第四話 辺境伯
ランドー伯リシャールと皇女マルグリット殿下の婚約が発表された。それと同時にリシャールの爵位が辺境伯へと陞爵した。
辺境伯は帝国でただ一人の爵位で、侯爵と同格であるが、新領土の一つを領土として下賜された。星系一つを領有すると言う一点において五大貴族と対等。いや軍権を保持している分だけ強大であるともいえる。第七艦隊は事実上彼の私兵となり、新領土を担当する第八・第九艦隊も彼の指揮下に入る。リシャールは辺境伯として新領土の治安を委任されるが、その行動範囲はあくまでのその範囲に限られる。帝国本土に入る場合には、大本営の指揮下に入ることになる。
この機にリシャールの四天王と呼ばれた四人ついて改めてまとめておこう。
操艦の天才ダミアン=デアボロス大佐。旗艦の艦長であり、艦隊の航海長を兼ねる。その天賦の才は士官学校時代から有名であったが、彼の手腕を存分に引き出したのは間違いなくリシャールである。
技術参謀のアイザック=ジャンセン中佐。彼の奇想を理解して資材や資金を調達したのはリシャールの政治力に他ならない。艦隊に技術専門家を常駐させる様になったのは彼を嚆矢とする。
陸戦の鬼アンニバル=ハーキュリー特務大佐。あまたの激戦を生き残ってきたこの男は、リシャールの旗下でその功績に見合う評価を勝ち取った。
最強の撃墜王”バロン・ヴェルミオン”。本名をマンフレッド=ドロッテールと言うが、その名で呼ぶものはいない。ほとんどは敬意を込めてバロンと呼ぶ。四人の中では最も年長で、実績も名声も随一だが、艦載機のパイロットと言う役割はこれまでさほど重要視されてこなかった。リシャールの打ち出した新戦術の広まりと共に彼の評価は高まった。
この四名はリシャールの陞爵に合わせて男爵位が贈られた。マンフレッドに合わせて、ダミアンが黒の男爵、アイザックが白の男爵、そしてアンニバルは青の男爵と呼ばれるようになった。まあ本家のマンフレッドほど定着はしなかったが。
重要なのはこの四人の天才の元で新たな若い芽が育っていることであろう。これらの人材がリシャールの影響下にあることがライバルたちへの脅威になる訳だ。
ミシェル=ド・モンタギュー子爵(リシャールの陞爵に合わせて叙爵)が一足先に領地に派遣されて統治機構の整備に当たる。
リシャールも艦隊と共に領地に向かう予定であったのだが、
「申し訳ないが、次の作戦に参加してほしい」
と艦隊総司令から声が掛かった。
「本土にいる間は本部の指揮下にありますが」
と首を傾げるリシャール。
次の作戦とはテトラ連合との決戦である。
半年ほど前に、連合はローンスターに対して大攻勢を仕掛けて、大敗を喫していた。帝国から送り込まれていた軍事顧問団、彼らが持ち込んだ重力加速砲が的確に刺さったのである。
ローンスターは帝国の支援を受けて四つの移動要塞を建造していた。そのそれぞれにG砲が五門ずつ設置されていて、どの方向から攻められても、三つの要塞から砲撃が可能になっている。派遣された三個艦隊の半数が大破して、実に五つのGユニットがローンスター側の手に落ちた。
戦力が激減したテトラ連邦に止めを刺すべく連合軍が編成された。帝国単体でも十分に戦力は足りるが、戦後の統治を考慮して他国を巻き込んでの分割統治を選んだのである。参加国は既に従属国となっているオランジュ連邦、今回の殊勲者であるローンスター、そして帝国と連合に対して二股外交を展開していたヌヴェリューヌである。
テトラ連邦の四つの星域を四か国の艦隊が同時に攻略する。
「我が帝国からは第三・第五艦隊。ここに貴官の第七艦隊も加わってもらいたい」
総司令が自ら出馬して全体の指揮を取るのだと言う。
「それで作戦は?」
「連邦が帝国方面に配置している要塞軍を攻撃してほしい。君が敵の注意を引き付けている間に、私の率いる二個艦隊は迂回して敵本星を直撃する」
「要は囮ですか」
「それで引き受けたんですか」
と苦笑しているヴァイス副官。
「十日と期限を区切られたからね」
落とせではなく、時間を稼げと言う任務だ。時間が来たら退いても良いと言う言質も取っている。
「敵の目を引き付けろとは言われけれど、今回は攻め寄せるのは帝国軍だけではない。敵さんも、要塞に兵を回す余裕は無いだろうよ」
帝国が何度も攻めて抜けなかった難攻不落の要塞ではあるが、それは駐留艦隊との連携があってのことだ。
「あの要塞単体であれば時間稼ぎは容易。攻め落とすのも不可能ではないさ」
むしろ迂回して敵本星を攻める本隊の方が苦戦するだろうと見ている。
「では作戦の概略を説明しよう」
敵要塞は四つの球体区画を短い通路で繋いだ四面体構造をしており、中央部にあるGユニットにより各部に重力を発生させている。各部位が通常の要塞クラスの攻撃力を有し、あらゆる方向からの攻撃に二か所以上の区画で連動した迎撃行動を展開できる。
「では第一段階を始める」
飛竜に搭載されたG砲による要塞砲の射程外からの砲撃である。
「一発ではあの防護壁を打ち抜くのは無理だろう。同じ個所に対して三発ぶち込む」
駐留艦隊があれば、一撃目に対応して出てくるだろうから、その場合にはプランBへ移行することになるが、
「やはり反応がありませんね」
作戦は継続。計算通り三発目で敵要塞に大穴が開いた。
「では第二段階だ。噛み付け」
二体の猛獣、白虎と黒豹が敵要塞に向けて発信する。残った四隻は配置を変更して微速前進する。
二隻の強襲揚陸艦が敵要塞に接舷して陸戦隊を内部に送り込む。
敵要塞の制圧までわずか三時間。
「お待たせしました」
とアンニバルから連絡が入る。
「こちらの損害は?」
「若干の負傷者が出ましたが、死亡者はありません」
「十日の予定が、一日で片が付きましたね」




