006
車庫は、小学校の校舎から少し離れていた。
クラクションで鳴らしても、周りに人がいないので効果が無い。
バスの中には、人もいない。
周りには、人もいない。
静かにクラクションの音だけが、むなしく鳴り響いた。
(クラクションさえ鳴らせば、クリアできると思ったんだけどな)
閉じ込められたバスは、出口が開かない。
いろいろ考えて、俺はある結論に至った。
(脱出ゲームということは、クリアできるんだよな?
例えば、どこかにヒントが用意されているのだろうか?)
文字通り、セーラー服女が考案した『脱出ゲーム』を俺は必死に解こうとしていた。
運転席から飛び降りた小さな俺は、裸の体を隠すように制服を引きずって歩く。
(じゃあ、何かを仕込んだ?そうであれば……)
脱出ゲームは、ヒントを元に脱出を目指すゲームだ。
余り詳しくは無いけど、そんなルールだったと思う。
謎解きの詳しい友達は、ここにはいない。
バスの中を、くまなく調査していく俺。
歩き回ったバスは、とても広く感じられた。
見慣れたバスも、静かで薄暗くてどこか不気味だ。
(でも、そんなヒントあるのか?)
大きく見えるバスの中を、見上げながら歩いていた。
だけど、ヒントのようなモノが何一つ見つからない。
(うーん、ヒントはどこにもなさそうだ)
薄暗い車庫の中で、ヒントらしきモノは見当たらない。
それでも俺は、暗いバス内を歩く。
見回しながら、一番後ろの長座席まで来ていた。
(ここに、あの女がいたんだよな)
何か無いのか、俺は調べていた。
調べても、座席から変わったモノはなにも変わったものが出てこない。
そんな最後部の窓が、少しだけ開いていた。
「開いて出ていきやがったな、ガキ共」
一番後ろの座席の右側の窓が、少しだけ開いていた。
そこから流れてきた冬の空気が、冷たく感じられた。
(あっ、そういえばこの窓は開くんだよな)
俺は最後部の長座席に、小さな体で登った。
そのまま、窓に近づいて小さな手を入れた。
「ここから出れるの……か?」
開いていたのは、ほんの少しの隙間。
流石に、子供であっても俺の体では出ることは出来ない。
だけど窓を完全に開ければ、この小さい家族から出ることが出来た。
そのまま、窓を持ち上げようとした……が開かない。
「硬い……」
窓の立て付けが悪いのか、開けるのも一苦労だ。
子供の力だから、窓を開けることがなかなか出来ない。
それでも、力一杯顔を赤くして窓枠を持ち上げてようやく開けた。
開いた窓を見ると、高いバスの下……地面が見えた。
コンクリートの地面を、小さな体の俺は見て怖がっていた。
「あっ、これは……」
高い。子供の俺の体で、足が震えて動かない。
すっかり忘れていた、俺は高所恐怖症だ。
大人の俺ではそこまで脅威で感じない高さだけど、子供の俺にとってはかなり危険な高さだ。
怖さで、足がすくんで動かなくなった。
そして、青ざめた顔のままそっと後ろに下がった。
(これは、飛び込めない)
目を瞑って、俺は首を横に振っていた。
だが、その瞬間俺はある事を感じた。
(うっ、寒いな)
窓が開いた瞬間、冬の外の空気が暖房で暖まった車内の空気を一気に冷やし始めていた。
同時に裸の俺に、寒気が襲っていた。