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――ケース1・土室 樹の場合――
土室 樹は、バス運転手だ。29才、男性。
小学校のバスを運転する運転手、26才で大型二種免許取得。
21才から、『ひまわり保育園』のマイクロバスの運転手をしていた。
彼は、一つの失敗をした。
それはひまわり保育園で、バスの運転を終えて駐車場に止めたときに保育園児を置き去りにした。
置き去りにしたことで、彼は保育園をやめて……大型二種免許を取得した。
その後、彼は箕面学院小学部の専属バス運転手になった。
「ここまでのレポートに、間違いはないわね」
「そうですね、概ねあっています」
「彼に行なったのは、『退化情報』。
幼くして、子供の姿にしてバスの中に閉じ込めた」
「彼は、よく手抜きをするようですね」
エイレネーは、淡々とレポートを伝えた。
彼女は、既にこの時代にかなり来ていた。
私よりも詳しいし、土室の事もよく調べ上げていた。
「一度、バスに保育園児を置き去りにして……彼は仕事を失った。
それでも、また同じ資格を得て……結婚もして再起を図った。
だけど、再び同じ過ちを起こそうとした。
彼はバスの中の確認を怠り、バスを出ようとした。
それを、何度も目撃して……『退化情報』を使って試みた」
土室は、小さな体になってバスの脱出が自力では困難になった。
いかに知識があろうとも、バスを抜け出すにはあまりにも小さな体。
保育園児の体にしたことで、力が無くて開閉レバーを使えない。
そういう状態にして、彼をバスに監禁して鑑札をした。
「閉じ込められたとき、脳裏によぎったのだろうか」
「脳波の影響は、あります」メタトロンが答えた。
「つまり、22才の時の記憶は残っていると」
「はい」
「ならば、なんで確認を怠ったのでしょう?
最近の彼は、ずっと確認せずに……チェックだけをして出て行った?」
私は、エイレネーに答えを求めた。
「結論としまして、この時代は生き急ぐ忙しい時代です」
「忙しい時代?」
「ええ、忙しい時代。
この時代の人間は、常に時間に追われた世界。
時間が迫り、常に急ぐ世界。
彼も又、急いで次の仕事を終えないといけない。
それと、バスの運転手という仕事も関係していますね」
エイレネーが、考察を続けていた。
「つまりは、彼は忙しいから手を抜いた?」
「そうですね、『時は金なり』という諺もありますから」
「ふーん」私にはあまり、馴染みが無い。
諺自体は、知識として知っていた。
だけど、私たちの時代はそこまで忙しくない。
暇……というわけでは無いが、私たちの寿命が長くなったことが影響しているのかもしれない。
「この置き去りは、最悪は死を招くのではないか?
幼い子供は脱出も困難と聞くし、冬の季節になれば凍死、夏は熱中症で死ぬのではないか?」
「そうねー、そうかもしれないわね」
「だとしたら、かなりおかしな話だ。
命よりも、金よりも、時が大切だというのか?」
「はい」メタトロンは、はっきりと肯定した。
「なぜだ?なぜそこまで手間を惜しむ?」
「時間に追われ、常に冷静な判断が出来ません。
この時代の人間は、私たちと違ってもっと感情的です。
目先のモノを優先し、大局を見誤るようです」
「ふーむ、そうか」
それなら、少し理解できるかもしれない。
私たちの時代では、合理化がより求められていた。
人類が残した歴史と膨大な情報が、それを可能にした。
無駄なことはしないし、無理なこともしない。
時間は無限にあり、慌てる必要も無いからだ。
だとすれば、合理的で無いこの時代の人間がローラシア計画に必要なのも分かっていた。
「とにかく、彼『土室 樹』は最高の人材ではないのだな。
冷静な判断が出来ない、これは人間として大きな欠陥になる」
「そうですね」エイレネーは肯定し、メタトロンも同意した。
私はすぐさま、合理的に次の議論に話を出すことにした。
「次はエイレネーが、観察していた『泉尾 輝』について話をしよう」
私が言うと、エイレネーは頷いていた。




