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メタトロンは、裂け目をじっと見ていた。
私は、この時代の人間では無い。
そして、メタトロンは私が送り返した少し未来から来ていた。
だからこそ、私はここでクロノスを起動させていた。
「ならばお前は、ここから帰れ!」
「では、全てに気づいたのですか」
「ああ、まだこの旅は続く」
「エウノミア様、あなたが気づいてくれて良かったです。
自分もこの時代に、来た意味がありました」
メタトロンは、服を着て真っ直ぐ私を見ていた。
「なあ、メタトロン」
「なんでしょうか?」
「私たちに、探せるだろうか?『最高の人材』を」
「人類を救済する『最高の人材』ですから、難しいかもしれませんね」
メタトロンは、正直に言い放った。
私が引っかかっていたことを、ズバリ言い放つ。
「手厳しいな」
「今のままでは、遭遇率は限りなくゼロパーセントでしょう」
「今のままでは?」
「ええ、ですが既に経験したのでしょう。
エウノミア様が、理解したのでしょう。この時代の人間を」
メタトロンの言葉に、今は理解できた。
私は静かに、首を縦に振っていた。
「うん。この時代の人間は、まだ分からないことが多い。
情報や歴史……全ては知っていた。
だけど感性や、経験は味わったことがないものばかりだ」
「自分たちがいた時代には、そもそも周りに人はいない。
『崩壊』が進み、多くの人類は消滅した。
あまりにも少ない人間の中で生きてきた私は、経験に乏しい。
空想だけでは、『最高の人材』を探すことは難しいだろう」
「そうだな、それは実感した」
私は、ディケーの言葉で思い出した。
消すことだけが、この時代でやることでは無い。
人間の形成に関わる他の人間が、どこかで影響していた。
人と人との重なりで、この世界は複雑に成り立っていた。
だから、私はまだまだ経験不足だ。
「メタトロンよ、まずはお前が戻れ。
愚かな選択をしようとする未来の私に、そのことを気づかせてくれ」
そんなメタトロンに、私は投げ渡していた。
これは、ディケーの持っていたクロノス端末。
「エウノミア様は、どうするのですか?」
「もう少しだけ、この時代の人間に関わってみる。
もっとサンプルが必要だし、まだ慌てる時間では無い。
大丈夫、私は時間逆説を起こすヘマはしない。
だから、もっと見てみたいのだ。この時代の人間を」
「分かりました、では伝えます」
そういいながら、メタトロンは空間の裂け目に右足を突っ込んだ。
「お気をつけて、エウノミア様」
「ああ、お前も頼む。私の目を、覚ましてあげてくれ」
そしてメタトロンは、裂け目の中に入っていった。
同時に、裂け目は消えて普通の公園に戻っていた。
私のそばには、ジャングルジムや滑り台の遊具が見えた。
(さて、この時代を見られるのは、2024年12月24日か。
それまで、この時代の人間を見定めるようにしようか。
私が消し去らなくてもいい人間に、なんとか出会えるといい……な)
少し眠くなった私は、自分の体を透明にしていた。
透明になった私は、夕方から夜へと変わる町へと繰り出していくのだった。




