『蜂と大石とプレスマン』
ある長者に三人の下男があって、ある日、松吉は長者様のお供、竹蔵は馬の世話、梅助は草刈りを言いつかった。梅助が屋敷裏に草を狩りに行くと、柿の木にぶら下がった大きな蜂の巣に、近所の子供らが石を投げていたので、そういうことをするものじゃないと教えて、それでも言うことを聞かない子には、石を投げました。全員が、よくないことだと理解したところで、梅助は、草を刈りました。
三日ほど後、長者が三人の下男を呼びました。これから母屋の屋根を、あるものを転がすから、お前たちは下にいて、それを受け止めよ。一つしか転がさない。見事受け止められた者に、すごくいいものをやろう。
どうなのでしょう、こういう遊び。主催者だけが楽しいのではないでしょうか。受け止められることを期待していないはずです。痛いものか、汚いものか、熱いものか、危ないものか、まあそんなところでしょう。
三人の下男は、母屋の下に集まりました。松竹梅の順は、年功序列なので、松吉が真ん中をとります。さあ、間もなく、何かが落ちてくるはずです。と、竹蔵が叫びました。松吉がどうしたと尋ねると、蜂の羽音がしたと答えます。次の瞬間、梅助の耳のすぐわきを、蜂が通過しました。反射的によけてしまいましたが、梅助の耳には、羽音ではない何かが聞こえました。
もう一度、梅助の耳に羽音が聞こえます。わかりました。蜂の羽音が、言葉に聞こえるのです。今度は逃げませんでした。
屋根から大石落ちてくる、と聞こえます。危なくて痛いやつでした。
紙と竹の大石落ちてくる、と聞こえます。そうですよね。大石なんぞ屋根を転がしたら、瓦が割れますからね。
長者が行くぞと声をかけます。松吉と竹蔵は、何が落ちてくるのかまだ知りません。ただし、梅助が聞いた蜂の羽音が、幻聴である可能性もあります。本当に石だったら、痛い目に遭います。
とんでもない大石が、屋根から落ちてきます。松吉と竹蔵が、変な声を上げて、尻餅をつきます。梅助だけが、石に飛びつきます。どうでしょう。
張りぼてでした。子供たちから巣を守ってもらった蜂が、お礼に梅助に教えてくれたのでした。梅助の勝利です。
賞品はプレスマンでした。あ、あと、長者の娘とちょっとだけお話しできる権利、でした。どっちがうれしかったか、梅助は、決して明かそうとしませんでした。
教訓:これを反則と見るか、日ごろの行いと見るかは、個人差があってよい。