第二話 お国入り
新領土とはここ数年で帝国領に組み込まれた銀河中央方面の五つの星域を指す。
銀河中央方面と言うのは母なる星から遠いと言う事を意味し、開拓の歴史もそれだけ浅い。そして人口もそれに比例して少ない訳である。主に交易を生業として経済を回していたので、帝国領になってからの方が発展している。
辺境伯領としてリシャールに与えられたのはかつて銀河中央連邦を名乗った国家の首都星系である。五つの星系を合わせて統治るするのに最も都合の良い位置にあるが、単純に最も人口が多い。
そもそもゲートを使えば物理的な距離はあまり意味がない。そして五つの星域は相互にゲートで繋がっている。そして今回、新たなゲートによって帝都と五つの星系が繋がることとなった。
今回の初のお国入りに際しても皇女殿下が同行を希望したが、
「ゲートを使えばいつでも往来が可能ですから」
それでなくても皇女殿下は自分のGシップを持っている。いずれ皇位を継ぐ異母弟の皇太子との関係を深めておく必要があるので、出来る限り帝都に留まっている方が望ましいのである。
軍港に入港すると、第七艦隊は憲兵隊の出迎えを受けた。
リシャールはミシェル総督から憲兵総監を紹介される。
「俺が言うのもなんだけれど」
とリシャールが苦笑しつつ、
「意外に若いね」
総監アルマン・ド=オトラント氏は四十代。前線指揮官としてならまだ現役で動ける年代だろうが、後方司令官に据えるにはまだ若い。
「綱紀粛正の結果です」
と隣にいた総督に視線を向ける。
「銀河中央連邦政府の降伏以後、警察組織は規律の緩みが顕著でした。総督は就任早々にその浄化に当たられました」
汚職警官は排除され、それを見過ごしていた上司も譴責。上層部は見せしめ的に懲戒解雇となった。
「人員はおおよそ三割減。人員不足のため、活動範囲を都市部に限定しました」
都市部に巣くっていた犯罪楚組織は壊滅させたが、後回しになった農村部は治安が悪化し、自警団が自然発生している。
「随分と思い切ったねえ」
ミシェルが赴任してまだ一か月ほどだ。溜まっていた膿が彼の一押しで一気に噴き出したのだろう。
「半分は彼の提言です」
とオトラント総監を見る。
「この際だから、徹底的にやってしまおうと思いまいして」
と笑う。
「この事態を収めることで、閣下への支持が確立されます」
確信犯的なマッチポンプである。
この地元出身の憲兵総監は帝国生まれとは根本的に意識が異なるようだ。
帝国は身分制社会であるが、階層間の移動が比較的容易だ。実力のある人間は上に引き上げられ、足りない人間はいずれ下がる。リシャールもその社会風土のお陰で今の地位を得ている訳だが、旧銀や中央連邦は平等を重んじる傾向があって、有能な人間は周りから浮き上がって叩かれやすい。このアルマンも旧体制下では埋もれていた逸材なのだろう。
「取り合えず現状を把握しようか」
リシャールは陸戦隊を率いるアンニバルを伴って憲兵隊の本部に入る。
「自警団を殲滅するだけなら陸戦隊を繰り出せば事足りる。だが治安回復を目的とするなら選別して取り込む作業が必要になるな」
との判断は地域住民からの支持の有無になる。自警団と匪賊・ギャングは紙一重だ。
「主役はあくまでも憲兵隊で陸戦隊はそのバックアップだ。なるべく無傷で、一網打尽にするように」
リシャール自ら作戦行動に同行して現場の生の声を聴いて判断を下していく。
彼の判断基準は被害の最小化である。可能ならば殺さずに捕らえるが、一般人に危険が及ぶと判断したら容赦なく処断を指示する。
「一連の相当作戦で民間人に被害が出たら、それだけで俺に対する信頼が砕け散るからな」
一部の凶悪な連中はどうせ助からないと開き直って最後まで抵抗したためその場で処理することとなったが、大部分は陸戦隊の装甲服を見ただけで投降してきた。GCFの市民の間ではアンニバル隊の強さは既に伝説となって広まっていたのだ。
地元民からの支持が確認された一割はその場で公的な組織として追認した。三割は恩赦で刑を免じられ憲兵を指揮官とする街道巡視隊として再編成された。残りの六割は刑務所で罪を贖ってから社会復帰。その半数は軍か憲兵隊へ採用された。
これと前後して、青龍に引率されてテトラ連合からの亡命組の入植が始まった。亡命組は元の市民との軋轢を避けるために纏まって新たな都市を作り上げた。元工兵も居たので生活インフラもほぼ自前で整備している。
実際にやってきたのは要塞の要因の六割ほど。三割は家族の反対を受けて旧連合内の別の星系を亡命先に選んだ。残りの一割は軍からの慰留を受けて憲兵としての採用を受けた。向こうの臨時総督府もリシャールの息が掛かっているので残留組の待遇は悪くなかった。
一連の改革はリシャールのお国入りをきっかけにして一気に動き出している。ミシェルが主君の評価を高めるためにお膳立てしておいた成果である。
「つくづく部下に恵まれたな」
「お前さんが部下の働きを正しく評価してそれに報いているからだよ」
と副官のヴァイス。
「部下の功績を自分のモノにして恥じない連中はごまんといるからな」
「年下の上司に嫉妬しない有能な部下こそ評価されるべきですよ」
とリシャールが纏めた。




