侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢付きになった侍女の報告書
初投稿です。貴族制度などはヨーロッパを元にしておりますが、いい加減です。その辺へのツッコミはご容赦を少々捻くれておりますので、ハッピーエンド好きなお方はご注意ください。
侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢付きになった侍女の報告書
1回目報告
嫁いでこられたお嬢様のご様子ですが。ご命令通り奥方用のお部屋では無く、お客様用のお部屋にお通ししました。お茶をお持ちしてお部屋を訪ねたところ、ご自分で荷物を解いておりました。荷物もトランク一つ分なので後で送られてくるのでしょうか?
痩せ気味なのは今年の流行で食事制限をなさっているのかと思っていたのですが。爪が割れて髪に艶がないのが気になりました。顔に表情がほとんど無く旦那様が「この婚姻に不満が有るんだろう」とおっしゃっておりました。契約ですしね。
ご実家から侍女も連れずに、私や他の侍女にも敬語を使っておられました。お噂で聞いた我儘で勉強嫌いな問題児とはかなり違うような感じがしますが、しばらくはこのままで観察を続けます。
2回目報告
朝食にと起こしに向かったところご自分でご支度をなされておりました。顔を洗う水をお持ちしたところ驚かれた様でした。侍女が仕えるのは当たり前でしょうにこの驚き様は可笑しいです。
あとお髪を整えようとしたら、断られました。やけに怯えて居たのが気にかかります。きっと髪を引っ張られたことがあるのでしょうね。
折檻していたのはどっちでしょうか?
3回目報告
黙ってお庭に出られて居たので、日傘を持って行ったところ花壇の草むしりをしておられました。なぜ?と伺ったところクセでとの仰せでした。庭仕事を趣味となさる方は居りますが。妙におどおどしているのも気になります。
4回目報告
雨が降っている中お庭に出ていられたので驚きました。あわてて雨傘を持って駆けつけたところ驚かせてしまった様で転んで泥だらけになって仕舞われました。しかも足を捻ってしまったようです。
ドレスの着替えとお風呂の手伝いをしたのですが、お身体が傷だらけで思ったよりも痩せておられて足も今転んで痛めたわけではなさそうです。腕に傷跡が有ったのでカップやフォークを落としそうになるのはそのせいかも知れません。
5回目報告
正直私だけでは手が足りないのとお嬢様が危なっかしいので、護衛を付けることにしました。殿方を・・・
護衛は出来れば女性が良いと思って居ました。そばかすだらけでそんな美男子ではないというのも護衛の採用理由の一つだそうですし、勤務態度は真面目だから良いですが。
6回目報告
本が読みたいと言うか読みたそうなので、図書館へご案内しましたが、本に触るのも恐れ多いと言う感じで危なっかしい感じでしたので、護衛と私が本を取りに行きました。護衛は植物図鑑を、私は文学小説をお嬢様が興味を持ちそうなものをお持ちしました。
ですが、共用語は分かる様ですが外国語は分かっていない様でした。外国語は令嬢の必須教養なのに。勉強嫌いだと言えども基本すら知らないのは教師の怠慢では?
植物図鑑を見て居る時は楽しそうで、口元が綻んでおりました。良いものです。
・・・ドレスの本や恋愛小説なども取り寄せた方が良いですね。
7回目報告
偽物疑惑が漂ってきました。言動態度などから侍女を身代わりとして嫁がせたのではないかという話になってきました。周辺情報も併せて調べることとなりました。
旦那様がお嬢様に問いただしましたが、お嬢様は無言無表情になってしまいました。だからダメなのに
侍女として扱うとの意見もありましたが、仮にも花嫁、お客として迎えた手前そんな扱いはできないと言うことなので今まで通りにお客様扱いです。
私も思うところがあったので、医者に見せることも提案しました。
お嬢様は無表情ですが、内心は怯えて居る様で先ほどもお茶をこぼしておられました。最近では笑顔を見せてくださる様になってきたのに残念です。
8回目報告
酷い話です。どうやら彼女は酷い虐待を受けて居たようです。必要最低限の食事しか与えられず、読み書き計算の平民程度の教育しか受けて居なかったようです。
なんでも伯爵夫人が浮気した疑いの有る子どものようで、籍は入って居る様ですが扱いは使用人以下だったようです。そのうえ我儘だのと言うありもしない話を流して孤立させていたようです。
旦那様は血縁関係を調べるようで、彼女への扱いはその後にする様ですが彼女は怯えて体調を崩してしまいました。血縁をはっきりさせておきたいんでしょうが、彼女の精神状態も考えて欲しいものです。
9回目報告
結果が出ました。血縁有るそうです。でも虐待するような親と血が繋がっていても嬉しくないですね。「これからどうしたいか?」と旦那様は彼女に尋ねましたが、彼女は混乱しているようです。落ちつくまで待ちましょうと旦那様に提案しましたが、旦那様はやたらと焦っていらっしゃいます。不正を許せないのは良いんですが、お嬢様の状態も考えて欲しいものです。
落ち着く様にお嬢様がお好きなお菓子とお茶でもお持ちいたしましょうか?
10回目報告
お嬢様が出ていかれました。というかお屋敷から出て居るだけで敷地内の小屋に籠って居るようです。「出てきて欲しい」旦那様は懇願と言うより怒鳴っておりますが、それじゃあ余計出にくいと思います。護衛が旦那様を止めておりますがお嬢様は体調も良くないのに大丈夫でしょうか?いやだめか。
旦那様にお屋敷へお戻り頂いた後、小屋の前では護衛が他愛のない話をしてはお嬢様に話しかけております。少しでも落ち着いてくださると良いのですが。
それにしてもお嬢様が何をしたというのでしょうか?
11回目報告
返事がないので護衛が小屋の扉を蹴破ったところ高熱で倒れておりました。お医者様のお話では疲労だそうですが、精神的なものも有るのでしょうね。
旦那様は怒り狂っており彼方此方に連絡をとっています。お嬢様のご実家を追い込む為の準備をしている様です。看病は私とお医者様が一日中付きっきりで部屋のドアの前から護衛が離れません。
・・・旦那様は本当に愛して居るんでしょうか。義務感だと思っていましたが。
12回目報告
お嬢様が目を覚ました後何かが吹っ切れたようです。お嬢様のご実家に乗り込む様です裁判所の証書や権利書なども揃えなければならなかったので時間はかかりましたが、お嬢様は気持ちの整理が出来た様で落ち着いております。立場をはっきりさせておきましょう!
13回目報告
お嬢様はご実家と完全に縁を切った様でスッキリした顔をされております。これで自由の身になれました。
これで正式に結婚出来ますね来月には式を挙げるそうです。旦那様も嬉しそうです。
これでめでたしめでたしですね。
ああ疲れた・・・
最終報告
お嬢様は挙式直前に護衛と逃げていかれました。「旦那様には感謝しているが、結婚は出来ない」という手紙を残されて、実家から賠償金として取ったお嬢様自身の財産は今までお世話になったお礼として受け取って欲しいとのことです。
何でも初対面で「君を愛することはない、君と恋愛はしない、この婚姻は唯の契約だ」と言われたのが引っかかっていたようです。
初めて聞きました。いくら何でもこれは酷いと思います。旦那様自身は忘れていたそうです。人間初対面で言われたことは後々残るものです。
旦那様はお嬢様を探さない様です。・・・
暫く落ち込んで仕事が滞っていると執事が愚痴っておりました。
全くもう
虐待されてきた人間はそうそう人を信用しないと思うのとやっぱ第一印象は大事。