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会合戦記 疫病神と呼ばれた提督は望まぬ出世街道を突き進む  作者: 今谷とーしろー
怒涛篇

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第一話 第九艦隊始動

 新設の第九艦隊が初航海に出発した。

 その旗艦は敵からの鹵獲兵装を追加していった結果、単艦で帝国最強の攻撃力を持つと言われ、合成獣シメールと言う呼称を賜った。艦長はダミアン=デアボロス中佐であるが、どちらかと言うと兼職である航海長の方がメインかもしれない。艦隊のナンバー2としてリシャール少将を戦術面で支える存在である。

 副官を務めるのはヴァイス=ヴィクトワール少佐。リシャールの士官学校時代の一つ先輩で、前任のミシェルの後任として参謀本部から引き抜いてきた。

「あの時誘いに乗らなかったら、少佐になるまではあと三年あっただろうなあ」

 参謀本部はエリートコースなので同期に比べれば十分に早いのだが。

 艦橋の顔触れはこの二人以外すべて入れ替えた。他所に引き抜かれたのではなく、艦隊の別の艦に配置して要衝を固めたのである。

 旗艦に続く中盤の四隻は先の戦いで鹵獲した改造艦をベースとして技術士官のアイザック=ジャンセン少佐が個別にカスタマイズしたモノで、それぞれは古代の四体の聖獣をモチーフにしている。

 一番艦のモチーフは青龍で特徴は長射程。側面に付けれた砲は二連から三連に、口径も一回り大きなモノが採用された。不自然な改造で制限されていた攻撃範囲も本来の状態に戻されている。射程距離は元の二倍で、威力も増している。この新型の唯一の欠点は弾切れが早いことである。艦長を任されたのはジル=ティライユール少佐。リシャールの艦で砲術長を務めていた。正確な砲撃を評価されていたが、これまではその腕を発揮する機会がなかった。

 二番艦は朱雀で戦闘空母型。一番艦とは逆に近接戦闘を考慮したものだ。と言うのも、宇宙空間では近距離での砲撃戦はタブーとされているからだ。ある程度の距離で砲撃戦を行うと、敵艦を撃破してもその破片が飛んできて甚大なダメージを被るからだ。これを返り被弾と呼ぶ。そこで近距離戦では艦載機によるドッグファイトが展開される。二番艦はこれに特化した設計になっている。艦長は旗艦から送り込まれた情報担当士官だが、メインは艦載機を操るパイロットになる。あちこちから腕の立つ人材をかき集めてきたが、集団として機能するかどうかはこれからの課題だ。

 三番艦は白虎。強襲揚陸艦仕様で、艦首で敵の装甲を突き破って陸戦隊を送り込む事ができる。こちらも艦長は別にいるが、中核は陸戦大隊を率いるアンニバル=ハーキュリー特務少佐になる。海兵としてのアンニバル隊の優秀さはすでに帝国軍の中枢まで知れ渡っている。アンニバルの戦術を他の部隊でも再現できるようにサポートシステムを構築したのがアイザックである。このシステムの運用に関してはすでに士官学校の基本過程に取り入れられており、その普及のためにアンニバル隊の最古参であった総長が教官として登用されている。これはアンニバル本人を引き抜かれない為にリシャールが考えた苦肉の策であった。それでもアンニバル本人と互角にやり合える指揮官が帝国軍全体に行き渡るまでにはまだ数年はかかるだろう。

 そして四番艦。玄武をモチーフにした防御特化型の戦艦である。前面が円形の重装甲で、その側面に複数の移動砲座を配置する。装甲は敵の攻撃を防ぐだけでなく返り被弾に対しても効果を発揮する。同型艦が近衛である第一艦隊にも採用されることになる。

 そして最後尾に配置されたのは特殊工作艦。技術士官であるアイザックが艦長を務める。単艦での戦闘力は低いが、旗艦を含めた残りの五隻の戦闘力が飛び抜けているのでさほど問題にならない。

 これに高い攻撃力を維持するための補給艦が随行する。通常だと補給艦は一隻だが、この艦隊は二隻編成。一隻は修理用の部品類を搭載している。


 第九艦隊は訓練航行の為に帝都から反時計回り方向(CCW)の星域に立ち寄った。

 駐留三日目に、

「要塞司令官から顔を出してほしいと要請がありました」

 とヴァイス副官から声が掛かる。

「うちのが何かトラブルでも起こしたか?」

「いいえ。エマージェンシーのようです」

 所属不明の艦隊がこの星域内を航行しているらしい。

「俺たちを狙ってきた。と言うのは考え過ぎかな」

「今回の訓練航行は飛び込みだったから、仮に情報漏れがあったとしても、敵の到着が早すぎるな」

 艦隊の準備が整った時点で訓練航行を申請したのである。

「敵の作戦行動が先にあって、こちらが当たりを引いてしまったのか」

 この時点では知る由も無かったが、リシャールが事前に訓練候補地として考えていた星域はすべて敵の攻撃にさらされていた。

「お手数をおかけします」

 リシャールとヴァイスは緊急の作戦会議に同席することになった。

「なんとも間の悪い時に来られましたな」

 と要塞司令官。リシャールとは同格の少将なので言葉遣いも丁重である。

「しかしこの事態は提督と無関係とは言えません」

 と難しい顔の要塞参謀。

「閣下はここ数年の我が帝国の急激な領土拡大に大きく貢献しておられる」

 つまり帝国の勢力拡大が周辺諸国の危機感を煽ったのではないか、と言うのがこの参謀長の見立てなのだ。

「それで、敵の戦力は?」

 とヴァイス。

「二個艦隊です」

 それはここを攻略するには少し足りない。単に無力化するだけならば一個艦隊で足りる。と言うのがその場の一致した意見だ。

「まあ敵の意図はどうあれ、ここに俺たちが居合わせたことはまだ知られていないようだ」

 とリシャールが笑う。

「ここは任せてもらえますか?」


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