表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

第六話 強行軍

 まずは皇女殿下への報告。

「そう。気を付けてね」

 とお言葉があり、

「陞爵を申請しておいたから」

 と続く。

「生きて戻ったら子爵になるわ」

 と不穏なお言葉をスルーして、

「男爵と子爵で何が変わるのでしょうか?」

 と首を傾げるリシャール。

「男爵は一代限りだけれど、子爵なら世襲されるわ」

「自分は未婚で、家族もいないのであまりピンときませんね」

 彼はこの陞爵の意味をまだ理解していなかった。


 臨時編成の六隻が揃って艦隊構成を取る。先頭に旗艦となるリシャールの戦艦。急造の四隻が四辺形を描き、最後尾にはリシャールの同僚艦が位置する。

「ユニットの同調を確認しました」

 次席の操舵士官が報告する。

「了解。出発まではまだ少し時間があるのでそれまでは交代で休憩するように」

 その間もダミアンは航路計算に余念がない。

「合流まで四日。減速に入るタイミングは腕の見せ所だな」

「期待しているよ。少佐」

「え?」

「艦隊の航海長は少佐をもってこれに充てる。事になっているからねえ」

 あくまでも臨時の処置であるが、他の艦の操舵長達からの同意を取り付けてある。リシャールが臨時で大佐に任じられたのと同様の戦時特例措置だ。


 出陣に当たってリシャールは全艦に向けて演説を打った。

「兵士諸君に告げる。これより戦場に向けて出発するが、もしかしたら既に決着が付いて我々の出番はないかもしれない。これはある意味で最高の結果だ。しかし」

 少しトーンを落として、

「味方がまだ戦っていて優勢であった場合、最後の美味しい所を攫っていくことになり、僚艦からは恨まれることだろう」

 少し笑いが起こる。

「逆に味方が劣勢であった場合、我々は戦況をひっくり返す切り札となり、英雄として褒章は思いのままになるだろう」

 ここまでは良い。

「だが不幸にして味方の戦闘力が失われていた場合、戦うか退くか難しい選択を迫られるが、その場合の戦術も既に準備しているので心配しないでほしい」

 そして一呼吸おいて、

「いずれの目が出るか。賽を投げよう」

 と言って出発の合図をした。

「どの目が出るでしょうか」

 とジブリル戦術士官。口には出さないが、先行している叔父を気にしているのだろう。

「取り合えず一番と四番は無い、と思うよ」

 つまり増援が到着する前に決着することはないと言う事だが、

「何か根拠でも?」

「敵方には余剰兵力がない。故になるべく損害を受けずに勝たねばならない。まあたとえ今回の侵攻を退けても、帝国にはまだ余剰戦力があるから敵さんはすでに詰んでいるんだけれどなあ」

 リシャールは憂鬱そうな表情になる。

「降伏するなら早い方が良い。粘れなば粘るほど損害が大きくなるだけだ。それに対してこちらとしても無理に敵を殲滅する必要がない。故に互いにちまちまと戦力を削り合う展開になる筈だ」

「我々の到着を味方に知らせた方が」

「知らせない方がいい。知ってしまえば援軍が来る前に決着を付ける必要性が生じてしまうから」

「敵に知られるのは拙いでしょうけれど、味方は知っていた方が作戦の幅が広がるのでは?」

「味方が来るまで待っていて、手柄を譲ってしまうようなタイプは出世しませんよ」

「大佐殿はその例外ですか」

 と言われて苦笑するリシャールであった。


 Gユニットは二種類の状態がある。その一つアクティブモードでは艦の周囲に重力場を展開して艦の防御力に大きく寄与する。その代わりにユニット同士の共鳴作用によってその位置を常に把握されることになる。一度探知すればどこまでも追尾可能になるが、これを避ける事が出来るのがパッシブモードである。探知網から外れるが、その代わりに重力場による防御効果も失う。敵からの攻撃が可能な距離でこれを行うのは無意味だし自殺行為である。

 航海長ダミアン戦時少佐が行っている航路計算もユニットの共鳴を利用したものだ。それ自体は彼の発明ではないが、彼の弾き出す航路の精度は極めて高い。

「先行部隊が接敵しました」

 通信と索敵を担当する情報士官からの報告が上がる。

「マーキングをよろしく」

 Gユニットはそれぞれが固有の波長を持つ。故にそれぞれを識別できる。これを記録しておけば、それぞれの艦を取り違えることはない。パッシブモードに移行して姿を消したとしても、再びアクティブモードになれば艦を特定できる。消えている間にユニットを別の艦に乗せ換えていなければだが。このやり方で探知できるのはGシップの動向のみで、通常艦はこの距離では判らない。

 先行部隊は艦隊を分けて敵を誘い込む戦術を取らなかった。さりとて敵の居住惑星を直撃することもなく、外周の基地や資源プラントを破壊して廻った。敵を挑発して艦隊決戦に持ち込む狙いだが、相手も慎重にこれを避けた。

 双方が小競り合いを演じる間にリシャールの艦隊は敵星系まであと一日と言う距離に到達した。この時点で想定される敵の主力艦をすべて確認できた。と言ってもこの時点では半分は姿を消している状態であるが。

「これ以上進めばいずれ敵に発見される。それよりは・・・」

 リシャールは自分の方から所在をアピールすることにした。その為に、直接の上官である艦隊司令に通信を入れた。

「これよりかねてよりの計画通り敵本星に単騎突入を敢行します」

 通信の為にはGユニットをアクティブにする必要があるのだが、リシャールは旗艦のユニットだけをアクティブにして残りの艦の存在を秘匿した。通信を終えると再びパッシブに戻す。

「さて作戦開始だ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ