第四話 急造艦隊編成
皇女殿下との謁見から戻ったリシャールは、
「了解は取りつけた。直ちに計画に取り掛かってくれ」
と言って自身は殿下に出す計画書の清書に取り掛かった。
先の会戦で帝国は五隻のGシップを鹵獲した。リシャールはこれを暫定的に戦力化しようと考えたのである。
計画を聞いた皇女殿下も「すぐに必要なのか」と疑問を抱いたように、帝国本土へ持ち帰ってからゆっくりと改装しても問題はなさそうである。
こちら側のゲートは押さえたので、本土からの増援はいつでも可能であり、こちらの星系はすでに確保したと言える。つまり最低限の作戦目標は既に達しているのだ。
「裏を返せば、向こうの星系はゲートを維持する意味がありません。つまりゲートに用いているユニットをGシップに転用する可能性があると言う事です」
鹵獲したGシップは主に通常エンジンからGユニットへのエネルギー供給システムを破壊されている。エンジンそのものを破壊されれば大破してGユニットに影響が及ぶ。ユニットは会合期以前のテクノロジーで、壊れても修理出来ない失われたテクノロジーなのだ。
まずは最低限の補修として穴を塞ぐ。そして別のエネルギー供給源としてこちらの巡洋艦を用いる。つまり巡洋艦と鹵獲戦艦を接続してエネルギー供給システムを構築するのである。残留している二隻のGシップに急増艦四隻を加えて一個艦隊を構築すると言うのが計画の概要だ。
帝国の標準型巡洋艦は楕円体の船体の左右に二連砲を装備し、それが回転して前後から上下を砲撃できる。射角は外側に15度、内側に5度まで傾けることができる。今回の接合により下部(艦橋を残すために上下逆さまでくっつけるのである)には砲撃できない。そちらは戦艦の受け持ちになる。つまりそちらの砲を操る人材が必要となる。
そして何よりも、Gユニットを操作するエンジニアが不可欠だ。
追加人員に関しては捕虜にした敵兵士から補充することになる。
捕虜は鹵獲艦の一つに分野ごとにまとめて収容されている。
リシャールはアンニバル率いる小隊を連れて交渉に向かった。
「まずはエンジニアからだな」
最優先はGシップを扱える人間を四名。結合艦を四隻造り、それぞれに一人ずつ配置する。
面談は全員まとめて行う。
「どうせ拒否権は無いのだろう?」
「そんなことはありません。こちらの提案を入れる入れないに関わらず、技官は全員解放します」
その前提の上で、技官として雇用すると言うのが提示した条件だ。
「今回の作戦が終了するまでの臨時採用です。技官は希少な人材ではありますが、帝国本土に戻れば補充は可能ですからね」
条件を受けれいるならその間の給与は保証し、また家族を上限十名まで亡命希望者として呼び寄せることも可能である。
「裏切り者の家族として糾弾される恐れもあるでしょうからね」
本人を含む亡命者は皇女の臣民として扱われる。しばらくは行動の制限がかかるが、折を見て帝国市民としての権利も獲得できる。
四名の本職は思っていたよりも簡単に確保できた。
問題は砲手の調達である。こちらは軍人相手なので対応は全く異なる。
面談は一人ずつ。必要な砲手は各艦に六名なので全部で二十四名。他にこれを指揮監督する士官が一名ずつ必要になる。
事前に各巡洋艦の艦長と面談して確認を取ったが、四人のうち三人までが砲術士官の追加配備を希望してきた。
「ではうちの艦から人員を回そう」
リシャールの艦は現地改造を何度か行っていて、それを運用する為に砲術士官を余分に抱えていたのである。
「こちらの士官が足りなくなるのでは?」
とアンニバル。
「自分が兼務するので問題ありません」
と返答したのが技術士官のアイザック=ジャンセン大尉である。リシャールとは士官学校の同期で、リシャールが今の艦を貰った最初の戦いで撃沈された僚艦から救出された。同僚が別の艦へと移動していく中で、彼だけがそのままリシャールの手元に残された。全く無視されているわけでもない証拠に、居候の間に中尉から大尉に昇進しているのである。
「出来過ぎて、周りに嫌われていたんだ」
とは本人の弁である。
変わり者という点ではリシャールとも良い勝負であるが、方向性が違ったので当時はあまり交遊は無かった。戦場で大破した敵味方の武装を艦に取り付ける魔改造を繰り返したのもこの男で、今回の改装計画の立案者でもある。
「頭数は揃いそうかい?」
「まあ何とか」
砲兵の採用条件は、義勇兵扱い。つまり無給である。技官と違って軍人は捕虜として扱われるのが原則なので登用は慎重にならざるを得ない。
「参加してくれれば、この戦いが終わった後に帝国市民権を保証する」
メリットは一見すると小さいが、市民権がないと困る場面は確実にある。好条件に飛びつくような兵士は逆に信頼できないと言うのがリシャールの判断であった。
「出番がなければ志願者にとっては丸儲けになるけれど」
そうは成らなかった。