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第一話 五大貴族

 リシャール=ド・ランドーが少佐から中佐になるまで三年掛かった。これは平均と比べれば速いのだが、彼の経歴を見ると足踏みをしたとみられる。

 その間に軍功が無かった訳ではない。彼が体験した三度の戦闘はいずれも普通ならば生き残れないほどの激戦であった。にも拘らずその軍功を称揚すべき上位指揮官が別の場所で討死していたのである。この三年の戦歴が彼を疫病神と呼ばしめる所以となった。

 上官の戦死に関してリシャールに責任はない。激戦であるからこそ彼の艦が派遣されたのであり、結果がリシャールの戦死で終わってもおかしくなかった。

 ある時は偵察任務。味方艦隊の背後を狙う敵の別動隊と遭遇しこれを足止めした。しかし敵本隊と遭遇した味方が敗れて奮戦も無駄に終わった。

 ある時は背後で襲われていた輸送艦隊の救援に向かった。この時もやはり猪突した本隊が敵の待伏せに有って壊滅した。

 そして三度目は囮役。敵本隊を明後日の方向へ引き回して戻ってみれば、本隊が敵に罠に掛かって包囲攻撃を受けていた。幸いにも敵戦力は大きくなかったので、リシャールの支援攻撃で敵は撤退したが、

「もっと早く戻って来い」

 と言う理不尽な罵倒を浴びてしまう。

「災難だったな」

 彼に中佐の辞令を渡した人事部の課長は彼を慰めた。

「第八艦隊ですか」

 彼の次の所属先だ。

「確か艦隊は六つだったと記憶していますが」

「新たに二個艦隊が編成される。三年前に君が関わった一件のお蔭でな」

 銀河中央方面に存在したその名も銀河中央連邦が帝国に併呑されることが決まった。彼らの保有していた艦隊を新たに帝国に編入する事に成ったのである。

「GCFの艦隊はGシップ四隻での編成だったが、帝国は知っての通り六隻編成だ」

 三つの星系で構成されていたGCFは三個艦隊を持っていた。Gシップが十二隻だからそのまま正規の二個艦隊に編成できる筈だが、

「大貴族様から横槍が入ってね」

 帝国には五大貴族と呼ばれる大諸侯が居て、それぞれが一つの星域を所有支配している。

 帝国の支配星域は十個。その半分に当たる。五大貴族の支配星系は首都星系の他、近くの皇室直轄領とゲートで繋がれている。首都星系のみは帝国領のすべての星系と繋がっているが、それ以外は近くの二つか三つの星系と繋がっているだけだ。

 帝室と五大貴族は微妙な力の均衡を保ってきたのだが、GCFの併呑によりこの均衡が崩れる事となる。

「三つの星系の一つを諸侯に下賜して六大貴族にすると言うところまでは折り合ったのだが、さてそれを誰にするかで議論が止まっていた」

 結論としては第一皇女が星系を所有し、その夫なる人間が六番目の椅子に座ると言う事だ」

「第一皇女ってまだ十五だっけ?」

「そう。だから婚儀まであと数年。まあ結論の先送りではあるなあ」

 ここからが本題で、

「大貴族への交渉材料として、Gシップを一隻ずつ下賜すると言う事になった。足りない分は四隻編成の補給艦隊を一つと、君の独立艦を充てると言うことだ」

 新設の二個艦隊の内、片方の司令官は元GCFの軍人だと言う。周囲の人員は帝国側の人間で固めるらしいが、リシャールの所属もこちら側だと言う。

「うちの要員は移動無しですか?」

「転出は無しだ。但し連絡要員として戦術担当士官を一人乗せてもらう」

「それは当然でしょうね」


「ジブリル=ジュンディー大尉であります」

 派遣されてきた戦術士官はそう名乗った。GCF出身という事で、

「元の階級は?」

 と聞いてみると、

「自分は元は中尉だったのですが」

 配属に際して昇進したのだと言う。

「旧GCF軍の中でも降伏を容認しなかった強硬派が大量に軍を離れまして」

 大尉は慎重に言葉を選んだが、要するに危険人物のパージが実行されたのだろう。

「そのお陰で若手が引き揚げられることになりました」

 と苦笑する。

「数少ないベテランは貧乏くじだとぼやいていましたけれどね。うちの叔父なども」

「君の叔父上?」

「この艦隊の司令官です」

 艦隊司令は自分の甥を連絡役に送り込んできた訳だ。

「余り似ていないな」

「自分の母が、司令の姉に当たります。自分はどちらかと言うと父親似なので」

「提督殿はどういう腹積もりで可愛い甥っ子を俺のところに送り込んできたのかな」

 とリシャール。

「それを自分に訊きますか」

 と苦笑しつつ、

「艦長の噂は色々と伺っています。上官が立て続けに戦死した事。それ以上に部下を一人も死なせていない事。叔父は根拠のないジンクスよりも後者の実績を高く評価しているようでしたね」

 最悪自分が死んでも甥っ子は生き残る。とは流石に本人に向かって言えなかった。

 リシャールが部下を一人も死なせてない件については、リシャールの盾と矛と称される二人の天才の存在が大きい。

 一人は不可視の盾。操舵長兼副艦長のダミアンで、その神業的な操艦で艦はほぼ無傷で戦場を駆け抜けている。

 そしてもう一人は飛翔する矛。陸戦隊を率いる天才戦術家アンニバル。艦の上面に付いている分離式の強襲揚陸艦を駆使して敵艦を次々と仕留めている。

 特務大尉に昇進したアンニバルは新たに二個小隊を旗下に加え、中隊長になっていた。当初は増えた人員を持て余していたのだが・・・。


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