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会合戦記 疫病神と呼ばれた提督は望まぬ出世街道を突き進む  作者: 今谷とーしろー
疾風篇

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第七話 決着

 リシャールの艦は単独でも倍の攻撃力を有している。そして改造艦も重武装なので、艦隊全体の瞬発的な破壊力は飛びぬけている。問題はこの攻撃力を生かすためには敵をなるべく一か所に集める必要があると言う事だ。

 かつて囮として利用された状況から試行錯誤で編み出した生き残り戦術であったが、これが転倒してリシャールの得意技に昇華している。

「敵本星周辺にGシップが三隻」

 と報告が入る。まだリシャールの艦隊に気付いていない。

「では近い艦から順に潰していこうか」

 リシャールはアクティブモードへの移行を指示する。

「撃て」

 いきなり現れた敵に対応する間もなく撃沈する。

「陸戦隊。回収に迎え」

 アンニバルの艦が分離して敵艦に突入を開始した。

 ダミアンは指示を待たずに次の艦に向けて艦隊を動かす。

「第二射準備」

 艦が敵を射程に捉えると同時に、

「放て」

 これをもう一回。それで戦いは終わった。

 一隻目は艦橋を吹き飛ばされたので生き残りは機関室の要員のみ。二隻目と三隻目は撃ち返す余裕があったので、これがこちらの攻撃の一部を無効化する弾幕となったが、それでも一斉射で戦闘能力を喪失した。

 Gシップはユニットの共鳴により外部から牽引できる。三隻をひとまとめにして相互に共鳴させて三角形を作り、最後尾の艦に紐づけした。本体が六隻で正八面体を構成し、最後尾は鹵獲した三隻を加えた正四面体の一角を兼ねる。後ろの三隻は全く戦闘力を持たないお荷物ではあるが。

「使えそうな物はないな」

 陸戦隊に同行していた技術士官のアイザックから報告が入る。

「手加減する余裕はなかったからなあ」

「物資はしこたま積んでいたよ」

 とアンニバル。

「本星で補給を受けた直後だったのだろう」

 リシャールの艦隊を待ち受けていたのではなく、補給のために下がっていたところに別動隊の強襲を受けることになった訳だ。

 周辺に敵はいない。初撃で使った弾薬系を補給艦から受け取って次の戦闘に備える。鹵獲艦の物資は補給艦へ移して、

「捕虜はまとめて後衛艦に収容しておいてくれ」

 前の会戦の時と違い戦闘はまだ続いているので鹵獲艦にそのまま留め置くことは拙い。


 リシャール艦隊の強襲作戦に呼応して姿を隠していた敵のGシップもすべて姿を現した。

「概ね予想通りだな」

 先行部隊を包囲するように、射程ぎりぎりの距離を取って点在している。

 リシャールが到着する前は帝国艦が十隻に対して、敵が十六隻いた。リシャールが率いる六隻が戦線に加わり、逆に敵は三隻を失って、Gシップの数だけ見れば十六隻対十三隻と逆転した。

 通常艦を含めるとまだ戦況は予断を許さない状況ではあるが、

「どういう状況だ。説明しろ」

 第七艦隊の司令官から通信が入った。報告ではなく説明と言う言い回しに配慮がうかがえる。

「敵方のGシップを三隻ほど無力化しました」

 とリシャール。

「敵本星からの補給を止めたので、敵も決戦を仕掛けてくると思いますよ」

 先行部隊がご丁寧に星系内の補給基地を叩いて回ったので、残るは最大の補給拠点である本星のみだった。

「貴官がそのまま敵本星を占領してしまえば良いではないか」

 敵政府を降伏させても艦隊がそれを受け入れない限り戦いは終わらない。

「強硬派の領袖を黙らせるのが最も確実なのですけれど」

「了解した」

 この通話は暗号化せずに平文で行っている。相手方に聞かれることを想定してのものだ。

 第七艦隊でも敵艦の識別は行っている。通話を終えると同時に強硬派の旗艦に向かって艦隊突撃を敢行した。

 敵旗艦は第七艦隊を包囲する半球陣の真ん中に位置していた。第七艦隊の突撃に対する敵の反応には温度差があった。強硬派の艦艇五隻は即座に反応したが、それ以外の中間派はこれに連動しない。それどころか旗艦の近くに位置していた艦は旗艦から距離を取り始めていた。

「包囲陣を有効に機能させるために信頼できる強硬派の艦を分散して配置していたのだろうけれど、それが状況の変化で裏目に出たな」

 とリシャールが分析する。

 敗色濃厚を悟って敵旗艦が後退を始めるが、

「一手遅かったな」

 Gシップは空間の歪みを作り出して加速力を発生させる。故にどちらの方向へも自在に移動できるのだが、通常推進が加わる前進の方が後退よりは速いのが道理だ。よって本気で逃げる心算ならば即座に百八十度の回頭をすべきであった。だが強硬派の矜持がそれを許さなかった。もしそれをしていれば、強硬派の僚艦からも見捨てられていたであろう。

 追撃してくる強硬派の艦船に対しては第八艦隊が後衛として対応する。旗艦が艦隊全体の航行を制御し、後方の四隻が艦首を後方に向けて弾幕を張る。追撃側の五隻が連動して動いていればもう少し善戦できたであろうが、ばらばらに動いていたので各個撃破されて脱落していく。

 孤立して後退りする敵旗艦は一時間ほどで第七艦隊の射程に捉えられ、斉射を受けて大破した。

 第八艦隊に攻撃を仕掛けていた艦船もこれを確認して抗戦を断念した。既にまともな戦闘力は残っていなかったが。



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