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第二話 銀河中央方面

 銀河中央方面には二つの星間国家が存在する。一つはTUトレーダーユニオン。居住星域は二つだが、周辺にいくつかの資源利用星域を確保している。交易を表看板にしているが、必要と有れば海賊行為も辞さない連中である。

 もう一つがGCF(銀河中央連邦)。三つの星域国家が帝国と対抗するために盟約を結んでいる。相互防衛機構であって向こうから仕掛けてくることは基本的にない。


 独立輸送艦の任務は物資を前線の基地へ運ぶことである。ゲートは置かれていないのでGシップを用いるしかない。ランドーはその輸送計画を自分一人で計画し、直属の上司にすら事後報告に終始した。これが許されたのは平時だからである。戦時であれば物資の消耗は激しく、期限も猶予が無い。メインは武器弾薬や補修部品。食料も長期保存がきくモノばかりで、生鮮品は現場で生産されている。

「積み込み作業を一時停止するのですか」

 命令を受けたアンダーセン主計中尉は不満を露わにした。

「これから上層部に輸送計画の見直しを上申に行きますので」

「同行してもよろしいか?」

「構いませんよ。但し口出しは無用に願います」


「要するに輸送計画を敵に漏らしている人間が居ると?」

「その可能性があると申し上げています」

 補給部を統括する主計中将は苦い顔をした。

「内通者を探すのは小官の職分ではありません。小官に任務を全うさせて頂きたい」

 その為に輸送計画を自分に一任しろと言うのである。

 機密漏洩が明らかになれば補給部の責任者は関与の有無に関わらず処罰を免れない。

「具体的には?」

「コンテナに積む輸送品を一律にします」

 輸送物資は種類ごとに纏めて梱包されてたのだが、様々な物資を纏めて梱包する。そしてそれをどこへ運ぶかは実際に運ぶ輸送艦の艦長が決定する。

「それで輸送に失敗したら責任はすべて艦長である貴官が負う事となるが。それで構わないのだな」

「当然です」

 もし補給部の中に情報漏洩者が居るならばこれで機密漏洩は防げる。だがもし艦内に内通者が居たとしたら。


「艦内に内通者が居るとすれば可能性があるのは取り敢えず二人」

 とリシャール。

「一人は小官ですね」

 と返す主計中尉に、

「本部長にも言ったけれど、俺は犯人探しには興味がない」

 と敢えて砕けた応答にするリシャール。

 と敢えて砕けた口調にするリシャール。

「俺は部下を死なせないことに注力している。こちらの命令から逸脱したモノが死ぬのは自業自得だが、仲間を巻き込む行為は容認しない」

 最後はやや語調が強めになったが、

「敵にとって有用な情報は積み荷の内容と航路。つまり危ないのは主計担当と操舵担当と言う事になる。操舵担当は二名いるが、一人は既に面談済みでもう一人まだ会っていないから嫌疑保留と言うだけで」

 いずれにしても計画の一任を受けて情報を知るのは艦長のリシャール一人となった。

「部下のミスを責めるよりも、部下がミスをしても事故に成らないシステムを構築する方が建設的だと言う事だよ」

「お若いのに卓見をお持ちだ」

 先程まで垣間見えた対抗意識は影を潜め、言葉の端々に敬意が感じられるようになっていた。


 艦に戻った後、過去の航行データから経路の設定を行った。これについては操舵担当のエヴァレット中尉の助力を得た。

 補給対象となる前線基地は五カ所。物資の残量を過去の輸送データから割り出す。こちらはほぼアンダーセン主計中尉の仕事である。

 そして一通りの作業が終わった頃に残る一人、操舵長が帰艦した。

「ダミアン=デアボロス中尉です」

 童顔だが、年齢的にはアンダーセン中尉の次で、配属でもベレット中尉に次ぐ古株になる。

「なるほど。それは楽で良いですね」

 改定案を聞いた中尉の反応は意外にも好感触である。 

「非常時にはその操縦手腕を存分に振るってもらう事になるが」

「当然ですが。そうならない為の改定案ですよね」

 リシャールの意図は完全に伝わっている。

「小官も襲撃対策として艦長に意見具申したことがありまして」

 基地ごとに複数の航路を設定してそれをランダムで選択することで襲撃を避けられるのではないか。

「採用されなかったのか?」

「到着予定に送れると苦情が来るからと」

 その辺も調整も任務の内だと思うのだが。

「平時だから、物資が予定通りに来ないと不満を感じるのでしょうけれど、戦時ならば物資が滞る事も十分にあり得るのであって」

 前線基地の緩みも感じられる。

「結果として物資の強奪が発生すれば、困るのは現場なのになあ」

 と互いに相槌を打つ。

「その航路データがまだあるなら是非とも見せてもらいたいが」

「後でまとめて送付します」


 Gシップと通常艦の違いは最高速にある。通常艦では到達可能な速度に限界があるが、Gシップでは限りなく光速に近い速度に到達できる。燃料効率と出力の問題もあるが、Gシップは船の加速を船内に影響させない。つまりどれほど加速しても艦内は一定の重力環境を保つことができるのだ。

 それを踏まえた上で、デアボロス中尉の描いた航路は途中の障害物を巧妙に回避且つ利用して構築されている。しかも航路が互いに交差してどこの基地に向かうのかが一見して分からなくなっている。

「これほど有能な男が、こんな辺鄙な所に埋もれていようとは」

 と漏らすリシャールに、

「それを貴方が言いますか」

 と苦笑で応じる副官のミシェル。

 デアボロス中尉のアイディアを採用したことで安全度は飛躍的に高まった。現地からの不満は上がったがそれも程なくして収まる。


 そして二年余りを平穏無事に過ごす事となった。これまでは一年に一度か二度のトラブルがあったのだからこれ以上ない成果である。

 だがこのままでは終わらない。

 きっかけは本部長の交代である。良くも悪くも事なかれ主義だった前任者と異なり、新任はやる気に満ちた人物で・・・。

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