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会合戦記 疫病神と呼ばれた提督は望まぬ出世街道を突き進む  作者: 今谷とーしろー
怒涛篇

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序 陞爵と昇進

 戦闘終結を確認したリシャールは準備を進めていたゲートの復旧作業を開始させた。構造物はそのままでGユニットだけが外されて戦艦に乗せ換えられていたので、ユニットを戻せば済む。都合よく初戦で撃破したGシップが三隻ある。

「どれくらい掛かる?」

「ユニットを戦艦から外してゲートに設置するには、一つ当たり二時間と言うところかな」

 とアイザック技術中尉。

「それで終わりじゃないぞ。バランス調整と座標調整におよそ半日は必要だ」

「面倒くさいんだなあ」

 ユニットなしの通常航行なら百年掛かっても踏破できない距離を、ゲートを繋げば数秒で行き来できるのだから有難い話であるが、

「原理も構造も不明と言うのが技術者としては気持ち悪いけれどな」

 調整作業中に本隊が合流してきた。

「こちらから出向こうと思っていましたのに」

 提督は自ら足を運んできた。呼び出したらスルーされると思ったようだ。

「・・・。と言う訳でゲートが回復次第戻ります。皇女殿下への報告がありますので」

 リシャールは皇女殿下の勅命、で押し切った。

「この戦いの最大の功績が敵に決定打を与えた提督にあることは疑いありません」

 と持ち上げもした。リシャール本人に出世欲はない。ただ無能な上官に振り回されるのが厭わしいだけだ。

 提督はこの後の論功行賞で中将に昇進し、更に子爵に叙任されたのだが、次の戦いで部下に足を引っ張られて討ち死にした。この戦いで武運を使い果たしたのかもしれない。


 リシャールは直接の上官である第八艦隊の司令官にするとゲートを使って一足先に戦場を後にする。改造した四隻のGシップも皇女殿下に変換するために同行している。後衛艦は本来の所属である第八艦隊に返した。

 リシャールは一連の作戦の経過に関する報告書を携えて皇女殿下に拝謁した。

 皇女殿下が報告書を読みふけっている横で、

「陞爵について皇帝陛下からの勅令が下りました」

 リシャールは伯爵に叙されることとなった。

「一度に二段階ですか?」

「軍の階級と違って、爵位に関してはすべてが陛下の裁量の内ですから」

 軍の人事については皇帝は意見を述べることがなくただ決済を下すのみである。

「伯爵と言うのは陛下の一存で与えられる最高位で、かつ叙任に際して陛下が直接関与する最低位でもあるわ」

 リシャールは叙任の為に皇女殿下の船で帝都に向かう事となった。


「ご無事のご帰還をお祝い申し上げます」

 執事のミシェルが軍港まで出迎えに来た。

「どうせ心配なんかしていないだろう」

 と皮肉を返すリシャール。

「確かに。戦場におられる方がむしろ安全かもしれませんね」

 ミシェルは御座戦艦(の中にいる皇女殿下)に向かって敬礼して先を行く主を追った。

 平民上がりの大佐程度では帝都に邸宅を持つことはできない。リシャールは出世が早いせいで階級は高いが給与はそこまで高くない。これから向かうのは執事のミシェルが退役恩典でもらったこじんまりとした一軒家である。

「伯爵になられるそうで、おめでとうございます」

「それなんだが。着ていく服が無いよ」

「現役なのですから礼装軍服で宜しいと思いますよ」

「礼装かあ。士官学校の卒業式以来だ。階級章を付け直さないと」

「既に処理済みです」

「仕事が早いねえ」


 当日。

「階級章が大佐になっているけれど」

 大佐は戦時特例だったはずである。

「人事部に確認したら、作戦終了時点で大佐への昇進が認められていましたので」

 論功行賞で更に上の階級が検討されていると言う。

「まさか伯爵の叙任式に五大貴族様が勢揃いしているとは」

 式典を終えてぐったりとしているリシャールに、

「やはりそうなりましたか」

 と笑うミシェル。

「予期していたなら事前に言っておいてくれよ」

 と愚痴るリシャールだったが、

「知っていたところで対策は立てられなかったでしょう。宮廷は貴方がお得意な戦場とは勝手が違いますから」

 と返されて苦笑するしかなかった。

「伯爵と言うのは時の皇帝が職を退く忠臣に与える恩典として用いられてきましたので」

 代替わりとともに皇帝を支える官僚は入れ替わる。軍はそこまで一気には変えられないが、代替わりの前後は人材の入れ替えが加速する傾向にある。

「現役の軍人が伯爵位を与えられるのはおそらく前例がありません」

 貴族出身の軍人も多いが、次男以下がほとんどで、何かの事情で家を継ぐことになったら退役して予備役編入となるのが通例だ。

「五大貴族の中でも、お一人は軍とは全く無縁。三人は士官教育を受けて少佐に任官して即退役」

 貴族に良くあるペーパー少佐と言うやつだ。

「残るお一人は傍系の生まれなので軍務を経験して大佐にまで昇進しましたが、本家の跡取りに不幸があって今のお立場にあります」

 と言っても後方勤務で最前線は経験していない。

「要するに方々は貴方が怖いのですよ」

 ミシェルの説明は核心に向かう。

「伯爵になると不輸不入の権が与えられて、領地は事実上の自治領となります」

 つまり税は免じられるが、領内の治安維持も自己責任となる。

「俺は領地なんてものを持ち合わせていないが」

「貴方の場合は戦艦が領地に相当します」

 とミッシェル。

「それは皇帝陛下すら手を出せない最強の力ですよ」

 むしろ伯爵に任じることで自陣に取り込もうと言う深謀か。


 翌日に軍からの辞令が下りた。少将へ昇進と併せて新設される第九艦隊の司令官に任じられた。

 第一艦隊は近衛として皇帝を守る楯として機能しているが、リシャールの艦隊は皇帝の矛と呼ばれるようになる。


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