038
二人がいなくなって、また兄弟二人きりの公園だ。
わしと興六郎、二人きり砂場で穴を掘っていた。
砂場では、いくつもの穴が見えた。
でも、肝心の宝はまだ見つからない。
それでも、公園の周りにある透明な壁。
おそらく宝物を探さないと、出ることが出来ないだろう。
他にヒントもないので、穴を掘り進めるしかなかった。
「掘り出した事って?なかった」
「ない」
わしと興六郎は、喋りながら砂場を掘り進めた。
「でも、淀川さんの年齢って今の兄さんぐらい」
「お前も、わしと変わらないだろ」
「そうかな?」
わしらは、淀川に救われた過去があった。
迷子のわしら兄弟に、声をかけてくれた大阪の老人。
淀川に、わしは思い出があった。
60年以上前のことだけど、こうやってはっきり覚えていた。
しかも、翌年わざわざこの場所に来ていた。
そこで埋めたのが、今探している宝。
「あっ」反応したのはわしだ。
手に何か、硬いモノが当たったのを感じた。
一気に掘り起こすわしは、とうとう辿り着いた。
それはクッキーが入った、古ぼけた缶。
直方体の缶を見つけて、わしは持ち上げた。
「これだね」
「あー、そうだった。これだ」
やはり、現物を見たらはっきりと思い出した。
このクッキーの空き缶は、父親の家にあったいらないアルミの缶。
お歳暮にもらったらしく、その缶を使って宝箱を入れていた。
とうとう見つけた宝箱に、わしも弟も目がキラキラと輝いていた。
胸も、子供の時のようにドキドキして高鳴っていた。
「いいか、開けるぞ」
わしは、息をのんで缶の蓋に手をかけた。
隣で興六郎が、箱の中を覗き込むように見ていた。




