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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
四話:最高の人材を求めて
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ディケーは、私の尊敬する先輩だ。

クロノスを作り、クロノスを初めて使用した人物。

月の研究所を、若くして任せられた偉大な所長。

何よりも、私が憧れて探して会いたかった人物。

そんな私の先輩が、どこかおかしい。私は疑問を持ったまま、先輩について行く。


病院の奥を、ドンドン進むディケー。その顔は、どこか浮かない。

私も透明になって、ついて行った先は三階の病室だった。

その病室にいるのは、一人の男だった。

ディケーはそれを見るなり、駆け寄っていた。


「大丈夫、痛みは?」

「心配ない」

ディケーの顔が、悲しみで歪む。


それを病室にいた男は、優しく迎え入れた。

男の見た目は、四十代ぐらいだろうか。

水色の病院のパジャマを着ていて、痩せ細っていた。

顔も頬がこけていて、髭が汚らしく生えていた。


「彼は?」透明な私が、そばにいたディケーに声をかけた。

透明になる私の声は、任意の人間しか聞くことが出来ない。


「あたしの夫」

「え?」ディケーは、夫という男に優しく寄り添っていた。

痩せ細った男に、そばで座って手を握るディケー。


その顔は、完全に女性の顔だ。

仕事の時のディケーはよく見ているが、これは女の顔だ。

そして、私は見た事の無い表情をディケーが見せていた。


「体調はどう?」

「今日は、少し軽いかな。痛みも無い」

「そう、よかった」

ディケーが、夫と呼んだ人物と声をかけていた。

ディケーの顔は、今まで見た事の無い悲しみと照れた顔を見せていた。


(なんだ、ディケーのこの顔は……)

私はディケーの見た事無い仕草に、ただただ驚いていた。

ティケーは一通り、夫の身の回りの世話をしていた。


花瓶の花を取り替え、窓を開けて空気の入れ替え。

夫に声をかける姿は、まさに良妻そのものだ。

テキパキと動くディケーに、私は困惑をしていた。


(一体何をしているんだ、先輩は?)

私は困惑していた。ディケーの動きは、この時代に来て明らかに変わっていた。

なんで、この時代は私たちを狂わせるんだ。

AIロボのメタトロンでさえ、おかしな方向に変わってしまう。

この時代に、何がまだ私の知らない秘密でもあるのだろうか。


間もなくして、夫から離れて私のそばに近づくディケー。


「エウノミアは、あたしのことを理解した?」

「ええ、ディケーが変わってしまったということ」

「あたしに起きたこの変化は、決して悪い変化では無い」

「なぜだ?ディケー様はこの時代で、『最高の人材』を探しに来た」

「そう、探しに来た」

「彼は『最高の人材』ではないの?」

「違うよ」首を横に振って、ディケーが言い放った。

私は、遠目でベッドに眠る弱々しい男性を見ていた。


「じゃあ、彼はなんなの?」

「だから、言っているでしょ。あたしの夫……だから」照れていたディケー。

「夫って……結婚したの?」

あたしがそばにいるディケー大きな声で言うと、ディケーは顔を真っ赤な顔にしていた。

コクコクと、縦に頭を何度も振っていた。


先輩の赤い顔を見て、私は透明の状態を解除した。

それと同時に、ディケーの方に突っかかった。


「なんですか、先輩は?

私たちが人類再構築計画で働いている最中に関わらず、勝手に結婚していたというのですか?」

憤った私は、真っ直ぐディケーを見ていた。

ディケーは顔が赤くても、しっかりとあたしを見ていた。


「よく聞いて欲しい。これは、任務放棄じゃない。

計画にとっても、必要なことだったの」

ディケーは、私の怒りを静めるように静かに言い返していた。

そんな私が突然現れたのを見て、病室のベッドの上の男は呟いた。


「何かあったのかい?」と。



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