046
――ケース3・柴島 栄五郎の場合――
柴島 栄五郎は、71才、独身。
23才で、教員免許。箕面学院中学部に赴任。
体育教師で、男子バスケ部顧問。29才で結婚するも、子供には恵まれず。
妻『敦子』は、55才の時に亡くなった。
その後は、公園の正面にある一軒家で一人暮らし。
だけど、妻が亡くなって5年後教師を60才で定年退職。
この辺りから、近所を騒がす老人として近隣から嫌われるように。
「彼は、昼間の公園で怒鳴り込んでいた。
近所から煙たがれていて、親戚も困惑していた。
その中で、唯一手を差し伸べた人物がいた」
「八人兄弟の六番目の子、興六郎ですね。
なんだか安直なネーミングですね」
「ええ、柴島家は子供の名前に数字を入れていたみたい。
二つ年の離れた弟の興六郎とは、子供の頃から一緒だった。
仲が一番良くて、弟の興六郎も兄を尊敬していた」
「柴島 興六郎は、大きな会社の経営者なのでしょう」
「ええ。一大で会社を築き、今は退いているけど相談役ね。
会社には大きな影響力を持ち、運転手付の車に乗っている。
それと対照的なのが、近所迷惑の兄。でも弟は尊敬していたみたいよ。
幼い頃の実体験が、彼の尊敬を集めていたみたい」
不思議なモノだ。
無職の老人を、一流会社の相談役が尊敬する。
兄弟で……先に生まれただけでそれを尊敬する。
人間の地位としては、明らかに低い人間を高い人間が尊敬するのは興味深い。
「栄五郎の話に戻るけど、彼は子供に叫んでいた。
公園で子供が遊んでいて怒っていた。怒鳴り込んでいたので、近隣住民が怖がっていた。
特に相手は主婦なので、いろいろ噂になっていたそうよ」
「なんで子供が嫌いなの?」
「子供が五月蠅いから。
そこで私は、彼と近くにいた興六郎を子供にした。
二人には、この公園にある思い出があったので……童心に戻らせて宝探しをさせた」
「無色空間を部分展開したのですね。流石エウノミアちゃん」
無色空間は、ガイアと呼ばれていた。
この空間は、色がモノクロになるだけじゃ無い。
見えない壁によって、対象を閉じ込めることが出来る。
壁の解除方法は、ガイアを展開した人間……つまり私たちだけ。
解除方法に設定したのが、彼らの記憶を覗いて宝探しを選択した。
「二人は、童心に戻って宝探しをした。
自分たちが埋めた、宝を探す。
子供の頃を思い出させて、栄五郎が嫌いになった子供のことを見てみた。
だけど、この問題はもっと根深い問題があったのよ」
「それは?」メタトロンが聞く。
「公園を運営する市との問題。
元々、栄五郎は出入り口を変更して欲しいと市に頼み込んでいたそう。
しかし、公園を運営する市側としては工事を断った。
それが不満の一つで、子供達に八つ当たりをしていたようね」
「理由があって、通らずに公園で子供を怒鳴りつけた」
「彼の意見が、少数派だった事も原因よ。
でも、それは問題解決には成らない」
私は、その言葉を断罪した。
エイレネーは私に同意したが、メタトロンは首を傾げた。
「それでも、市は動く必要はあったのでは?
この公園を工事するのは、資金的な問題ならいずれ出来るはず」
見えるのは、灰色の公園だ。
様々な遊具が、所々さびていた。
「この公園は、メンテナンスも行き届いていない。
お金を余りかけていないし……それに言っていたのは一人だけ」
「少数派だと、市は動けないでしょうね」
「でも、問題は残ったままです。
それとも入口を変えることに、なにか問題でも?」
メタトロンは食い下がらない。
だけど、私は周囲の公園を見ていた。
「無駄よ。少数派に聞く耳なんか持たない。
結局、ここの時代には……この社会には最高の人材はいなかった」
そういいながら、私はスマホを手にしていた。
険しい顔の私を見て、私の目の前にメタトロンが近づいてきた。
「まさか、やるのですか?」
黒スーツ男のメタトロンは、すぐさま私の右手を掴んでいた。




