008
カーキ色のセーラー服は、箕面学院中学部の制服ではない。
見た事の無いセーラー服の女は、表情はいつも通りだ。
そのまま、俺の方にゆっくり歩いてきた。
「お前、何をした?」顔を赤くして、俺は叫んだ。
後部座席にしゃがんで、震えたまま俺は叫ぶ。
叫んだ俺の言葉を無視して、セーラー服の女は俺の目の前で立ち止まった。
「ねえ、どんな気持ち?」
その顔は、とにかく冷めていた。
淡々とした顔で、その言葉を投げかけた。
冷めた顔ではっきりと言ってくるこの女は、やはり異様だ。
「は?お前は何を、言っている?」
「私は、どんな気持ちか聞いているだけ」
「ああ、最悪の気分だ」
俺は、半分投げやりで言い放った。
急に子供にされて、バスの中に閉じ込められた。
鍵もないので、俺はここを出ることが出来ない。
それを眺めて、お前は楽しんでいるのだとしたら最悪だ。
「お前、バスの鍵を奪ったのか?」
「確かに持っている」
「今すぐ返せ!俺のだ!」
「いいけど……」鍵は、確かに女が左手に持っていた。
バスの鍵を、俺に見せた後すぐに女は右手に持つスマホを操作した。
操作すると彼女の目の前の空間に、小さな切れ目が見えた。
見えた切れ目に鍵を投げ込むと、鍵はそのまま消えた。
いや、消えたんじゃなくて瞬間移動だ。
落ちた先は、バスの目の前。
ガランと音を立ててバスの前窓の奥に、落ちていた。
「鍵は、窓の外に置いてあるわ」
「お前、何をした?」俺は怒っていた。
「何って、移動させただけよ」
「お前、何者だよ?」
「エウノミア」セーラー服の女は名前を、名乗った。
喋ったことに、悪びれる様子も何もない。
後悔も、嘲りも、怒りも、何もない。
俺は、一体何と話をしているのだろうか。
エウノミアとか言ったこの女は、本当に人間なのだろうか。
「名前を聞いているんじゃない。
急にワープしたり、鍵を奪ったり、俺を子供にしたのもお前か?」
「そう」
「どうやってやった?俺をどうやって子供にした?そのスマホか?」
「これはスマホじゃ無い」
右手に持っているのは、どこからどう見てもスマホにしか見えない。
だけど、赤いスマホのような形状をあの女が操作すると不思議な事が起こっていた。
「じゃあ、それはなんだ?」
「今の時代に、教えることは無い」
「何をわからないことを言っている?
エウノミアとか言ったな。お前は、一体何者なんだ?」
「『土室 樹』を観察しに来た。観察者」
「観察、ふざけるな!」俺は、上から来た女に憤った。
そのまま、服を持っている手を離して俺は突進していく。
だけど、子供の俺が走っても女には軽くあしらわれた。
横に避けられた俺は、そのまま裸でバスの床に倒れた。
痛みと寒さ、裸の肌に目に涙が溢れていた。
「ううっ……」それでも、俺の中身は大人だ。
立ち上がって、女を見上げた。
「一体俺が、何をしたって言うんだ?」
「土室 樹、あなたは7年前に一つのミスを犯した」
女が言われた瞬間、俺は忘れていた……いや忘れようとしていた記憶が思い出された。
その瞬間に、自分の顔が苦悩に満ちていた。
同時に、俺の額から冷や汗が流れていた。
「やめろ、お前……なんで知っている?」
「あなたが犯したミスを、あなたに経験させてみたの。
この『脱出ゲーム』は、そういうゲームよ」
女が、はっきりと言い放った瞬間俺はうなだれていた。
寒さ以上に、体が苦しくなった。
それは俺の、忘れようとした苦々しい記憶。
全てが蘇って、体が震えていた。
目には、涙が完全に溢れていた。
「違う……俺は……悪くない」
泣きながら俺は、両手を地面について四つん這いになっていた。