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第五話 出陣前夜

 志願兵二十四名の中には士官が一名、下士官が五名含まれていた。一番若いのが一番上級である士官なのだが、

「何故中尉の貴官が兵卒と同じ条件で志願を?」

「理由は大きく二つ。一つは軍人よりも商人が評価される我が国のお国柄にあります」

 祖国存亡の危機にあっても国家の中枢を握る大商人たちは自分たちの利益を優先して防衛戦の足を引っ張っていた。

 軍人の方にも問題はあって、

「一発逆転を狙う山師ばかりで協調性が無く、自分の手柄ばかりに固執してばらばらに戦っていましたが」

「まあそんな感じだったなあ」

 と同意を見せるリシャール。

 それに比べると帝国は軍事官僚組織がしっかりとしていて、身分階層社会ではあるが出世の道は開けている。リシャール本人がその証と言える。

「貴方の下で働けるのがもう一つの理由ですよ。キャプテン・ランドー」

 厄病神のリシャールの異名は敵国には別の意味合いで広まっていた。直属の上司にとっては厄介な存在であるが、部下は一人も死なせていない名指揮官でもある。

「まあどちらもたまたまですが」

 上官の不幸に関してはリシャールに責はない。彼自身も生き残るのに必死だった。部下を死なせずに済んだのは、有能な幕僚のお陰だと本人は謙遜抜きでそう思っている。

「軍人として命を預けるならば、強運な人物の方がマシという話ですよ」

「この急造艦隊に出番があると思うかい?」

 と訊いてみると、

「無ければ幸いとは思いますが」

 と前置きしたうえで、

「先の先の防衛線に出てこなかった艦隊が一つあって、撤退した艦隊がこれに合流。更に不要となったゲートを解体して三隻のGシップが加われば、防衛線力はGシップだけ十六隻。これに先の会戦では日和っていた通常艦がどれだけ加わるか」

 この国では商船でもそれなりの武装をしている。

「帝国の戦力は一個半艦隊でGシップが十隻ですよね。この艦隊が加わってぎりぎり互角と言うレベルではないですか」

 かなり的確な分析だ。

「問題は通常艦の数だな」

「ほとんどは民間商船ですが、残っているのは強硬派が多いと思われますね」

 世論としては強硬派は三割、融和派が三割、中間派が四割と言う内訳になろうか。

「商売相手だったGCFが帝国に併呑された際に両派の意見の対立が先鋭化したのです」

 融和派は帝国と条約を結んで新たな商売相手にしたいと主張したが、強硬派は帝国との対決姿勢を崩さなかった。

「ご存じの通り、我が国は貿易商人と海賊の集まりですからね」

 GCFが帝国に飲み込まれようとしているときにこれを支援して帝国との戦いを主張したのは実は融和派で、強硬派はむしろ勝手にやらせておけと言う態度だった。帝国と戦う心算ならばむしろGCFが健在だった頃だろうに。

「まあ融和派も積極的に矢面に立とうと言うわけでは無かったですからね」

「ちなみに貴官はどの派閥なのかな?」

 中尉はこれには直接答えずに、

「自分の提督は融和派のボス的な人でしたが、先の会戦で敗れて捕虜になりました。戦線離脱をした提督は中間派で、故にあまり積極的に動いていませんでしたね」

 開戦に参加しなかったのは強硬派の提督だと言う。

「融和派はほとんどがこちらの星系に集まっていて、取り合えず一戦交えてから交渉しようと構えていたようですが」

 あちらに残ったのは強硬派と、逃げ損ねた中間派の一団と言う事になる。

「窮鼠猫を噛むと言いますが、帝国艦隊も手を焼くでしょうね」


 義勇砲兵を各艦に配属して艦に戻ってくるリシャール。

「航路解析の方は進んでいるかい?」

 とダミアンに声を掛ける。

「順調だよ」

 先行した艦隊から航路データが逐次送られてきている。彼らが出発して十日。

「今から出発すれば三日で踏破できる」

 先行艦隊は初めての宙域を手探りで進んでいるが、後続部隊はそのデータを利用できるので時間を短縮できる。特にGユニットを用いた航法では、加速と減速を如何に減らすかが重要だ。先陣は敵の襲撃を警戒しつつ加減速を繰り返すのでどうしても時間がかかるのだ。

「このペースなら、あと二日で敵星系に届く」

 二つ可住星系の間には資源用の星系が二つある。そのいずれかで待ち伏せがあるかとも予測されていたが、

「彼らにそこまでの戦意は無いよ。味方との合流を最優先にしたのだろうね」

 リシャールは中尉からの聞き取り情報を伝える。

「その情報はどこまで信用できるのかねえ」

「別ルートからの情報と照合して裏付けは取れているよ」

「まあ我らが大佐殿(キャプテン)大佐殿(キャプテン)大佐殿(キャプテン)に抜かりがあるとは思ってないけれど」

「問題は出発のタイミングだね。接敵してからだと到着する前に決着してしまうだろうし」

 直前で待っていてもらったとしても、

「増援を察知した相手の方から仕掛けてくるだろうねえ」

「敵星系の情報はすでに入手してあります。問題はその間の宙域で」

 これに関してはそれぞれの艦艇が独自に情報を持っていて政府上層部にも提供していない。鹵獲した艦艇も情報は削除していた。

「逆に残っていた方が怪しいよな」

 と苦笑するリシャール。

「では最速で合流できるのは?」

「敵星系に入る寸前、軌道計算を考慮すればあと一日と言うところですね」

 今から出陣の準備をさせても、数時間はかかる。

「では二十四時間後に出発する事にしよう」

 それまでにやるべきことは山積みだ。



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