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(EUNOMIA’S EYES)
――2459年12月24日・月の研究所――
地球の外を、月が回っている。
公転していた月は、地球の衛星だ。
地球から月を見るとき、様々な形で見えるという。
この時代になると月には、兎は住んでいないということがはっきり証明できた。
この時代に住んでいるのは、私のような人間だ。
そして、月には大きな建造物が建っていた。
『研究所』と呼ばれた黄色い無機質な壁で囲まれた、この建物に私一人だ。
真っ白な白衣を着ていた私は、巨大モニターのある部屋にいた。
モニターに映るのは、白い何かが月の表面を覆っていく映像。
白い何かは、研究所の外に迫っていた。
藍色のロングカールで白衣を着ていた私は、電子端末を持っていた。
頭には王冠のようなモノ被った若い女性の私は、焦っていた。
(ここも、もう終わりか)
私は、モニターを見ながら覚悟を決めていた。
白い何かは、『崩壊』と呼ばれるモノ。
人間が生み出し、人間を絶滅させようとしたモノ。
『崩壊』により、地球の表面は白く覆われた。
住んでいた人間は全滅し、他の星へと非難していき……次々と宇宙も消えていく。
残された最後の星こそ、この月だ。
そして、私こそ最後の残った人類だ。
(二人はまだか)
大画面のモニターを見ながら、私は唇をかみしめた。
近くには、小さな転送機が見えた。
下の台座には、珍しい有線ケーブルがいくつも繋がっていた。
(このままでは、人類は全て滅んでしまう)
崩壊は、確実にこの月の研究所に迫っていた。
崩壊の前では、全てが無力だ。
地上にいようが、海中にいようが、宇宙にいようが……全てを無に帰す。
金持ちであっても、貧しくても、偉い大統領も……等しく消滅していった。
この研究所でも、崩壊を食い止める研究をしていて……叶わなかった。
(だから、もう一つの研究を進めてきた)
私のスマホには、一つの画面が映し出されていた。
スマホの中に見えるのは、『人類再構築計画』の全貌。
そこでは、この研究所でもう一つの研究に切り替えた。
この時代では、世界の再構築の仕組みを知った。
宇宙はこの崩壊によって壊れるも、再び再構築する。
それを知った人類は、新たな計画を進めることにした。それがローラシアだ。
ローラシアに必要なモノは、たった一つ。
(最高の人材……それを探さないといけない)
世界の再構築で、新しい世界が出来上がる。
そのために、新しい世界にすむ人類の種を残す必要があった。
それが、ローラシアの最終的なゴールだ。
ローラシアが求める最高の人材を、探しに行った場所は……過去だ。
今から400年以上前の時代の人間の中から、最高の人材を探す。
今のこの時代には、時間移動装置も存在した。
クロノスで、何人も過去に送った。
それでも、誰一人としてこの時代に返ってきた者はいない。
そんな私は、『崩壊』が訪れるギリギリまで待っていた。
この研究所を預かる、副所長として。
しかし、『崩壊』は既に研究所に入ってきた。
白い何かが迫ると、その後ろには何も残らない。
「もう、来たか」
間もなく、モニターのある大きな部屋に近づいてくるのが見えた。
最高の人材は、届かなかった。
この研究所も、間もなく崩壊するのだ。
私という最後の人類も、ここで消滅してしまう。
私は、近くにあるクロノスの大型転送装置を見ていた。
(ここも、捨てるしか無いのか)
だけど、葛藤は無い。
私は、迷うこと無く大型転送装置に走って行く。
それと同時に、クロノス端末を持っていた。
崩壊が迫っていく。
全てを真っ白に変えて、私のいる場所も白く何も無くなった。
それでも私は、間一髪大型転送装置の上に乗った。
それと同時に、自動で起動するクロノス。
端末を操作すると、大型転送装置から光が上に上っていくのが見えた。
その光が私を包み込み、そのまま私は消えた。
崩壊する未来から、私は消えていった――




