第二話 改編期
軍の方も若干の改変があった。
司令官を失った第七艦隊は解体されて、リシャールの艦隊がそのナンバーを引き継いだ。空席となった第九艦隊には第十艦隊が繰り上がり、新たに編成予定の第十艦隊は司令部を含めて人選が進んでいる。
リシャールの艦隊は出向した一番艦青龍に加えて、四番艦の玄武も近衛への譲渡が決まっている。
欠員となった二隻の補充として解体された旧第七艦隊から融通を受ける。乗員についても元玄武の乗員に加えて、旧第七艦隊から移動してくることになった。編入に際しては当然アイザックによる改造が施されることになる。
一隻は副砲として重力加速砲を船底部に一門だけ追加される。折り畳み式で通常時は二つ折り状態で内部に収納される。G砲の構造がシンプルだからこそ出来る改良だ。これは青龍に用いたものよりも二割ほど長射程になる。
G砲は長射程が売りだが、その能力を最大限に発揮するには標的を正確に捉える目が不可欠となる。先の実戦では星域に張り巡らされた監視網を利用することでそれをクリアした。艦隊レベルでこれを運用するにあたり、アイザックは艦載機を搭載して偵察網を展開するアイディアを提示した。
「いわば青龍と朱雀のハイブリットだな」
「パイロットの追加を要求するのか?」
とリシャールに確認されたが、
「そこは無人機で代用できるだろう」
一人のパイロットが四基の無人探査機を従えて小隊を形成する。運用面を考慮して五個小隊すなわち一個中隊を搭載できるようにした。パイロットも五名であれば旧第七艦隊の人員で事足りる。
「この翼型の射出システムは必要なのか?」
とヴァイスから疑問が呈される。
朱雀型にもあったもので、艦載機は翼の中を通って一個小隊五機単位で同時に発進できる。
「戦闘空母であれば射出効率は重要だろうが、偵察を任務とするなら一斉射出する必要もないのでは?」
「それは話が逆ですよ。先輩」
とアイザック。
「一人のパイロットが自機と四機の無人機を操る訳ですから、一個小隊が同時に出撃する必要があるんですよ」
「なるほど」
「まあ朱雀型の部品を転用できると言う理由もありますけれどね」
改装艦はその形状から飛竜と命名され、新たな規格艦として定着する。玄武型のみで構成される近衛の第一艦隊以外はこの飛竜型が配属されることとなった。厳密には既存の戦艦に改造を加える形になる。
弾丸は岩石を適当な大きさに削れば良く、空気抵抗のない宇宙空間では形状による弾道の誤差は生じない。問題は周辺の巨大天体によって生じる重力場の歪みである。弾道を補正するための基礎プログラムはアイザックによって組まれて配布されている。必要な入力データを集めるのが探査機の役割となる。各艦隊で射撃訓練が行われプログラムも適宜改良されていく。
もう一隻は白虎の同型艦で黒豹と命名された。この白虎型も数隻作られたのだが、艦隊からの要望が集まらなかった。戦艦によるドッグファイトを実際にやりたいと言う艦長は滅多にいない。
陸戦隊を率いていたアンニバル特務中佐は司令部付きの戦術将校として二隻の猛獣をまとめて面倒見ることになった。正規の士官教育を受けていない叩き上げのアンニバルでは艦長職は務まらない。それを逆手に取った人事である。
不人気の白虎型とは異なり朱雀型の戦闘空母は要望が多く集まり、最終的に半数の五個艦隊に採用された。
ネックとなったのは搭乗機を操るパイロットの数である。新たに養成機関が二か所に設けられたが、訓練機関に三年。実戦訓練を経て前線に配属されるまでは五年を要する。現場の要請もあって朱雀のパイロットは半数が再配備の対象となった。
百人のパイロットが四つの中隊に編成されていたが、そのうちの二番と三番がそっくり転属させられた。二個小隊ずつがセットで中核となり、そこに八個小隊四十人が加わって新たな中隊を形成する。
リシャールの艦隊にも二個中隊五十人のパイロットが補充された。元のパイロットとの練度の差を埋めるために再訓練が必要となる。
「だいぶ弱体化したな」
と副官のヴァイス中佐。士官学校の一年先輩なので、他に人がいない時には砕けた喋り方になる。
「まあ他所とのバランスもありますからねえ」
幸いにもリシャールにこれ以上の戦果を上げさせたくないと言う空気があったので訓練に十分な時間を割く事が出来た。
近衛の第一艦隊は玄武の同型艦で構成されることとなり、リシャール艦隊から受けたオリジナルの玄武は艦数が揃うまで訓練に用いられる。
帝都防衛を主任務とする第二艦隊は(第一艦隊の防衛対象は皇帝なので、親征となれば帝都を離れることもある)役目上から第一艦隊との共闘も多い。それもあって玄武型を旗艦として要求した。最終的にオリジナルの玄武はこちらに配属された。そして後尾には飛竜型を配置する。
第四艦隊は飛竜型を旗艦に据えた。第五艦隊は朱雀型を旗艦に選んだ。そして第六艦隊は唯一白虎型を採用しこれを旗艦に持ってきた。
この三艦隊の司令官はいずれもリシャールとは顔見知りで先の戦役が司令官としての初任務であった。いずれも前の司令官は厄病神の被害者で、その事後処理の功績で司令官職を引き継いだ若手有望株たちである。
彼らの出世は半分はリシャールのお陰と言えるが、それを認めたくない感情もある。リシャールの方も感謝されたら当惑するだろうが。




