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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
四話:最高の人材を求めて
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朝の病院の待合室は、多くの人が集まっていた。

長椅子で、私はディケーと一つ間隔を空けて座っていた。

この時代に流行った感染症の影響で、三人かけの長椅子には二人しか座れない。


月の研究所の所長。

ローラシア計画の最高責任者、ディケー。

私の憧れの先輩は、セーラー服ではない。


深緑のワンピースで、大人びた女性だ。

ポニーテールではあるものの、上品な顔で私を見ていた。


「エウノミア、研究所の守りご苦労様でした」

「いえ、私は守れませんでした」

「仕方ありませんよ。あの『崩壊』を、止めることは出来ませんから」

月を覆う滅び。白く絶望的な崩壊は、いかなる武器で求められない。

あの範囲に入った瞬間、消滅してしまう。

動物も、植物も、見える物全てが消滅してしまう。

真っ白な崩壊によって、何もなくなって無に返ってしまう。


「それにしても、ディケー様。どうして病院に?」

「あたしはね、大事な人がここにいるのよ」

「大事な人?」私が、オウム返しをした。

「うん、ここには大事な人が入院している。あたしはそのお見舞いに来たの」

「先輩に、そんな人がいたとは……いつ知り合ったのですか?」


「その前に、まずは謝らないといけない事があるの」

畏まった、ディケー。

目にはクマが見えて、疲れが見えた。


「謝る?」

「あたしは『最高の人材』を探すことを、一旦休止する」

「え?」

「あたしは、この時代でしばらく普通に生きることにしたの」

「なぜですか?『最高の人材』を探す私たちの目的はどうするのです?」

「それは、あなたに任せる。あなたは、あたしの可愛い後輩でしょ」

はにかんで、私に言い放つディケー。

大人びたティケーに、それでも険しい顔であたしは迫った。


「そんな事をしたら……私たちの時代はどうなりますか?」

「崩壊する未来を、あなたから直接聞いた。それが一番ね」

「でも、ローラシア計画は……」

「戻るためのクロノスを完成させないといけないし……それに必要な技術はこの時代には無い」

確かにここは、400年以上昔の時代。

テクノロジーは、私が生まれた時代より遥かに劣っていた。


「一つは、クロノスの完全体を作ること。そして……」

人間が愚かで、自らの手によって導かれた虚無の世界。

人類の進化の果てに、この未来が生まれた」

「それを防ぎ、人類の歴史を再び紡ぐために私たちは活動してきた!」

「落ち着いて、エウノミア。ここは病院、静かにする場所よ」

ディケーが、私に静かにするように促した。


病院という知識は、過去の歴史から知ることが出来た。

クロノスが入っていた端末から、学習していた。

それでも、私はじっとディケーを睨んでいた。


「そんなの、おかしいです」

「おかしくないわ。だって……人間は成長するから」

「成長はしません。この時代の人間から、私は学びました。

情報も集めて、そう結論づきました」

ディケーの言葉を、私は真っ向から否定した。


「サンプルからも、データが出ています。

人間は大人になっても、歳を重ねて老人になっても、成長はしません。

成長をするのは、根本的な人間の性格によるモノです」

「人格を形成しているのは、人間の生い立ち。

それが人間の性格形成の、重要なファクターを占める」

「分かっているなら、どうして『最高の人材』を探すのを諦めるのですか?」

「あの人が、長くないから」

そんな中、病院のアナウンスが流れた。


『受付番号2773、至急受付まで来てください』

アナウンスを聞いてディケーが、『2773』の受付番号の紙を持って立ち上がった。


「一緒に着いてきて、エウノミア。

その端末なら、自分の姿を透明になれるでしょ。

透明になってあたしについてきたら、あなたに説明するから」

ディケーに言われるまま、私はスマホで自分の体を……透明に変化させていた。



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