始まった。Ⅰ
現在、気温32度。時刻、12時ちょっとまわったくらい。状況……理解不能。
「随分といきなりだな」
皆さん、現在、僕は相当意味不明な男になってしまいました……目の前の少年──大津深太のせいで……
「せめて説明しような? この騒ぎが起こった理由くらい!!」
現在、僕の目の前には一人の少年がいる。言うまでもなく、大津だ。
しかし、特筆すべきはその後ろ。何故か、県立川上高校──我が校の名前だ──の、1年C組からE組の生徒がD組の教室の中に、全員集結していて、全員、こっちを向いている、いや、睨んでいる。
……普通にびびるんですけど。
「それは、俺の義務なのか?それとも、お前の希望か?」
「両方だ」
「欲張りだな」
顔色も変えずにやつは即答した。
……ここまで来ると、逆に怒気は失せるよね。
暴力をふるう気はないけど、とりあえず精一杯睨んでみた。
「……理解した。お前は説明しなきゃ話すら聞く気がないんだな? なら、説明してやる」
睨みは効くのかな?
長い髪を触りながら、大津は言った。でもやっぱり、偉そうな態度と顔色は変わってない。
偉そうだし、第一、遅い。が、説明してくれるのならもうなんでもいいか。
でも、ここでありがとうって言うほど、僕は寛大じゃない。だから……
「何でお前が、そんなに偉そうなのかも説明してくれない?」
一応、仕返しはする。
出来る限りの最大の笑顔で皮肉ってやった。
だけど、僕の反撃は全く効いていないらしく「話が長くなるから、省略」と大津はやはり顔色を変えずに言葉を出す(悔しいけど、予想通りだ)。
「……説明をするぞ。簡潔に言えば、これはいわゆる一つの事件だ」
梅雨前になって、だんだんとサウナ化してきた僕の心と身体を、冷たく、鋭利なものが貫いた。
──事件?
「それ、マジなの?」
「ああ。女子生徒の鞄が三時限目の体育の間に無くなったんだ。」
「盗難か……」
殺人とかをちょっと予想してたよ。不謹慎だけど、ちょっと安心。
「いや、違う。鞄はその後、見つかったんだが……」
そう言って、大津は右手の方を指差した。
「うわ、ひどい……」
そこには、ずぶ濡れになって見るにも無惨な姿になった鞄があった。
「さっき、俺が見つけたんだ。この教室の真下の池でな。とりあえず、先生に届けようと思って、校内に入ったら、D組の生徒に何故か誤解されてしまってここに連れて来られたんだ」
大津は例の如くさらっと言う。が、今の言葉は、少し何か引っかかる。何だ?
考えろ……何かおかしい。何か……何かある。力を解放しろ! 僕の脳!
――はっ。
もう一度、僕を冷たいものがつきぬけた。何てことだ……つまり……つまり、お前は……
「お前は容疑者としてここにいるんですね?」
「その通りだ」
「帰るっ」
「ま、待て。気持ちはわかるが、まあ待ってくれ」
「お前のせいで共犯者として疑われたら、どうするんだ!!」
「案ずるな。もう多分疑われてる」
「案ずるわっ。大体どうして、僕を呼んだんだよ!」
面倒ごとに巻き込みやがって。ああ、何で僕ものこのこと来たのさ……
「お前を何故呼んだか? そんなの解りきってるだろう? 事件を解決するためさ」
──は?
耳を疑った。
何度も、何度も。そして出た結論はやっぱり……
──は?
「は? は? 大事なことだから三回言う。は?」
何を言ってるんだ、こいつは。そんなことできる訳が……
「いや、できる。俺とお前なら」
そんなこと言われても、これっぽっちも嬉しくないわっ。
「でも、一体どうするのさ?」
解決できる可能性は0に近いと思うんだけど。
しかし、大津はそこで今日始めて表情を崩した。
「大津?」
笑ってる。大津が笑ってる……?
「大丈夫だ。犯人なら解ってる」
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