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会合戦記 疫病神と呼ばれた提督は望まぬ出世街道を突き進む  作者: 今谷とーしろー
怒涛篇

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第五話 待機任務

 リシャールが部屋から出てくると、

「ああちょうどいい所に」

 と毛を掛けてきたダミアン。

「帰路は暇なので」

「こんなことをやっていたのか」

 帰りの航行は次席に任せて彼は現在の戦況分析を行っていた。

 Gユニットの挙動から敵味方の現在位置が特定できて、そこから今の戦況が推察できる。

 三次元ディスプレイによれば、四ケ所のGフォートが二個あるいは三個艦隊と接敵している。それを受けて帝国中央から一個艦隊ずつを救援に送り出しているのが見て取れる。

 通常艦の数はこの手法では判らない。各要塞に少なくとも五十隻の戦闘艦、多い所では百隻近い艦が駐屯しているのですぐに要塞が陥落したり突破されたりすることは無いだろうが、

「随分と雑な対応だな」

「提督ならどんな対応をしますか?」

 と訊いたのは戦況分析に協力していた戦術参謀のジブリル大尉。

「どこか一か所に戦力を集中して敵を叩く。その後は要塞を順に開放するか、敵領土に突入して敵を引かせるか」

 敵は余剰戦力を後方に残していない筈なので、一気に主導権を握れる。

「まあこれはこの一連の戦闘で勝つ為の最善手に過ぎないけれどね」

「戦争に勝つのはまた別だと?」

 とジブリル。

「俺もそれを理解したのはごく最近だけれどね」

 リシャールは戦場では勝ち続けていたけれど、立場は一向に良くならない。出世して部下は増えるがその分ライバルも増える。とここまでは個人的な事情だが、

「帝国領の急拡大に統治機構が適応しきれいてない」

 帝国は現在十個艦隊を運用しているが、そのうちの二個艦隊は新領土の抑えとして動かせない状況だ。

「この戦いは完全な防衛戦で、勝っても領土は増えない。むしろ増やさない方が良い」

 作戦本部の意図は持久戦なのだろう。

「だとしたら、我々を呼び戻す意図は?」

「実はそれが判らないんだよなあ」

「自由にさせておくと勝手に戦線を拡大すると思われているのではないかな」

 と副官のヴァイス。

「あ」

 リシャールとダミアンが同時に声を漏らした。


 艦隊は無事に帝都に到着する。

 リシャールはまず鹵獲した戦艦と捕虜の引き渡し手続きを済ませて、次に報告書を提出するために艦隊総司令部に足を運んだ。受付で報告書の受け取り代わりに正式な待機命令が下された。

「・・・。副官の予想は半分当たりだったようだ」

 とリシャール。

「残り半分だが、総司令官殿が前線に出て指揮を執ると言う話が出ているらしい」

 現状でリシャールの直接の上司は艦隊総司令官になる。両者が揃って前線に出るとどうなるか。

「要するに総司令官殿も厄災を気にしておられると」

 先の任務で第八艦隊司令は無事だったが、第七の艦隊の司令が直後の任務で討ち死にしているので、まだリシャールの悪名は消えていなかった。

「こうなったら上官のいない軍のトップまで昇り詰める以外にないですね」

 と軽口をたたくジブリル戦術参謀。

「ともかくだ。乗員全員に七十二時間の休暇を与える。その間は自由に過ごしてくれ」

 航海訓練中は金を使う必要がないので、その間の給料が溜まっているはずだ。

「その期間設定の根拠は?」

 と小難しい副官に、

「四日後に御前会議に出頭しろと命令を貰っているんだ。だからそれまでは何があっても出動命令(でばん)は来ない」

 隊員を休暇に送り出すとリシャール自身も帰宅した。と言っても帝都に彼の私邸は無い。向かう先は元副官の家、つまり伯爵様の身分でありながら居候を決め込んでいるのである。

「帰還命令が出ているのは聞いていましたが、予想よりも随分と早いお帰りでしたね」

 出迎えた元副官の第一声がこれだった。

「状況を考えて急いで帰ってきたのだけれど、帝都は思っていた以上に平穏だな」

 建国以来、常に攻勢を取ってきた帝国である。領土にて敵を迎え撃つのは百数十年ぶり、今生きている人間は初体験のはずだが、

「まだ危機感が湧かないのですよ」

 とミシェル。

「帝国国境宙域からGシップで全速力で飛ばしても一月以上掛かりますからね」

「いずれかの大貴族領からゲートを使えば一瞬だけれどな」

「まさか。大貴族が敵方と通じていると?」

 さしものミシェルも顔色を変えた。

「俺も貴族階級、特に上級貴族の内情について詳しいわけでは無いけれどね」

 リシャールは反帝国同盟が何の勝算もなくこんな大攻勢に出てくる筈がないと考えたのだ。

「私もそこまで詳しい訳ではありませんが」

 とミシェル。

「詳しい人物をご紹介しましょう」


 翌日。訪問した先はモンタギュー伯爵邸。つまりミシェルの実家である。現在の当主はミシェルの異母弟ウリエル二世の同名の息子。家中では三代目(ティエルス)と呼ばれている。ミシェルは初代が爵位を貰う前に生まれた子供で、叙爵の後に上級貴族から娶った正妻との間に生まれたのが二世になる。要するにミシェルの生母は貴族の妻としては分不相応として扱われたのだ。

「ようこそ。ランドー伯」

「初めまして、モンタギュー伯」

 三代目は三十代半ばで、リシャールよりは少し上になる。

「こんな服で失礼します」

 リシャールは礼装ではなく常装を纏っている。二人は爵位では対等だが、軍の階級としては予備役少佐である三代目に対して現役の中将であるリシャールの方がかなりの上位になる。なので礼装を選ぶとかなり威圧的になってしまうのだ。

「現役の軍人が陞爵を受けるのは、帝国創成期以来でしょうからね」

 軍功により一代限りの男爵位を与えられるのは珍しくない。だが世襲が許される子爵以上を与えられると、家の存続を考慮して退役するのが通例だ。既に後継ぎがいるのなら話は別だが。

「まあ自分の場合、次代に残す財産が有りませんからね」


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