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公園の入口が、一つだけあった。
箕面第四公園には、入口は一つしか無い。
その奥には、わしが住んでいた家が見えた。
だけど、見えない透明な壁にわしらは阻まれていた。
入口には、誰もいない。
抜けた住宅街の先にも、人の気配はない。
灰色の世界、わしと興六郎以外色のない世界。
「兄さん、いいの?」
「いろいろ思い出せた。わしがこの公園での思い出。
興六郎もいたから、わしは自分の古い記憶を呼び覚ますことが出来た。
むしろ、感謝している」
「いいや、僕も感謝している。
兄さんと久しぶりに、楽しく遊んだ気がしたから」
年老いて、一緒に遊ぶことはなくなった。
子供ではないし、大人でもない。
たまに一緒になっても、食事に行くぐらいだ。
そんな中で、興六郎と過ごした灰色の世界は貴重でもあった。
わしは、それは間違いないと思っていた。
「興六郎も、箕面に住まないのか?」
「仕事があるから、大阪市内から転居できないかな。
でも兄さんがいるから、僕は大阪に来たんだ」
「この場所が、どうしても忘れられなかったんだな」
淀川に助けられた、この公園。
初めて、人の優しさを両親以外から知った場所。
そんな場所を知って、わしは感謝しないといけない。
(この場所は、やはり残さないといけない)
わしはそう決心し、ゆっくりと公園の入口の鉄の柵を抜けた。
抜けた瞬間、わしの体が変化していく。
体が大きくなって、大人になって、そして小さく腰が曲がって老人になった。
弟の興六郎もまた、同じような変化で……スーツ姿の老人に変わった。
そして見えたのは、色のある世界だ。
モノクロの世界から、わしと興六郎は無事に出ることが出来た。
「帰って……きたか」
「ええ、何か長い夢を見ていたかのようなそんな気分だよ」
「全くだ」
わしは、色のついた町並みを見ていた。
町並みには、人が歩いているのが見えた。
そして目に飛び込んできたのは、わしの家だ。
公園の入口前で、黒い車も止まっていた。
「会長、ご無事でしたか?」
そこには車の運転手と思えた一人の男性が、近づいてきた。




