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第二話 アマルガム

 中隊長として三個小隊を率いる事となったアンニバル=ハーキュリー特務大尉は悩んでいた。子飼いの第一小隊と新参の第二・第三小隊との戦闘力に差があり過ぎるのである。

 個々の戦闘力には不足が無いのだが、模擬戦をやらせると、その差は歴然となる。

「単純に小隊長の力量の差だろうなあ」

 第一小隊の小隊長はアンニバルの兼務で、第二と第三は士官学校上がりの中尉である。

 実戦経験の乏しい若手中尉に歴戦のアンニバルと同じ事は出来ない。かと言ってアンニバルが今まで通り全員を直接指揮するのは流石に無理である。

「その為の分隊長だろう」

 陸戦隊は、下士官一人に兵卒二人で分隊を形成し、三個分隊を小隊長が率いる。そして三個小隊を中隊長がまとめるのである。

「まずは戦力の均衡化だな」

 第一小隊の軍曹二人をそれぞれ第二、第三の若手軍曹と入れ替える。そして各小隊を改めて分隊編成で動けるように鍛え直すのである。

 アンニバルの旗下に居た軍曹二人はアンニバルの戦術指揮をそれぞれの小隊にレクチャーする。分隊長が旗下の兵卒を率いて三人纏まって行動し、小隊長がその動きを確認しながら指揮するのである。

 第二と第三の小隊長はアンニバルほど前線には出張らない。少し後方に位置して指揮に専念する。アンニバル本人は前に出て、分隊長からの情報を随時確認しながら、自分の小隊は直接、第二第三は小隊長を介して指示を出す。これまでよりは若干の時間差が生じるが、戦力が増えているので全体の戦闘力は確実に上がる。

 こうして構築されたアンニバル式戦術は汎用性を獲得し、士官学校でも採用されることとなる。


 融合と言えば、新設艦隊もまさにそれである。

 帝国艦と連邦艦には明確な違いがあった。帝国は主砲としてレーザーを用いているが、連邦は磁力砲である。

「帝国だと、小型化して個人持ち銃器ですね」

 艦砲として採用されなかった理由はいくつかあるが、最大の問題は補給である。実体弾なので弾丸を積み込む必要がある。連邦は基本的に守りが主体なので補給が容易である。

 連邦のGシップは旗艦が三隻、補助艦が九隻。旗艦タイプは主砲が左右に一門ずつ。補助艦タイプは底部に一門である。大貴族に下賜されたのは補助艦の方である。彼らはそれぞれの家風に合わせて艦を改良した。

 第七機動艦隊は旗艦タイプが二隻。第八艦隊は一隻で、リシャールの戦艦が入る。補助艦タイプがそれぞれ二隻ずつで、帝国艦が同じく二隻ずつ配属される。補助艦タイプは帝国艦に比べて火力が足りないので、左右に副砲としてレーザータイプを追加する。

 人員については、連邦タイプの艦には連邦出身の兵が優先的に配置されたが、技術交流の為に帝国兵も混ぜられている。


 こうして新設された二個艦隊の最初の任務は帝国領と旧GCF領に接するTUの討伐作戦である。二つの星系に同時に進行する案もあったが、戦力の分散をさけて二方面から同じ星系に突入する事となった。第七艦隊は帝国の前線補給基地から、そして第八艦隊は旧GCF領、今は第一皇女の領地となっている星系から発進した。

 事前の宣戦布告は無し。そもそも帝国は周辺星系を国家として認めていない。

 両艦隊は外周軌道付近で合流し敵本星へ進む。

 六隻編成の艦隊はそれぞれが正八面体の頂点を描くように並ぶ。Gユニットを連動させることで内部に重力場を発生させ、内部に通常艦を内包したまま航行する事が出来る。内部の通常艦を補助編成艦と呼ぶが、今回は大型補給艦一隻とそれを護衛する駆逐艦二隻と言う構成である。

 旗艦が先頭に位置して全体の航行を制御する。その後ろに四隻の艦がそれだけを見ると正方形を描き、最後部に一隻が位置する。

 リシャールの艦は第八艦隊の後尾に配置されている。

「最後尾は楽ですねえ」

 とダミアン操舵長。彼も艦隊航行は初めてなのである。

「他人に操艦の主導権を委ねるのは嫌いなタイプかと思ったが」

 とリシャール。

「そんな事はありませんよ」

 と笑うダミアン。

「特に戦闘状態で舵を取るのは緊張感と責任感を伴いますからね」

 なるべくならやりたくないが、出来るからやっていると言う。


 一つ手前の惑星軌道で敵艦艇と遭遇戦となった。

 数は互角だが敵は艦隊編成と取らずに広く展開している。

「大尉の言ったとおりだな」

 戦術将校のジブリルは、

「TUの連中とは一対一では戦うなと教わります」

 戦うなら二対一で。これは味方を増やせと言う意味ではなく、むしろ敵を増やせと言う意味だ。TUの人間は協調性が無く二人集まると仲違いを始めるのだと言う。

 実際、目の前の敵も相互に連携せずにバラバラに戦っている。

 第八艦隊は中央突破を成功させると、

「背後は任せた」

 と言って艦隊編成と解いて前の五隻で敵本星へ進軍する。

 リシャールの艦はくるりと反転して敵艦の追撃を阻止する役目を負った。この時に強襲揚陸艦は分離してアンニバルの中隊は前衛に追従する。突入部隊は中盤の四隻で正四面体を形成して補給艦のみを内部に発生する重力場に取り込んで進む。アンニバルの揚陸艦もこれに加わる。そして駆逐艦二隻はリシャールの指揮下に入ってこの場を死守する。

「さて君の出番だ」

 とダミアンに声を掛ける。

「駆逐艦は少し後ろに下がらせてください」

 ダミアンは敵との距離を詰めて近距離砲撃戦を挑む。

 敵艦は、ジブリルの助言どおり、一対一なら果敢に抵抗を見せるが、近くに味方がいるとすぐに逃げ腰になる。

 ダミアンはその特性を考慮して二隻を等距離に置くように艦を移動させる。

「敵が近づいたところで、エンジン部を集中的に狙え」

 と指示を出すリシャール。

 駆逐艦には近づいて来た敵に対して弾幕を張って防衛に徹しろと指示を与える。

 実際に駆逐艦が危険にさらされる局面は無かった。リシャールの艦は五隻のGシップを相手に軌道戦を挑み、ほぼ無傷でこれらを無力化する事に成功した。

 本隊は敵本星に降下作戦を敢行して制圧に成功する。同時にアンニバル中隊も敵本星近くのゲートの確保に成功した。新領土との間にゲートを開き、待機していた予備戦力を呼び込むと、敵は敗北を認めて撤退を始めた。

「これで終わってくれればいいのだけれど」

 とリシャールは呟く。

「後は追撃戦でしょう」

 とジブリル戦術将校。

「追撃戦と言うのは二番目に難しいんだよ」

「一番は?」

「追撃を受けた時の殿軍だね」

 リシャールはその両方で実績がある。


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