました。お口に合えば良いのですが」
「まあ、王女殿下自ら?」
「紅茶の方が宜しければ淹れ直しますわ」
私が口を付ければ二人もそれにならう。まあ、仮にも王族の私を前にして嫌ですとは言えないだけだろうけど。
お茶として出したのは特性ポーション花のエキス入りである。ポーションの元の色は濃い緑色で少し濁っていてハーブティーでもあまり無い色合い。紅茶に混ぜてみたら毒入りを疑うような色になり断念。香りも味もないからハーブのエキスで後付けした。
「まあ、スッキリとしたお味ですのね」
「ええ、見た目からは想像できないでしょう?」
「このフィナンシェフルーツが練り込んであるのですね」
「ええ、私のお気に入りなんです」
「ペネロペさんもお好きそうですわ」
「まあ、そうなのですね!そういえば、お二人はペネロペ様とどのように親しくなられたのですか?」
「実は最初は彼女の事を勘違いしていて酷い態度を取ってしまっていて…」
話をしながらカップの中身が半分ほど減った頃。
「頭が、う…」
「コーデリアさ、ま」
パタリ、と二人が倒れる。
「……はあああぁあっ」
二人の呼吸を確認して思い切り息を吐き出す。完全に毒を盛った気分である。
【鑑定】
コーデリア・ウィルヘルム
ウィルヘルム公爵家長女。
魔法適正:攻撃、火
魅了の影響下にあり。洗脳度A。精神への負荷多大。
《世界樹の泪》により魅了を解除中、
反動により二日間の昏睡状態のち、洗脳度D。精神への
負荷緩和、休息を推奨。
ハウリーン・エイブンローズ
エイブンローズ伯爵家次女。
魔法適正:防御、土。
魅了の影響下にあり。洗脳度A。精神への負荷多大。
《世界樹の泪》により魅了を解除中、
反動により二日間の昏睡状態のち、洗脳度D。精神への
負荷緩和、休息を推奨。
とりあえず、精神が修復不可能になる事態は避けられたか。ペネロペも数日は何の疑いも持たないと思うからその間に作戦を練らないと。
《ザラ、チョウサ、オワッタ》
《ミリョウツカイ、カクセイスル》
《クニホロブ、ビョウヨミカクテイ?》
あ、忘れてた。
普段は無害な雰囲気のまんまる達が今は少しばかり怒っているような気がする。ごめん。




