第一話 凱旋門
かつて帝国に次ぐ国力と戦力を備えていたテトラ連合は四か国によって分割された。
戦後処理で大量の人口移動が起こる。
長く仇敵であった帝国の支配下に収まりたくないと考える人間がオランジュやヌヴェリューヌの占領地域への移住を希望したのである。
「可能な限り認めてやろう」
とリシャールは宣言した。
約半年の臣民登録期間が設定された。臣民となることを希望しないものは海外への移住が推奨される。この移行期間には渡航費用が供与される。
臣民登録も無条件ではない。それまでは庇護民として扱われるが、その違いは世襲財産が認めれるか否かである。つまり庇護民は死亡するとすべての財産が庇護者のモノになる。その代わり、臣民には兵役の義務がある。最低でも半年間の教練が課せられる。ちなみにそれ以外の身分として自由市民と呼ばれる存在がある。これは帝国が友邦と認めた外国籍を保有し帝国領内で居住する人間を指す。その場合でも、亡くなれば帝国領内の財産は公収されて遺族には渡らない。
この移行期間に人口は三割ほど減るが、
「不満分子を抱え込むよりもマシだよ」
首都星系であったために元々他よりも人口は多かった。適正人口に近づいたとも言える。
持ち出せる荷物には上限があるし、不動産はそもそも持ち出せない。不動産については臨時総督府で買い上げる。支払いは帝国クレジットだ。長く交戦状態だったのでテトラ連合では使えない通貨であるが、行先では普通に流通している筈だ。
この臨時総督府の管理運営についてはリシャールも一枚噛んでいる。その運営費も辺境伯領が一部を負担した。補償金の捻出には苦労したが、土地の買い上げ価格はかなり安価で済んだので、払い下げの際にかなりの利ザヤが発生して長期的にはかなりの利益が出た。
公務員にはそのまま仕事を続けてもらう。待遇はそのままだ。通貨は当面は旧来のモノをそのまま使用するので、急激なインフレが起こると拙いことになるが、人口が減ったので通貨量のバランスがかろうじて維持されることとなった。インフレに関して人口が流入した星系の方が危険であろう。
立法府は解体された。議員たちは総督府の顧問団への参加を打診されたが、元首を支持していた強硬派与党議員たちはこれを拒否して下野。その多くは政治亡命を選択した。その行き先は今回の分割作戦に唯一参加しなかったティエンロン帝国である。直行ルートは無いので、ヌヴェリューヌを経由したようだ。帝国との和議を主張していた少数政党も存在したが、彼らは逆に内通を疑われるのを嫌って下野を選択した。残ったのは中間派の穏健野党議員である。
軍人は大幅に削減される。耕作者が居なくなった農地が退職金の一部として支給される。他には武装を外した退役艦が下げ渡された。元戦艦乗りには優先的に枠が与えられ、かつての乗艦で輸送や交易に乗り出したモノも居たと言う。様々な理由で軍に残った人間は優先的に臣民の身分が与えられることになる。
珍しい例としては帝国本土への移住。正しくはリシャールが領有する辺境伯領とその周辺のいわゆる新領土である。その主な顔ぶれは要塞から連れてきた兵士とその家族たちである。
「取り合えず兵士一人当たり家族は五人まではこちらで費用を負担しよう。それを超えた場合は自腹を切ってもらうが」
領土を管理しているミシェル総督に確認すると、
「二万から三万ならすぐにでも受け入れ可能です」
との事だった。
移住希望者が思いの外多かったので武装を外した巡洋艦を一隻調達した。艦隊の作り出す重力場の中に配置すれば乗り心地はGシップと遜色ない。
要塞に残してきた陸戦隊を回収しようと立ち寄ったのだが、要塞の人員もそのほとんどが同行を希望した。受け入れ枠にはまだ余裕があるが、
「本星の家族はどうする?」
青龍で送り迎えするにしても片道三日の行程だ。
「ここに臨時のゲートを設置すれば良い」
とアイザック。
「幸いにもここにはユニットが三つあるからな」
要塞のユニットに加えて二個の戦利品がある。
「設置と言っても・・・」
「要塞を利用すれば半日も掛からないよ」
四面体を構成する要塞の一角を外して残った三つにユニットを仕込めばいい。
突貫工事を済ませて青龍を送り出して艦隊はそのまま帝都に向かう訳だが、せっかく作ったゲートをどうするか。
「引っ張って行こう。ここに残しておいても仕方がないから」
ここは帝国と連合を結ぶ最短距離の位置だ。両国が対立しているときには境界線として機能していたが、ここを飛び越えてゲートが機能している以上は意味がない。
帝都へ戻るとリシャールは皇帝から凱旋の報告を求められた。
「大層な武勲であったな」
と陛下。
「少々出しゃばり過ぎてしまいました」
「謙遜するな。卿が居なければ我が二個艦隊はおろか敵の本星もこの世から消え失せていたであろう」
そこまで正確な報告が上がっていたのだ。
「陞爵は希望するか?」
「いえ。辺境伯のままの方がお役に立てるかと」
公爵に成れば軍籍は離脱するしかない。そうなれば六大貴族の末席を温めるだけになる。それよりも現状のまま軍籍を維持した方が各方面に抑えが利く。
「では持ち帰ったあのゲートはどうする?」
と話題を変える皇帝。
「帝都に据えて、新領土との直通路を設けたいと愚考いたします」
帝都には二基のゲートがあって、それぞれが皇帝直轄領、五大貴族領へと繋がっている。新領土への道は今までは一番近い直轄領を経由して二段階で結ばれていた。
「ではそのように」
帝都に設けられた三つ目の新しいゲートは凱旋門と呼ばれるようになる。




