底なしカバン
「よし、ついに試作品が完成したぞ」
博士は一つのカバンを前に満足そうな表情で頷いた。これは博士が以前から研究していた空間拡張技術を使って作られた特別なカバンで、見た目よりもはるかに多く、それこそ無限にも等しいほど荷物を入れることができるカバンなのだ。
現にいまも博士の家にあった、使わなくなって久しいタンスをこのカバンは簡単に飲み込んでしまっていた。
「ああ、それにしても疲れたな。今日はもう寝るとするか」
そう言って博士はカバンを研究机の上に置いたまま寝室へと向かってしまう。
そんな様子をずっと物陰から見ている男がいた。なにか特別な研究をしている独り身で変わり者の博士がいると聞いて、なにか金目のものはないかと忍び込んだ泥棒だった。
泥棒は博士が独り言を呟きながら実験をしていたのを見ていたので、あれがほとんど無限の広さを持つカバンであるということを理解していた。下手に金目のものを探すよりもあのカバンを盗んだ方が後々の仕事が楽になりそうだ。あれがあればその場で金庫を開けるのではなく、金庫ごと盗んで隠れ家に帰りゆっくりと開けたりすることもできるようになるだろう。
そう判断した泥棒はこそこそと足音を忍ばせて机の上のカバンを掴むと、そのまま大急ぎで逃げ出そうとする。
「待て、お前は誰だ!」
しかし運悪く博士に見つかってしまう。顔を見られてはマズイと思った泥棒はどこか隠れる場所はないかと探すがすぐには見つからない。
だがすぐに泥棒はいま自分の手元にあるカバンが無限の広さを持つことを思い出した。
とりあえずこの中に逃げ込めば良い。あとは隙を見て逃げ出せば良いだろう。
「待て! それだけはやめろ!」
カバンの口を大きく開けた泥棒がなにをしようとしてるのか分かったのだろう、博士は大きく声をあげる。しかし泥棒は博士が止めるのも聞かずにカバンの中に飛び込んだ。
ポトリと地面に落ちたカバンを見て博士はため息を吐く。
「地面もない無限の広さに入っていって、どうやって出るつもりなんだ」