037
――2024年12月24日――
話す余地がなかった。
市が、何もしないと言うこと。
市は、自分たちの都合の良くやっているとうこと。
市の、動かない苛立ち。
全てがわしを、怒りに向けてきた。
黒いスーツの男に言っても、何にも変わらない。
この男が、市と関係ないこともわしはすぐに分かっていた。
でも、どうしても言いたかった。
わしが言おうとしたことを、誰も聞いてくれないからだ。
一部始終聞いた黒いスーツの男は、頷いた。
「なるほど、あなたには正義があるのですね」
「当たり前だ。
だけど少数の意見は、絶対に無視される。それが今の日本だ」
憤っていたわしは、男に言い放った。
「だが、忘れていたようじゃ。
わしは、この『箕面第四公園』に恨みがあったわけじゃない。
あくまで、市が対応さえしてくれればそれだけでよかった」
その顔を見て、どこか落胆していた。
隣で、興六郎もわしの話をじっと聞いていた。
「そうじゃな。きっとこの家を建てたのも……幼いころの思い入れがあったのじゃろう」
大人になって、北海道からわしはここにやってきた。
箕面や近辺の街で、体育教師として生計を立てた。
子供には恵まれ無かったが、普通の家庭は作れたと思う。
だが、50で教師を辞めてそこからこじらせたのも事実だ。
「嫌なことを、また思い出させるな」
恨めしそうな顔で、黒いスーツの男を睨む。
それでも、黒いスーツは黙って聞いていた。
「そうか」
「それを聞いて、何になる?お前だって、市と同じで何もしないだろう」
「確かに自分は、助けになれない。だが……」
「兄さん、そういうことはちゃんと言ってよ」
隣にいた興六郎は、哀しそうな顔を見せていた。
わしが言わなかった、迷惑老人の真実。
改善されることもないし、興六郎に改善することも出来ない。
唯一の理解者である興六郎には、言いたくなかったのだ。
「すまんな、忘れてくれ」
「理解したぞ、お前の事」
そう言うと、公園の外に出て行く黒いスーツの男。
いつの間にか、怒り老人である淀川の姿がこの公園の中にはなかった。
透明な壁をすり抜けた男に、わしは走り出した。
「お前、どこに行く?」
だけど公園の外に、無言で出て行く黒いスーツの男。
わしは、追いかけたが公園の入口にある見えない壁に阻まれた。
「ううっ、出られぬか」
黒スーツ男は出られて、わしはやはりこの公園を出ることは出来なかった。
追いかけたわしの後ろ姿を、興六郎はただ砂場で眺めていた。




