第四話 大転進
リシャールは帝都大本営からの通信を受け取るために要塞司令部に赴く。
Gユニットは超光速通信機としても機能する。故に艦隊に直接通信を送ることも可能なのだが、敢えて要塞へ送った。この要塞は帝国内でも五つしかないGユニットを装備した軌道要塞。通称Gフォートレスなのである。
帝国辺境部に配置されているGフォートレスには定期的に通信が行われる。リシャールへの指令はこの定期通信に紛れて送られた。
「指令文書には専用暗号が掛けられている」
と要塞指令。これを解読できるのは艦隊司令官の持つコードのみ。つまり要塞側も内容は把握していないと言う事になる。
リシャールはデータを自分の手持ち端末に掛けてその場で開いた。
「良いのか?」
「小官の所へ直接送らなかった理由は二つある」
一つは極秘行動を取っている艦隊の位置を敵に悟らせないため。そしてもう一つは情報を要塞側と共有させるためだ。
「ああ当たりだな」
内容は帰還命令。それは予想できたが、問題はその理由である。
要塞側からは司令官の他に、副司令(大佐)、砲術隊長(少佐)要塞技官長(大尉相当)、憲兵隊長(大尉)そして輜重隊長(大尉)が列席する。リシャールの側からは各艦の艦長が勢揃いした。
「既に要塞司令にはお伝えしたけれど、我々第九艦隊に帰還要請が来た」
とリシャールが語りだす。
「帝国の外縁を守る五つのGフォートレスがほぼ同時に敵の攻撃を受けた。我が帝国に対抗するための大同盟が結ばれたらしい」
ここ数年の急激な勢力拡大が近隣諸国の危機感を煽ったらしい。となればこの事態を招いた責任の一端はシャールにあると言っても過言ではあるまい。
「幸いにもこの要塞に襲来した敵艦隊は撃退済みであるが、第二波が無いとは言えない。要塞砲の改装工事の進捗状況は?」
「ほぼ完了している」
とアイザック少佐。
「後は試射だけだ」
先の遭遇戦を受けて、要塞の主砲を磁力砲から重力加速砲へと換装したのである。これはどこでも使えるわけでは無く、Gユニットを装備するGフォートレスなればこその話だ。
「射程は旧来の二倍。それだけでなく弾丸として普通の岩石を使う事が出来るから、弾切れもない」
星系の各所に設けられた監視網の砲撃支援を受ければ百発百中と言っても過言ではない。
「ではここは俺たちが退去しても懸念はなさそうだな」
この要塞は訓練航行のために立ち寄っただけだが、敵襲の可能性がある状況下で立ち去るのは目覚めが悪い。
「第二波の可能性は低いでしょうね」
と要塞副司令。
「ここに攻めてきた国は、弱小国家で帝国とは融和的と言うか従順でした。おそらく余剰戦力はありません」
こちらから仕掛けない限り危険はないだろう。
「反帝国同盟と言ってもそれぞれに温度差はあるだろうから、こちら敵意を煽るような真似はしない方が良いだろうなあ」
状況次第ではここから逆侵攻策も考えていたリシャールである。
「捕虜についてだけれど、数名の将校は帝都までご同行願うが、残りはここで拘留しておいてほしい。状況が終わったらすぐに返せるように」
「それが良いでしょうね。水面下で捕虜交換の交渉を行っておきます」
と副司令が請け負った。司令官は着任してからまだ日が浅く、副司令の方がこの要塞勤務は長く、状況に精通していた。
「それでは撤収の準備だ」
帝都へ連行するのは四名。自決した艦隊司令の副官に鹵獲した旗艦の艦長。そして戦術参謀と砲術隊長である。航海長と情報通信将校は連れて行くと余計な情報を与えてしまうので除外し、主計官は残った兵たちの管理統率の為に必要と判断した。
六隻の艦で構成される内側の重力場に鹵獲した敵艦を固定する。中は無人で弾薬類も空にしてある。帰路を利用してアイザック以下の技術屋たちが艦のスペックを徹底的に調べることになるだろう。
リシャール自身は三日ほど部屋に籠って報告書を書き上げていた。と言っても訓練に関するものは一日で完了した。残りの二日はそこから派生した提言文書である。
具体的には新造艦の展開。まずは一番艦”青龍”から。重力加速砲はGユニットの存在が前提となるが、銃身は長いほど加速力が増す。戦艦に装備するには取り回しの上で限界がある。既に着手しているが、要塞砲としての運用が最善であろう。この換装がすべてのGフォートレスに行われていたら、今回の事態は簡単に収束していたであろう。
次に二番艦”朱雀”である。艦の構造自体は極めてシンプルである。問題は艦載機を操るパイロットの充足問題だ。今回は帝国全土から優秀な人材をかき集めてきたが、空母を量産運用するとなれば絶対数が足りない。パイロットの練度が低ければ今回ほどの劇的な戦果は挙げられないだろう。パイロット養成機関の拡充が求められる。
その対策としてアイザックは自動操縦の無人機を提案して本職のパイロットたちからヘイトを買った。間に入ったのはやはり職人気質のダミアンで、
「設定した航路をなぞるだけなら自動操縦で良いが、ドッグファイトとなると本職には叶わないだろうな」
とは言え、自動操縦には優れた点もあって、一つには疲労による消耗が無いこと。
「折衷案として提示するならば、複数の無人機を専門のパイロットに指揮・運用させること。エースパイロットがを模倣する無人機を率いて小隊を組むと言う形かな」
これには技術屋からも飛行士たちからも賛同が得られた。
三番艦”白虎”も似たような問題を抱えている。陸戦要員の養成は既に始まっているが、まだまだ数が足りない。技術屋アイザックからの提言は彼らが纏う戦闘服、通称バトルドレスの改良だ。従来のCDは各人の体形に合わせたオーダーメイドの特注品だ。アイザックの第一案は装甲を減らすことで汎用性を持たせること。つまりは可動部分は剥き出しにすると言う事で、これは現場に意見を聞くまでもなく本人も駄目だと認めた。本命の第二案は艦載機の時と同様の無人化。つまり機械兵士を後方から操作すると言うもの。だがこれは無人の艦載機などとは同列には扱えないほど技術的難度が高い。偵察用の機械人形はすでに実用化されているのだが、これに戦闘をさせるとなるとコスト面でペイしない。
「やはり従来の着るタイプから乗るタイプへの切り替えだろうなあ」
とアンニバル。
「当然に大きさの問題も出てくるし、実際に作るとなれば研究開発に専従するしかないな」
とアイザック。
「それを選ばないのは何故だ」
と問うヴァイス少佐。
「現場から離れると実戦で使えないものばかり作ってしまいそうだからですよ。ヴィクトワール先輩」
自分がよくわかっているアイザックであった。
最後に四番艦”玄武”だが、今回は実戦データが得られなかった。にも拘らず近衛たる第一艦隊からすでに打診を受けている。皇帝陛下を守ると言う彼らの任務には最適の艦だからだ。真っ先に予算が付くだろう。




