049
メタトロンを追放したのは、過去だ。
あの切れ目は、この時間軸では無い。
スマホ型時間移動装置は、簡易型とも言われていた。
裂け目に入った人間を、約十年前後の過去未来に飛ばすことが出来た。
そして、もう一つ。
このクロノスを使うことが出来るのは、この端末を持った人物だけ。
サポート役でこの時代にきたAIロボだけは、この端末を持っていない。
持っていないはずなのに、彼はスマホを持っていた。
しかも、そのスマホを見て驚いていた。
「それは、所長の?」
持っていた端末は、所長のスマホ。
私の憧れる人、ディケー。月の研究所にいた所長。
なぜ、メタトロンがこのスマホを持っていたのか分からない。
それ以上に分からないことが、ここに来たことだ。
「はい、託されました」
「託された?」
「あなたを救いに来ました。エウノミア様」
「私を救いに来た?」意味の分からないことを言うメタトロン。
だけど、メタトロンは真剣だ。
「ええ、エウノミア様に頼まれましたから」
「私は頼んでいない……筈」
「一つ、あなたに言わなければいけない事があります」
「な、何?」
「あなたには、『最高の人材』を探すには値しません」
「なによ、それ?」
「あなたは、この時代の人間をまだ知らなすぎます」
メタトロンは、淡々と続けた。
その声に、相変わらず抑揚は無い。
いつもクールで、冷静で、感情的では無い。
だけどメタトロンは私に逆らうことは、無かった。
そんなメタトロンが、私にはっきりとモノを言っていた。
その言葉を聞いて、私は流石に憮然とした顔を見せた。
「私は人間を調べた。
短い時間ではあったが、この時代の人間を調べる準備はしてきた。
そして、サンプルの確認は今のところ私の想像の域を超えていない。
成長しない愚かな人間の集まり。
この時代の人間は、減らしておかないと『最高の人材』が現れない」
「それは、無理だ」
メタトロンは、私の言葉をまたも否定した。
「どうして?」
「あなたは、人間を表面でしか捉えられていない。
それでは、成長しないこの時代の人間と同じ。
何も変らない、何も変ることは無い」
「では、あんたはどうするって言うの?」
私の質問に、すぐさまメタトロンが対応した。
ディケーのクロノス端末を使い、数分前の私と同じようなことをしてきた。
空間に、切れ目が出来た。
それは時空の切れ目。ここに飛び込むと、過去に戻ることができた。
「エウノミア様、ここに飛び込んでください」
メタトロンの言葉、後ろのエイレネーは静かに見守っていた。
「今度は、エウノミアちゃんが行く番じゃないかしら?」
「頭を冷ましに?」
「そう」エイレネーは、私を抱きつこうと両手を広げた。
それを華麗にスルーして、私は切れ目の方に近づく。
「分かった」
私は冷静を装いながら、切れ目の方に体を入れていった。
そのまま、私の体は切れ目の中……逆流する時の流れに身を委ねていた。




