第六話 御前会議
五大貴族は創世記の功臣が公爵に任じられてそれぞれ星域を支配している。それぞれの領地はゲートが設置され、帝都の他に隣接する二つの帝国直轄星系へと繋がれている。言い換えると、大貴族同士の領地の間に直通路は無い。大貴族は自前のGシップを保有しているが帝国に反乱を起こせるほどの戦力ではない。まして現在の当主は実戦経験が皆無だ。三名は多くの貴族と同様のペーパー少佐。唯一大佐まで進んだマールブール公爵フィリップも後方勤務しか経験していない。
「実はうちの初代が憲兵畑で、現公爵の上司だったこともあるのですよ」
つまりフィリップ公爵も憲兵上がりだった訳だ。
「憲兵と近衛は、貴族出身の軍人が多いですからね」
と自身も近衛を経験しているミシェルが補足する。
「私も憲兵でした」
と三代目。
「二代目も?」
「いえ、父はあまり体が丈夫では無かったので主計課に。二年目で中佐になって、三年ほど勤めて父親と同じ大佐で退役しました。」
初代が三十年、二代目は三年。そして三代目は三か月の軍歴。と言うのが半ばネタになっていた。
「まあ憲兵と主計では内容が全く違うでしょうけれどねえ」
自身も主計を経験しているリシャールがなだめるように応じる。
「伯爵の場合は主計として乗艦任務をご経験されているので、同列には語れませんが」
さてここからが本題である。
「大貴族の叛乱ですか」
三代目は少し首を捻って、
「初代皇帝と五功臣の時代はともかく、二代皇帝以降は大貴族の制御は常に統治テーマの一つであったでしょう」
大貴族に限らず、世襲貴族はあまり軍に関与しないし、させないのが慣習だ。領地を統治するための警察組織は保有しても、Gユニットを搭載した艦艇の保有は制限される。ゲートの管理は中央から派遣された技師が行っているが、大貴族の家中にも技官はいるだろう。
「五大貴族は帝室とも通婚して血縁関係にありますが、それだけに取って代わろうと言う意識がないとも言えません。ただ・・・」
玉座を奪う事と外部勢力と結んで叛乱を起こすことは話が違う。
「自前の戦力が無ければ傀儡にされることが目に見えているものなあ」
爵位を持ちながら現役の提督を務める自分の方が客観的に見て危険な存在なのだと改めて認識するリシャールだった。
そして御前会議の当日である。
中央に皇帝シャルル四世陛下。その右手には皇帝を輔弼する帝国宰相、続いて皇帝の身辺を守護する近衛隊長、これは第一艦隊司令官を兼ねる。そして帝都の治安を維持する帝都憲兵総監。左には軍事のトップ。軍事的な助言者である参謀総長を筆頭に、帝国の矛と呼ばれる機動艦隊総司令、軍の人事と兵站をになう軍務大臣と並ぶ。
リシャールは皇帝と向かい合う下座に席を与えられた。
「卿の報告書は読ませてもらった」
と宰相が口火を切る。
「帝国の現状について卿の率直な意見を聞きたい」
宰相はリシャールを卿と呼んだ。軍人としてなら貴官と呼ぶべきところだ。
「小官は戦場しか知りませんが」
と前置きして、
「戦場で勝てば勝つほど敵が増えていく状況に、いささか当惑しているところです」
この回答はぎりぎりである。これ以上踏み込むと帝国上層部への批判と取られかねない。
参謀総長は軽く笑みを浮かべて賛同を示した。直接の上司である艦隊総司令は苦笑を浮かべている。閣僚として宰相とは仕事上の繋がりのある軍務大臣は、宰相がどんな反応をするか興味津々である。
近衛隊長と憲兵総監は互いを意識し合っていて周囲の様子には関心を払っていない。近衛隊は皇帝と帝都を守るのが職務で、帝都に敵が来れば自分たちの出番が来ると虎視眈々である。憲兵の方は帝都の臣民を守るのが仕事なので、帝都に敵が押し寄せてくるような事態は好ましくない。とは言え軌道外輪の外は彼らの力が及ばないのであまり関心がない。と言う点は似通っている。いずれにしても近衛と憲兵は昔から仲が悪いのである。
「卿の意見はもっともだ」
と賛意を示す宰相に一堂の目が集まる。
「殊に外務部の怠慢と情報局の不手際。それぞれのトップから辞表を預かっております」
更に自身の辞表も添えて皇帝に提示する。
近習を介してそれを受け取った皇帝は、
「宰相においては部下の尻拭いをするように」
外務大臣を兼任すると言う名目だが、事実上は降格である。本人に動揺が見られないのは、予め覚悟していたのか、あるいは内密に話が通っていたのか。しくじれば引責辞任、うまく行っても勇退。いずれにしてもこれが最後の仕事となるだろう。
「情報部については後任が決まるまで憲兵総監に預ける」
「・・・は、拝命したします」
こちらは復命に一瞬の間があった。
「さて改めて、卿ならばこの状況に如何に対応する?」
宰相兼外務大臣より更なる問い掛けが来る。
「小官は戦場しかわかりませんが」
と予防線を張った上で、
「敵の包囲網を打ち破るには戦力の弱い箇所を突き崩すしかありません。この敵の包囲網には既に穴が開いているので、後はそれを広げるだけです」
その穴を開けたのは言うまでもなくリシャールの艦隊。戦果を報告した際に逆侵攻を命じられるかもと考えたが、返ってきたのは帰還命令だった。彼一人に手柄を独り占めさせないと言う大局的な判断であったのだろう。
会議が終わって、リシャールに声を掛けてきたのが軍務大臣である。
「貴官の要求は満額で応じられそうだよ」
企図に書いた新造戦艦や要塞砲に関する提言文書は軍務省に提出済みであった。
「実際に動き出すのは戦いが終わった後になるだろうがな」




