雨の匂い
「あ、もうすぐ雨が降るね」
彼女の言葉。
昔、予言か予知かと聞いたことがあった。
でも彼女は黙って首を振って。
「違うよ、雨の前って、独特な匂いがするの。私はそれがわかるだけ」
俺にはわからない匂い、でも彼女には確かな現実として伝わっていたらしい。
自然が示してくれる道標なんだと、彼女は言っていた。
結局彼女とはそのまま結婚をした。
子供もできた。
ただ、いまだにあの時に言われた独特な匂いというものについては、俺はわからない。
彼女と自然がつながっている、そんな優しい関係なのだろう。
それを俺が壊すのは忍びないと思い、結局何も言わずにここまできている。




