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「挨拶は不要だ」
呼び出されたのは応接室の一つで、中では陛下と王太子が待っていた。カーテシーをする前に止められ席に促される。ソファふかふか。
「第二王子が魅了にかかっていた事実と、ザラの作ったポーションと札が魅了の解除に有効であると魔法士が証明した。貴族達も王子自ら証明していて、飲ませられぬとは言わぬだろう」
少なくとも表立っては言えないだろうね。ただ、そもそも子どもが魅了に掛かってるってどの程度知っているのか。魅了以前に自分の子どもの様子がおかしい事に気づいていない親も少なくなさそう。
学園は王族以外は全寮制(望めば王族も寮)な上に、魅了されはじめたのは冬季休暇明けからで、約三ヶ月。理由が何であれ門限より遅くなる場合は手続きが必要となる。これが以外に手間がかかる上、一週間前には提出しなくてはならない。その為実家が王都にある令息令嬢であっても、以外と長期休暇の時以外は帰らない者が多いのだ。
手紙が途切れても、“学業が忙しいのかも”とか思っちゃいそうだしね。
「ポーションはどれほど精製できている?」
「分量が百人単位なので残りは九十九本です。作ろうと思えば国民全員分でも可能です」
ユニコーンの角の粉末とマンドレークの粉末はまだまだ在庫があるし、それ以外の材料も頼めば貰える。
「ですが、薬術師の数は限られます。重症者以外は札を持たせて物理的に距離を取る方が良いでしょうね」
札も世界樹の枝を使っているが、ポーションと違って使い回しができるし薬術師でなくても作れる。今回は私が最初に作らないと他の人に教えられないから作ったが、この国ではポーションの精製は薬術師の特権だ。その為薬術師は年中多忙である。私が言えた事ではないけれど、仕事を無闇に増やすのは得策ではないだろう。
被害はまだ学園内だけだから臨時休校にして物理的に距離を取る事ができるのは不幸中の幸いというべきか。来月は保護者も参加の学園主催のパーティーが予定されていたからタイミングがよかった。もしかしてそれで世界樹は声をかけて来たのだろうか。
「しかし、お告げがあってから二週間も経っておらん。素晴らしい手際の良さだ。ザラに調合の才能があったとはしらなんだ」
「いいえ、違います。物量です。三徹と五時間睡眠を繰り返したので十日で完成しましたが、二度とやりたくありません」
「……は?」
王太子が初めて口を開いた。
「あの大木…世界樹様があまりにも急かして…いえ、国の未来を憂いていたものですから、ポーションをフル活用して強行突破致しました」
当たり前だが、普段規則正しい生活を送っている人間がいきなり徹夜をすれば疲労が溜まるし、徹夜が続けばミスが出る。けれど、時間もない。そこでポーションの出番だった。世界樹特製ポーションには乱用すれば普通は起こる副作用(倦怠感、自己回復能力の低下、不眠など)が一切無かった。実に恐ろしい。それでも、私のメンタルに限界はくるので三日に一度五時間は休憩をとった。いや、本当にイカれたスケジュールである。なぜこなせてしまったんだ私。
最初に調合したポーションが真っ黒のブクブクと泡立つ粘状の液体になった時に、世界樹からドン引きした雰囲気を感じたのは少し面白かったけど。
世界樹曰く欠損すら治せる万能薬も他の素材と合わせれば作れるらしい。私にその気があるなら教えると言われたが断固として断った。そんな物を産み出したが最後奴隷のように酷使されて死ぬ未来しか見えない。絶対にごめんである。
「薬術師に頼むことはできなかったのか?」
「ええ、世界樹様曰く、この調合書はこの国では私にしか見えない上、最初に完成させなければ他の人間には作れないらしいのです」
本当に謎のルールである。知っていれば引き受けなかったかもしれない。いや、でも新刊が……。
「そうなのか…よく完成させたな。大変だっただろう」
「そうですね、二度としたくないと思う程度には」
世界樹の葉をみじん切りにするって書いてあったから手で細かく千切ったらだめだったし、よく見たら銀製の包丁で同程度の大きさに切る…って書いてあってできるようになるまでに丸一日かかった。聖水ティーカップ十二杯を銀製の壺に入れ、マンドレークの粉末をティーカップ六杯分入れ魔力濾過が終わるのを待つ(一般的に魔力濾過はかき混ぜた方が早く終わるが、聖ポーションに関しては終わるまでかき混ぜてはいけない)とか……その他色々、ややこしい事が書いてあって失敗する度に世界樹から怒られたり、呆れられたり、引かれたりした。
このままだと完成しないと思ったのか、世界樹も指示出ししてくれたけどタイミングが微妙に合わなくて失敗繰り返すし……みかねた精霊達が『チガウ、ミズ、コップヒトツ、スクナイ』、『ジュウ、マゼテ、ノコリイレル』など、片言だが的確にアドバイスをしてくれるようになってからは格段に良くなってどうにか完成には至ったが。
「ザラ、魅了の影響を受けている者達のリストを作れないだろうか?できれば、影響の程度別に」
事前に当主や夫人に説明するにせよ、魔法士を派遣するにせよ、ある程度の状況を説明できていた方が混乱は少なくて済む。いきなり手紙で「あなたの息子(娘)が魅了に掛かっている」って言われるより、「学園の生徒の何割が魅了に掛かっていて、あなたの息子(娘)の重症度はこのくらいでこういう処置が必要」って言われた方が納得しやすいからね。
「……わかりました」
やりたくはないけど、どう考えても私が適任者だ。頑張れ私、これも全て新刊のため!
最近学園に行ってなかったけど、状況変わってるかな。第二王子が隔離されたから、学園に来ない事をあの子が不審に思ってなければいいけど。
いい加減な事はできないけど、早いに越したことはない……魔法石足りるかな?




